知っていますか? 性犯罪被害を訴えるとき、被害者が経験すること

文春オンライン / 2019年4月28日 17時0分

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 性犯罪の無罪判決が立て続けに報道され、SNSでは司法に対する不信の声が湧き上がった。性犯罪被害者が、公判で有罪判決を得るためにはクリアしなければならないハードルがいくつもある。さらに、性犯罪には特有の事情があって、被害者の負担は非常に大きい。

 実際に、性犯罪の被害に遭って、これから訴訟になる――。そうしたときに具体的に何が起こるのか、被害者側につく被害者参加弁護士を務めた経験から紹介したい(刑事事件で被害者側に弁護士がつくことを不思議に思う方もいるかもしれないが、詳細は後述する)。

何度も事情聴取をするか、起訴されないかの二択

 犯罪被害者が警察に相談したら、最低限でも警察で1回、検察で1回事情聴取を受け、供述調書を作ってもらわなければ起訴することができない。よく知られていることだが、この事情聴取が被害者にとってはキツい作業だ。

 2005年に始まった犯罪被害者等基本計画は、現在、第3次計画になっており、捜査機関の性犯罪被害者に対する配慮の状況は格段に進歩している。

 しかし、被害者が、性行為そのものについての質問には答えないと証拠にならない。どのような暴行脅迫を受けたか、性交時に避妊具を使用したか否かなどといった非常に具体的なレベルで、つらい記憶を掘り起こさなければならないので、被害者の負担になるのは言うまでもない。

 また、警察官が加害者役となって、警察署で、人形相手に犯行再現をし、何枚も写真を撮るのが通常である。

 性犯罪の被害者は、ほぼ全員が急性ストレス障害かPTSDになっており、「解離」といって頭が真っ白になって何も話すことができなくなったり、身体が硬直して何も思い出せなくなることがある。解離症状が事情聴取の最中に出れば、起訴に必要な供述をすることができなくなるので、何度も事情聴取をするか、起訴されないかの二択となる。

起訴後も安心できない、加害者に名前を知られる恐怖

 起訴することができる証拠がそろってからも、被害者は恐怖を乗り越えなければならない。

 起訴状には被害者の氏名と、性犯罪の場合は年齢が記載される。現在の刑事訴訟法上、加害者には起訴状を送達しなければならない。

 被害者にとってみれば、わざわざ氏名を加害者に知られることの恐怖は強い。被害者が、加害者からの仕返しをおそれるのは当然だ。氏名が加害者に知られることの抵抗感から、起訴を断念する被害者は当然いる。

 起訴状に氏名を記載することの問題は国も理解している。この問題は、2016年刑事訴訟法改正の際の附則、2017年7月の刑法改正の際の附帯決議でも触れられており、現在、法曹三者や警察庁の間で協議が進められている。

 残念ながら、起訴状を匿名化すると、被告人の防御権を害するという理由で、一部反対意見もある。しかし、インターネットの発達により、容易に個人を探し当てることが可能な現代では、性犯罪被害者が安心して生活できるよう、現実に即した内容に法改正をする必要があると私は思う。

考えなければならない「被害弁償」のこと

 2017年7月の刑法改正により、性犯罪は親告罪から非親告罪になった。これは、言い換えれば、以前は性犯罪については、被害者からの告訴がなければ検事は起訴できなかったが、刑法改正後は告訴がなくても起訴できるようになったということである。しかし、検察庁の通達により、被害者が起訴前に示談した場合、加害者は不起訴となり前科もつかないという状況は続いている。

 性犯罪では、起訴前に被害者と加害者が示談し、不起訴になるケースが多い、というイメージがあるかもしれない。しかし、実際には示談のほか、起訴前や起訴後に被害者に被害弁償(※)が支払われるケースもある。

 起訴前に被害弁償が行われる場合、被害弁償額は高額だが、不起訴になり、加害者に前科はつかない。起訴後判決前に被害弁償が支払われると、有罪判決が出れば加害者に前科はつくが、被害弁償の支払いが考慮され、刑が軽くなる。判決後は加害者が任意に支払わなくなる可能性が非常に高い。

※…「被害弁償」とは、加害者が被害者に被害の弁償をすること。示談の際に支払われる「示談金」とは違い、裁判外での和解という意味を含まない。なお、示談は、裁判外での和解という意味を含むので、加害者が被害者に金銭を支払い、被害者が加害者を「宥恕する(許す)」「寛大な処分を求める」などの言葉がある書面を、加害者との間で作成するのが通常である。

 前科がつくのは嫌、という加害者の意向を受けて、加害者側の刑事弁護人は、なんとかして起訴前に被害者に接触しようとする。加害者側の弁護人が被害者に接触するときは、検察官や警察を通じて、被害者に、連絡を取ってよいかどうかを確認し、初動では直接連絡しないのがセオリーである。性犯罪の被害弁償では、とても気を遣う刑事弁護人がほとんどだ。

