大阪人の“恐怖の駅”!? 阪和線のナゾの終着駅「日根野」には何がある?

文春オンライン / 2019年5月27日 6時0分

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JR阪和線の終着駅“日根野”には何がある?

 しこたま酒を呑んだ夜、終電間際の電車に乗って帰ろうとすると“乗り過ごし”というリスクを背負うことになる。酔い心地でうとうとして気がつけば、電車は見たことも聞いたこともない終点の駅。改札口を出て駅前に出てみたはいいものの、特にめぼしいものがあるわけでもない都会の外れの住宅地。そうしてせっかくの気持ちのいい酔い心地も吹っ飛んで、人は絶望の淵に立つのである――。

天王寺駅や大阪駅でもお馴染みの「日根野行」

 と、そんな世にも恐ろしい終着駅は、だいたい電車通勤が主流の都市部に多くあるものだ。そうしたわけで、これまでも小金井、国府津、小手指、南栗橋などなど首都圏近郊の終着駅を中心に巡ってきたが、今回は関西の終着駅に進出してみようと思う。訪れたのは、JR阪和線の日根野駅である。

 阪和線はすぐ脇にあべのハルカスも聳える大阪市南部の天王寺駅を起点に南西に走り、和泉山脈を越えて和歌山駅までを結んでいる。関西国際空港に乗り入れる特急「はるか」や紀伊半島南部を目指す特急「くろしお」のほか、大阪駅から大阪環状線をぐるりと回って阪和線に入って和歌山行の紀州路快速・関空快速がこの路線の代表列車。関西を代表する大動脈のひとつだ。

 そんな中でも大阪方面からやってくる区間快速は多くが“日根野行”。さらに23時以降の快速も軒並み日根野行であり、終電間際に乗るなら実に危険な終着駅というわけだ。他にはより大阪中心部に近い“鳳行”もたくさんあって、こちらも駅名からして実に興味深いところではあるが、今回は乗り過ごしたときの“被害”が甚大な日根野を選んだのである。

 そんな日根野駅まで、阪和線の電車は実にスピーディーに走ってゆく。大和川を渡れば大阪市から堺市に入り、世界文化遺産登録が確実になった百舌鳥・古市古墳群の代表格とも言える大仙陵古墳(仁徳天皇陵)を横目にさらに南西へ。紀州路快速ならば天王寺駅からおおよそ40分ほどで目指すところの日根野駅に到着する。

新しいマンションが建ち並ぶ駅前

 日根野駅があるのは大阪府泉佐野市。ご存知、ふるさと納税を巡るあれこれで話題沸騰の街である。とは言っても日根野駅周辺は泉佐野市の中心市街地とは遠く離れているようで、駅前は実にのどかなもの。少し古びた橋上駅舎から東側に出ると、広々としつつも閑散としたロータリーが広がり、その向こうには大きなマンションが建っている。線路に沿って北に少し歩けばイオンモールもあるようだ。近くには目下建設中のマンションも。イオンがあって始発列車も多く、大阪中心部まで1時間かからないとなれば通勤圏内としては充分なのだろう。これまで見てきた首都圏の終着駅ともよく似ている。

 駅前の広場を歩いていると、その一角に阪和線の電車が描かれた小さな建物。なにかと思って近づいてみれば、どうやらトイレのようだ。駅前の公衆トイレを車両に模すあたり、車両基地のある“鉄道の街”らしい取り組み。こうしたところも車両基地とともにある終着駅らしさというべきだろうか。

なぜか踏切には5カ国語のカンバンが

 と、まあそんなものかと思いながら駅前広場の片隅の観光案内板を見てみると、日根野には鎌倉時代から戦国時代にかけて五摂家のひとつ・九条家の荘園(日根荘)があったという。そして駅前広場やマンションのあたりは溜池だったとか。う~む、意外と歴史が古い日根野なのだ……。

 そう思っていたら、警報音とともにすぐ近くの踏切の遮断器が降りた。そして、英語や中国語、韓国語での音声放送も聞こえてくる。近づいてみると、踏切の横には日・英・中・韓の4ヶ国語に加えてタイ語も書かれた説明板。日本語を読むと、「警報機が鳴り始めたら踏切に入らないで下さい。踏切から直ちに出て下さい。」と書かれている。この注意書きくらいならまだわかるが、音声でも注意を喚起するとはなかなかの徹底ぶりである。いったいこの、のどかな郊外の小さな駅がなぜこれだけインターナショナルなのだろうか。

日根野にもインバウンドの波が……

 JR西日本に聞いてみると、「鉄道に慣れていない外国人が踏切に侵入してしまうケースが後を絶たず、その対策としてやっているもの」だとか。こんなのどかな郊外の小さな駅の踏切に外国人が侵入とはいかにも物騒なお話。だが言われてみれば、日根野駅は阪和線から分岐して関西国際空港に向かう関西空港線の分岐駅だ。駅のホームから南側を望むと、高架で右手(海側)に向かって分かれていく線路が見える。これが関西空港線。そうしたわけで、日根野駅にもインバウンドの外国人がやってくるという。日本人みたいに日常的に電車に乗って踏切も渡っているような人ばかりではない。ワケもわからず遮断器の下りた踏切に入り込んでしまうこともある、というわけだ。

「特にね、この踏切は長いんですよ。特急も走ってるし、車庫を出入りする列車も通るから。本数の多い朝なんてずいぶん待たされる。踏切なんて見たこともないような外国人なら、待てなくて入り込むのもわからんではないですね」

 ちょうど踏切待ちをしていた地元の人に聞いたら、こんな答えが返ってきた。日根野駅は大阪方面から併結されて走ってきた紀州路快速と関空快速が分割されて立て続けに出発するような駅でもあるから、遮断器が下りている時間がどうしても長くなってしまう(つまりは日根野駅で紀州路快速と関空快速の連結作業を見ることもできるので、鉄道ファン的にはそこも日根野の見どころであるが)。筆者が日根野駅を訪れていた2時間ばかり、ついぞ外国人観光客に出会うことはなかったけれど、こうした踏切のインバウンド対策も鉄道の安全のためには欠かせないのだろう。

終電で寝過ごしても「ホテルはあります」

 と、大阪の中心部から40分ほどでやってくる阪和線の終着駅・日根野は、ほのかにインバウンドの香りも漂う泉佐野の住宅地の駅であった。インバウンドの香りは駅の近くにホテルがあることでも感じられる。つまりは万が一寝過ごして日根野にやってきてしまっても、ホテルという救いの神はそこにいるのだ。もちろん、そのホテルに空室があるかどうかはまったく保証できないけれど。天王寺駅発日根野行の終電は、0時20分発1時5分着だ。

 ちなみに阪和線で乗り過ごして最も絶望的な電車は、22時44分天王寺発の紀州路快速“御坊行”。御坊というのは和歌山よりもさらに南の紀勢本線の駅で、到着は1時3分。日根野ならまだしも、“酔っ払って目が覚めたら御坊だった”なんて冗談にもならないのでぜひとも気をつけたいものである。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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