日産、三菱、ホンダ 「非トヨタ連合」は絵空事ではない

文春オンライン / 2019年3月12日 6時0分

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トランプ大統領 ©JMPA

 日本の自動車産業はいま、2つの大きなリスクに直面している。まずは地政学的なリスクだ。米中貿易摩擦は、「ハイテク戦争」の一面があり、たとえば、中国通信機器大手ファーウェイのCFO身柄拘束問題は、次世代通信規格5Gの技術で先行すると言われる中国に対する米国のけん制とも見て取れる。

 米中摩擦は日本の自動車産業にとって他人事ではない。5Gなどの通信技術は、コネクテッドカー(インターネットと常時つながるクルマ)とも深く関わっている。また、中国では百度(バイドゥ)が中心となって、人工知能(AI)を駆使した自動運転技術の発展のための「アポロ計画」を推進しているが、こうしたプロジェクトに日本企業が参加することに対して、最大の同盟国である米国は快く思っていないはずだ。

 米国は「国防権限法」によって中国への技術漏洩を阻止する動きを強めており、政府調達からファーウェイなど中国のハイテク企業を外すことを決め、現に日本政府もこれに追随する動きを見せている。特に、自動運転や燃料電池の技術は軍事に転用されやすいことから米国が神経を尖らせている分野だとされる。

 中国市場欲しさから安易に中国企業とハイテク分野で手を組めば、近く開始される日米物品貿易協定(TAG)の交渉で、米国から「自動車の関税を引き上げるぞ」といった恫喝を受けるかもしれない。これまでのトランプ大統領の政治手法からは十分に想定される米国の出方だ。

 また、NAFTA(北米自由貿易協定)が見直されたことで、日本の自動車メーカーは現地調達率を引き上げなければならなくなった。すでにトヨタ自動車は、国内生産していたハイブリッド車の基幹部品を米国に移すことを検討している。日本の自動車メーカーは、カナダ、米国、メキシコの3カ国に部品や完成車の生産拠点を持ち、補完し合うサプライチェーンを構築してきたが、それを見直さなければならず、コスト増につながるであろう。

「何台売ったか」よりも「何キロ乗せたか」が問われる時代

 続いて技術革新のリスクだ。これは異業種との競争が加速することで、これまでの「競争のルール」が変わるリスクとも言えるだろう。米グーグルや米アップルが自動運転分野に参入し、次世代自動車の基本ソフト(OS)で覇権を握ろうとする動きも見え隠れしている。クルマを保有するものから利用するものへと消費者の価値観を転換させたライドシェアの米ウーバーや、カーシェア企業も台頭したことで、自動車産業のビジネスモデルは、「何台売ったか」よりも「何キロ乗せたか」が問われる時代になった。

衰退が著しいホンダの「課題」とは

 自動車産業がこうした現状にある中、日本の自動車メーカーは「元気」がない。なかでも、創業者である本田宗一郎氏のイメージから、斬新なアイデアと常識にとらわれない商品戦略によって、新機軸を打ち出す会社と見られてきたホンダの衰退が著しい。

 直近の決算である2018年4~12月期の四輪事業の売上高は8兆3749億円、営業利益は2627億円で、営業利益率は3.1%と、日産(3.7%)よりも低い。さらに同10~12月期の3カ月だけでみると営業利益率はわずか1.4%なのだ。

 最近のホンダは、国内専用の軽自動車「N-BOX」シリーズ以外のヒット車がないのが実情。その軽自動車事業も「儲かっておらず赤字に近い状況」(ホンダ関係者)という。また、ホンダは北米市場で稼いできたが、北米での売れ筋が「セダン」から、「ライトトラック」と呼ばれる大型のSUVやピックアップトラックに移ったことで、収益性に陰りがみられる。

 ホンダの低収益性の主な要因は、過剰設備と開発コストの高さだ。ホンダの八郷隆弘社長は今年2月、英国工場の閉鎖を発表したが、これは「ブレグジット(英国のEUからの離脱)」が直接の原因ではなく、グローバル展開で過剰設備と過剰人員に悩むホンダが、生産能力の最適化を計画する中で出てきた計画で、「ブレグジット」が背中を押したに過ぎない。

 ただ、ホンダには営業利益率15.3%を誇る稼ぎ頭の二輪事業がある。この二輪が四輪を食わせてあげる形になっているので、何とか救われているのだ。ホンダOBや現役社員からは「四輪は抜本的な構造改革をしなければいずれ赤字に陥る」との声が出始めている。

 ホンダの四輪事業の不振で窮地に陥りそうなのが系列部品メーカーだ。「今のままでは下請け部品メーカーの経営が行き詰まる」とホンダ関係者は言う。実際、ホンダ幹部によると、複数の系列企業をドイツの巨大部品メーカーであるコンチネンタルに丸ごと売却する構想もあったが、条件面で折り合わず、頓挫したという。実際、ホンダ系でブレーキ部品を造る日信工業は、ホンダ向けだけでは事業が成り立たなくなると見て、欧州の大手部品メーカーと業務提携をして生き残りを模索している。