 しかし、被害者の親の勤務先や、一人暮らしの被害者の実家に手紙を送ったり、被害者の連絡先を興信所を使って調べる弁護人もいる。被害者に弁護士がついていない状況を利用して、うまくやろうという弁護人がいるのは残念ながら真実だ。

示談を迫る弁護士の言うことは本当なのか

 被害者が加害者側の弁護人に「示談しないと、被害者は公判廷で供述しなければならない」と言われる場合もある。被害者が公判廷で供述することはやはり精神的な負担が重いので、このように言われて起訴を迷う被害者も多い。しかし、前出の発言は法律上は正しいのだが、確率論としては真実でないこともある。

 被害者は、犯罪事実の重要な証人である。刑事訴訟法上、証人の言葉は、公判廷で証人尋問を受けてはじめて証拠となる。被害者が、捜査段階で、警察・検察で作ってもらった供述調書を、裁判で証拠にできるのは、法律的には例外である。

 しかし、検察官が被害者の調書で立証することに、加害者側が同意すれば、被害者を証人尋問する必要はない。

 起訴前に示談の申入れをするのは、ほとんどが自白事件である。自白事件では、被告人は刑が軽くなることを期待し、裁判所の心証を良くしたいと思っている。裁判所は、性犯罪被害者を公判で証人尋問するというと非常にいやな顔をするので、自白事件の被告人は、調書を裁判で証拠にすることに同意することが多い。

 このような理由により、捜査段階で、被害弁償の申入れがあった事件では、公判では供述調書の提出が認められることが多い。とすると、示談しなかったからといって、被害者が公判廷で供述することになるとも限らないのだ。

判断しなければならないことが山積み

 ここまで見てきただけでも、起訴にあたって被害者が考えなければならないことが山積みであることがおわかりいただけるだろうか。被害弁償を受け取るべきかどうか。受け取るのならば、どのタイミングで受け取るべきなのか。起訴するとして、自分が公判廷で証言しなければならなくなる確率はどのくらいのものか。こうした様々なことを被害者自身が判断するのは困難だ。では一体どうすればよいのか。

「被害者参加弁護士」の存在

 被害者が自分に弁護士をつければよいのだ。

「刑事事件で被害者に弁護士がつくのか?」と不思議に思う方もいるかもしれない。一般にはまだまだ知られていないが、10年前の法改正により、「被害者参加制度」というものができた。これは、簡単に言えば、一定の犯罪の被害者等が、裁判所の決定により、公判期日に出席し、被告人に対する質問を行うなど、刑事裁判に直接参加することができる制度である。

 強制わいせつ、強制性交等の性犯罪は、法律上、被害者参加することができる事件である。被害者は、被害者参加をする場合、弁護士をつけることができる(こうした弁護士を、被害者参加弁護士という)。

 被害者参加弁護士は、大まかに言えば、預金が200万円以下であれば、国選でつけることができる。つまり、被害者参加弁護士の費用は、国が負担する。性犯罪の被害者は、若年層が多いため、国選被害者参加弁護士をつけることができるケースが多い。

 被害者参加は、起訴された後にしかできないので、国選被害者参加弁護士も起訴された後にしかつけられないが、日弁連は、起訴前、ひいては逮捕前であっても、一定の要件を満たす犯罪被害者に弁護士費用を援助している。大まかに言えば、強制性交等罪、強制わいせつ罪等の性犯罪の被害者は、預金が300万円以下であれば、この要件を満たす。この援助を受ければ、金銭の持ち出しをしなくて良い場合が多い。

 司法統計によれば、現在、性犯罪で被害者参加をしている件の9割が弁護士をつけており、そのうち8割が国選である。おそらく捜査段階で、被害者が、代理人として弁護士をつけ、その弁護士が起訴後に被害者参加弁護士となっているのだろうと考えている。

 被害者支援の知識と技術のある弁護士がついた場合、さまざまな選択のメリット・デメリットを被害者に説明し、一緒に判断することができる。

 また、被害者側に弁護士がついた場合、刑事弁護人が直接被害者に連絡をすることは、弁護士職務基本規程により、できなくなる。

実際の裁判では何が起きるか

 続いて、実際の裁判で何が起きるかを見ていこう。現在は、被害者の氏名が記載された起訴状は、被告人本人には送達されるが、法廷で、被害者の氏名が読み上げられることはない。氏名・住所などの被害者特定事項は、検察官が、裁判所に申し入れることによって、秘匿することが、法律上認められている。性犯罪の場合は、被害者秘匿決定がなされると考えてほぼ間違いない。

 性犯罪被害者が勇気を出して、証人尋問を受けることにした場合、検察は「遮へい」というパーティションを入れる請求をするか、ビデオリンクの請求をする。この請求は、まず認められると言ってよい。

