「文在寅政権は無能!」「金正恩より残酷!」過激な批判をし続ける“謎の韓国議員”の正体

文春オンライン / 2019年4月19日 6時0分

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韓国の文在寅大統領 ©getty

 文在寅(ムンジェイン)政権が大々的に演出して行われた「第100周年 大韓民国臨時政府樹立記念式」の様子は先日レポートした( 韓国は“反日”をエンターテインメントにしている――現地イベント潜入ルポ )。

 それから2日後の4月13日、韓国・ソウル駅前には大勢の人が集まっていた。彼ら(主に高齢層の男女)は一様に太極旗(韓国の国旗)を手にし、口々にこう叫んでいた。

「パク、クネ! 大、統、領!」「パク、クネ! 大、統、領!」「(文在寅政権は)殺人的な政治報復、政治的な人身監禁は即刻中断しろ!」

 この日、行われていたのは「太極旗デモ」と呼ばれる集会だ。日本では、朴槿恵(パククネ)前大統領を退陣に追い込んだ市民たちの「ろうそくデモ」が有名だが、それが進歩派(左派)の集会であるのに対し、この「太極旗デモ」は保守派(右派)の集まりである。

 彼らが主張しているのは、職権乱用などの罪で拘束・監禁されている朴槿恵氏の「無罪釈放」だ。道行く人々に釈放を求める署名を集めたり、ピンバッジなどの“グッズ”を販売したりもしていた。また、朴槿恵氏が拘束満期を迎える4月16日~17日、この集団は彼女が収監されているソウル拘置所の前で1泊2日の“泊まり込みデモ”も敢行した。分かりやすく言えば、彼らは文在寅政権を憎む“朴槿恵ファン”なのである。

誰よりも過激な“文在寅批判”を展開

 はためく太極旗と、支持者たちの「パク、クネ!」というシュプレヒコール。その喧噪の中に、多くのデモの参加者から写真撮影を求められているスーツ姿の人物がいた。名前は、趙源震(チョウォンジン)氏。この日の「太極旗デモ」を主催する極右政党・大韓愛国党の代表を務める国会議員である。

「大韓愛国党は政党とはいえ2017年に結成されたばかりで、国会議員は代表の趙氏1人だけ。趙氏は元々、朴槿恵前大統領のセヌリ党に所属していましたが、朴槿恵氏に“崔順実(チェスンシル)ゲート事件”が起こると、セヌリ党はイメージ刷新のために『自由韓国党』と改名。すると趙氏は離党し、大韓愛国党を結成しました。大韓愛国党は、政党としては全国組織さえない“泡沫中の泡沫”ですが、趙氏自身は演説をすれば弁が立つ上に過激な発言をするので、一般的には“イロモノ”扱いですが、最近は右派の高齢層を中心に人気が出てきつつあります。また、この趙氏は朴槿恵氏の忠実な子分で、かつては“親朴の核心”とまで呼ばれていました。彼女が弾劾された直後には『朴槿恵を愛する人たちの会』なる組織を立ち上げてもいます。一貫して『(朴槿恵は)無罪である』と主張し続けています」(在韓ジャーナリスト)

 趙議員は、日本ではあまり知られていない謎に包まれた人物だ。しかし、実は今、趙氏は誰よりも過激な文在寅批判を繰り広げ、注目を集めつつある。

 昨年12月、趙議員は街頭演説で次のように述べている。

「文在寅政権は無能な程度を超えました! 経済惨事、人事惨事、教育惨事、外交惨事……など、“惨事共和国”を作ってしまった文在寅政権を追い出さなければ、大韓民国が立ち上がることはできない!」

 そして、今月15日には記者会見で次のようにも述べている。

「朴槿恵大統領に対する週4回、1日10時間の裁判は(北朝鮮の)金正恩(キムジョンウン)政権よりも残忍な政治報復であるし、殺人的な人身監禁だ!」

 そんな趙議員が、最近、全国的に注目されるようになったきっかけが、今月4日に発生した韓国北東部・江原道(カンウォンド)で発生した大規模な山火事だ。日本でも、X JAPANのYOSHIKIが1億ウォン(約1000万円)を寄付するなど、大々的に報じられた。趙議員は9日に開かれた国会で、「この山火事への政府の対応が遅かった」とし、次のように質問して物議を醸したのだ。

「(山火事が発生した日の)午後11時11分に会議が始まったのに、何故VIP(文在寅大統領)は午前0時20分に会議に出席したのか? 酒に酔っていたのか? その内容をお聞きしたい」

 趙議員が「(文在寅が)酒に酔っていたのか?」と発言したことには理由がある。実は、韓国の保守系YouTube番組が、「文在寅大統領は山火事の当日にメディアの社長たちと酒を飲んでいた」などと放送していたのだ。趙議員はおそらくこれを見た上で質問したのだろう。

 青瓦台(大統領府)はこのYouTubeの内容に反発。「フェイクニュースである」と断定した上で、「山火事当日の文在寅大統領の行動に関する虚偽操作情報に対し、厳正な法執行が成されなければならない」と、YouTubeへの対抗措置を宣言した。しかし、フェイクニュースに乗っかって質問をした趙議員については特にお咎めなし。結果として、趙議員は名前が売れた。YouTubeの内容に言及したのは、目立つための意図的な作戦だったのだろう。

モチベーションは「怒り」と「憎しみ」

 趙議員は今後を見据え、こう息巻いている。

〈私たちは大変だが、希望を見ている。大韓愛国党にノックする政治家、野党政治家たちは多い。大韓愛国党は国民だけを見つめてきた。信頼の政治、背信なき政治、責任を負う政治をするだろう。大韓愛国党は来年の総選挙で一大波乱を起こすだろう!〉(4月14日付け「大邱新聞」のインタビュー)

 しかし、現実の状況は厳しい。今、文在寅政権の支持率が下がってきているとはいえ、韓国では保守派野党への期待も未だに少ない上に、大韓愛国党の存在はあまりにも小さすぎる。

 さらに、現状をひっくり返すには保守派政党が連立して進歩派に対抗しなければならないが、趙議員の大韓愛国党は古巣・自由韓国党を批判し、協力を拒んでいる。つまり、“保守分裂”が起こっているのだ。実際、4月3日に行われた慶尚南道・昌原(チャンウォン)の国会議員補欠選挙では、自由韓国党の候補と大韓愛国党の候補が並立したため票が割れ、進歩政党の候補が当選する結果となってしまった。

 趙議員の数々の言動を見て分かる通り、彼のモチベーションは文在寅政権への「怒り」と「憎しみ」である。趙議員は「文在寅政権が朴槿恵元大統領に殺人的な政治報復をしている」と主張しているが、仮に将来、進歩政権から保守政権に代われば、現政権に対する“新たなる政治的報復”が行われる可能性は極めて高いだろう。こうした負の連鎖が延々と続く韓国の政治的構図にこそ最大の問題があるように思える。

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『文藝春秋』4月号に掲載された「『日韓断交』完全シミュレーション」では、文在寅政権の本質・韓国社会が孕む問題点・日本が取るべき姿勢などの論点で、5人の“韓国のプロ”が議論を重ねている。有識者の知見を借りれば、日々の韓国ニュースの本質が見えてくるかもしれない。
 

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年4月号)

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