『月極オトコトモダチ』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

文春オンライン / 2019年6月9日 11時0分

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©2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

 わたしの世代(四十代)の人付き合いは、イジリや揚げ足取り、毒舌が多めだ。「この人たち仲悪いの!? 罵り合っている……」と思うと、実は大親友だったり。比べて若い人たちは、お互いを肯定し合う優しい会話をしているように見える。だから、自分世代の人が、若い人にいつもの調子で毒舌を繰りだすと、あわわ……と内心焦ってしまう。言われた側が、突然理不尽な暴力に遭ったように傷ついているような気がするのだ。

 さてこの作品は、奥手な女編集者、器用貧乏タイプのレンタル男友達、歌手を目指す女友達のオフビートな三角関係を描いた、三十代の女性監督による長編デビュー作だ。

 編集者の那沙は、男女の友情についての企画を立てるため、“一ヶ月十五時間使い放題”のレンタル友達、柳瀬と契約を結んだ。でも、おっかなびっくり柳瀬に近づく那沙を尻目に、ルームメイトの珠希は音楽を通じて彼と“無料で”友達になってしまい……。

 と、こんなふうにあらすじをまとめることに違和感を覚えるほど、映画全編に繊細な感情のビブラートが溢れている。那沙は男女について、友情or恋愛という大味な区分ではなく、何重ものレイヤーをかけて考えるし、時の流れや相手とのやりとりによっても生き生きと変化していく。

 この作品を観ながらわたしは、「あぁ! 若い人たちはただただ優しい会話をしてたんじゃないんだ! 高度で繊細な感情のやりとりをしていたんだ……」と気づいて、胸がいっぱいになりました。そして「それは年取った人には聴こえない音域の、静かな音楽みたいなものかも」と想像してもみました。

 今ここでも、控えめな美しい音色が流れ、出会い、変化し続けている。たとえ自分には聴こえなくても、耳を澄ますことをやめたくないと思いました。そして、映画はそんな音色を可視化してくれる魔法なんだ、とも。

INFORMATION

『月極オトコトモダチ』
6月8日(土)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ板橋ほかにて全国順次公開
https://tsukigimefriend.com/

(桜庭 一樹/週刊文春 2019年6月13日号)

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