対馬の「せん団子」、伊豆の「潮かつお」……47都道府県の発酵食品、奥深い世界

文春オンライン / 2019年4月25日 11時0分

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小倉ヒラクさん

 東京の渋谷ヒカリエで47都道府県の発酵食品が一堂に会する展覧会が4月26日から開催される。全国を巡り各都道府県を代表する発酵食品を選んだのは、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんだ。

「約8カ月に及ぶ旅で自分に課したのは、まず発酵食品の種類が重ならないようにすることでした。つまり日本酒や醤油は1回しか選べません。もう一つはその土地のルーツに根ざしたものを選ぶことです。昔からその土地のコミュニティで受容されてきたもの、その発酵食品を通じて、それを作り出さなければならなかった土地の暮らしぶりが見えてくるものを掘り起こすようにしました。

 たとえば、今回出展される長崎県対馬列島の〈せん団子〉。さつまいものでんぷん質をものすごい手間をかけて取り出して作る発酵食品で、展覧会で実物を見たら、〈なんでこんなものを作ったんだ!?〉と思うはずです。でもこの〈!?〉がそれを生み出した土地の気候風土や歴史、暮らしぶりを探る出発点になるんです。〈せん団子〉からは対馬の〈寒さ〉が見えてきます。対馬は冬、寒い海風にさらされるのですが、さつまいもは普通の食べ物とは違って、気温が10度以下になると腐ります。対馬ではお米もあまり取れないから、貴重なエネルギー源であるさつまいもを寒い冬でも腐らないようにしなければならない。それでできたのが発酵させて保存食にした〈せん団子〉なんです。展覧会では〈!?〉を喚起する謎の物体から、それぞれの土地の暮らしぶりを辿れるようにしました」

ディープでマイナーな発酵食品の世界

 選ばれた発酵食品には、その土地でしか知られていないものも多い。

「青森県の〈ごど〉は十和田湖周辺のお母さんたちだけが作っているものです。まず納豆を作って、それに麹とごはんを混ぜて麹発酵させ、その後、乳酸菌が入ってきて、ちょっと酸っぱくなっていくという不思議な食べ物です。宮崎県の〈むかでのり〉は日南海岸の南のお年寄りだけが作っているもので、トゲキリンサイという海藻で作った寒天を味噌漬けしたもの。静岡県西伊豆町田子の〈潮かつお〉は1000年以上前からある食べ物で、かつおぶしの原形です。かつおを塩につけて、1本まるごと軒先に干したものです」

 そのような発酵食品を選んだのは、奇を衒(てら)おうとしてのことではない。

「発酵食品は、その土地の味覚や暮らしぶりの記憶が保存された、いわばアーカイブです。かなりディープでマイナーな発酵食品をあえて選んだのは、この土地だからこそできることを探したいとき、ひいては見た人が自分がいる場所で面白いことを始めたいときに非常に貴重で重要なヒントを与えてくれると考えているからです」

おぐらひらく/1983年生まれ。東京農業大学で研究生として発酵学を学び、山梨県甲州市に発酵ラボを開設。2017年に発表した 『発酵文化人類学』(木楽舎) は3万部を超えた。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、様々な活動をしている。

INFORMATION

「Fermentation Tourism NIPPON」
2019年4月26日から7月8日まで渋谷ヒカリエ8F・d47 MUSEUMで開催(11時~20時 入場無料)。
会期中は併設のd47食堂で出展された発酵食品を使った定食が出されるほか、発酵食品をつまみに発酵酒を楽しむ「角打ち」企画やトークイベントなども行われる
https://static.d-department.com/jp/fermentation-tourism-nippon

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年4月18日号)

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