 遮へいが入ると、被告人や傍聴席から、被害者の姿は見られなくなる。しかし、被告人と同じ空間にいること自体、被害者にはとても恐ろしいものであるし、傍聴席に声は聞こえるので、声で知り合いにバレたらどうしようと心配する被害者もいる。

 ビデオリンクだと、被害者は別室に入り、モニターでは質問者の顔しか見えない。法廷で証人尋問をする場合、反対尋問の際は、味方である検察官、中立の裁判官の顔を見て心を落ち着けることも可能だが、ビデオリンクだと、被告人の味方である刑事弁護人の顔しか見えない。

性犯罪被害者が体験するPTSDのリスク「公判廷に来られない」

 ここで、性犯罪の被害者は大抵PTSDであるという特殊性から、「公判廷に来られない」「公判廷で解離を起こして話せない」という恐ろしい事態が起こる可能性がある。被害者は検察側の証人なので、罪となるべき事実を立証できなければ無罪となってしまう。

 では、被害者はどうすればよいのか。やはり被害者側の弁護士を活用すれば良いのである。

 被害者側にきちんとした弁護士がついている場合、被害者に、反対尋問の事前練習をし、想定できるストレスは全て事前に体験してもらう。また、被害者支援センターやワンストップ支援センターなどに頼んで支援員をつけ、一緒にビデオリンク室に入って被害者の緊張を緩和してもらったり、被害者が証言困難な状態になった場合には、休廷を入れてもらうよう裁判所に合図してもらうこともできる。

被害者は受け身の対応しかできないのか?

 ここまでを読むと、被害者は、示談の申入れを受けるかどうかを考えたり、証人尋問に応じたりと、受け身の対応しかできないように思うかもしれない。

 しかし、前述の被害者参加制度を使えば、法廷のバーの中に入って、検察官のそばで、公判に参加することができる。

 被害者参加人は、検察官に意見を述べる権利、公判に在廷する権利、被告人質問をする権利、情状について証人尋問をする権利、検察官の論告のように意見を述べて求刑する権利が認められている。被害者参加せずに裁判を全面的に検察官に任せた場合、被害者は、証人尋問で質問されたり、意見陳述をすることはできても、誰かに質問をすることはできないし、そもそも法廷のバーの中に入れないので、被告人が嘘をつき始めても何ともしようがないが、被害者参加すれば検察官の後に質問をすることができる。

 被害者参加人は、被害者参加弁護士をつけて、弁護士の助言を受けながら、被害者参加人の権利を行使することができる。自分で行っても、弁護士を通じて行ってもよい。

 被害者参加すると、非常にスムーズに、事件記録の閲覧謄写をすることができ、自身の事件の概要についても把握しやすくなる。逆に言えば、通常の刑事裁判では、自身が被害者である事件であっても、概要を把握することすら難しい。

「今ある法律」で負担が最も少ない道は

 私は、被害者参加弁護士として性犯罪の刑事裁判に参加してきて、一連の手続きがいかに被害者にとって負担かを見てきた。特に、被害者の氏名が書かれた起訴状を、被告人に送達することに関しては、2017年の刑法改正の附帯決議でも取り上げられ、見直し中ではある。

 現行法や現行制度に課題があるとはいえ、裁判官・検察官・弁護士といった実務法曹は、今ある法律に従って仕事をするしかない。もしあなたや身の回りの人が当事者の立場になってしまったら、「今ある法律」という枠の中で、性犯罪被害者の負担が最も少ない道を選んでいただければと思う。

 具体的には、性犯罪被害者支援の知識と技術のある弁護士をつけることをおすすめする。そうした弁護士を探す方法として、どの地域に住む人にも勧められるのは、 ワンストップ支援センター に電話することだ。

 ワンストップ支援センターは、性暴力被害者に、医療支援、心理的支援、捜査関連 の支援、法的支援等の総合的支援を、被害直後から提供するものである。ワンストップ支援センターは、昨年10月、ようやく全ての都道府県に設置された。弁護士による二次被害があってはならないので、各地のセンターが知識と技量のある弁護士を揃えている。

「今」を生きる私たちに、「今」に適した法律を

 2017年になされた性犯罪に関する刑法改正は、110年ぶりに性犯罪被害者の声が国会に届いたものであった。2020年には、この改正の「附帯決議」に基づく「見直し」が予定されている。110年も経てば、女性の人権に関する意識も、性犯罪被害者の心情に関する知見も、別次元に進歩している。「死ぬ気で抵抗しなければ、犯人が逮捕されない」などという都市伝説が生きていてはいけない。「今」を生きる私たちに、「今」に適した法律を! これが私の願いである。

 

全国のワンストップ支援センターの一覧: http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

内閣府の性犯罪被害・性暴力被害についての案内: http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/index.html

(らめーん)

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