 ホンダで役員を経験した有力OBも「自動車産業の実力はいかに優れた部品を造れるかにかかっている面もある。そうした視点からも部品産業を国内に残す戦略が今こそ求められている」と語る。国内では「勝ち組」と見られるデンソーやアイシン精機などトヨタ系部品メーカーも生き残りをかけてグループ内での再編を加速させている。

日産、三菱、ホンダ「非トヨタ連合」は絵空ごとではない

 こうした動きに対してこんな見方もある。「日産系、三菱系、ホンダ系の部品メーカーが開発や調達で緩やかな連携を組むことで、ルノーなしでも規模の利益が得られる。これに加え、電動化時代には欠かせないモーターでグローバル展開を進める日本電産を仲間に取り込むと面白い連合になるのではないか」(同前)。日本電産には日産OBが多く流れており、現社長の吉本浩之氏も日産出身だ。

 こうした新たな連携を作るためには、「親」にあたる日産、三菱、ホンダの連携は欠かせない。「非トヨタ連合」の結成というわけだ。動物の世界では「天敵」が滅びると、かえって繁殖しすぎて種が絶滅の危機に瀕することがある。それと同様で、国内に開発拠点を残す二大グループが競い合うことで産業の健全な発展は見込める。

 こうした発想は絵空事ではない。ホンダのメインバンク三菱UFJ銀行は、四輪事業が赤字に陥れば介入する準備をしている。同行はホンダ系列に資金を貸しているからだ。ホンダの経営が悪化した1990年代前半、メインバンクが同じ三菱銀行(当時)である三菱とホンダの合併が画策されたこともあったという。

日産「ゴーン事件」と「ドル箱」事業の不振

 日産自動車の方も、昨年11月19日に発覚した「カルロス・ゴーン事件」が話題に上るだけで、本業はぱっとしない。コスト削減を重視したゴーン前会長の戦略が裏目に出て、クルマの商品力が下がり、値引きしないと売れないクルマしか造れなくなった。車種も大きく絞り込んだことから、昨年1年間は国内市場に新型車が一車種も投入されなかった。

 日産はこれまで稼いできた米国や中国での販売が落ち込み始めたことで、西川廣人社長兼CEOは2月12日、19年3月期決算の業績見通しを大幅に下方修正した。

 中でも深刻なのが「ドル箱」北米事業の不振だ。18年4~12月期決算での北米販売は、トヨタが2%減の約210万台、ホンダが1.4%増の144万台に対して、日産は8.5%減の143万台で、落ち込み幅は日産が最も大きい。

 本業のもうけを示す北米の営業利益も、トヨタが2.7%減の1637億円、ホンダが3.3%増の2138億円、日産が15.3%増の1149億円だ。日産は無茶な値引きをやめたことで何とか増益を確保したものの、販売台数がほぼ同じのホンダの半分程度しかない。

 この理由は、北米でトヨタやホンダに比べてブランド力が弱い日産はこれまで、値引き販売を行って台数を確保してきたため、収益性が低くなっているためだ。トヨタやホンダの車種平均の値引き(インセンティブ)額が2000ドル台であるのに対して日産は4000ドル台と2倍近い。率直に言って、日産は北米でのシェアを無理な値引きで獲得してきたのだ。

 北米への輸出拠点で、日産で国内最大の生産拠点がある九州工場(福岡県苅田町)はいま、深刻な稼働率の低さに直面し、下請け部品メーカーの中には赤字に転落しそうなところも出ている。

日産の業績は低迷、さらに下振れのリスクも

 日産の低迷はルノーの業績も直撃する。ルノーの18年1~12月期決算は、売上高、純利益ともに前年同期比で減少。売上高は6年ぶり、純利益は5年ぶりの前年割れとなった。純利益33億200万ユーロのうち47%に当たる15億4000万ユーロが日産からの「持ち分法投資利益」で、日産の業績悪化に伴いこの利益は45%も減少している。

 日産の業績は低迷し、さらに下振れのリスクもある。「三社連合」の中核を成す日産の衰退は、「三社連合」自体が弱者連合に転落しかねないことを意味し、業界再編のターゲットになる。自動車産業は生き馬の目を抜く世界であり、動きは速いのだ。

「ゴーン事件」に関しては、これから4月8日の臨時株主総会でゴーン氏の取締役解任などの「儀式」があり、世間の耳目を引くだろう。初公判が始まれば、これもまた大きな騒ぎとなるだろう。しかし、西川社長の本音は、「ゴーン事件」は過去の話であり、早く忘れて、本業再建の道筋をつけたい、といったところではないか。

 しかし、本業再建は容易ではないと筆者は感じる。現場の士気は下がり、人材の流出も始まっている。いま、日産の生産拠点などで何が起こっているのか、現場を歩いて探ってみた。

 すると想像以上に、ゴーン事件に揺れる日産の失態のしわ寄せが、子会社・孫会社にも及んでいることがはっきりと見て取れた。なんと当初計画から二割近い減産に追い込まれた下請けメーカーや、孫受けの半数が赤字に転落したところもあった。

 その悲惨な現実を記したレポート「日産・ホンダ連合が誕生する日」を 「文藝春秋」4月号 に寄稿しているので、併せて読んで頂ければ幸いである。

 

(井上 久男/文藝春秋 2019年4月号)

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