大学の奨学金を返すために風俗で働く女性たちは、あなたの近くにいる

文春オンライン / 2019年6月17日 17時0分

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『東京貧困女子。』(中村淳彦 著)

 読み終わった後に、かけたことのないサングラスをかけたような気持ちにさせてくれる本がある。本を読んだ後から、普段見えている町の景色も色も変わって見えてくる本。この本はまさにそれであり、今、この本を読めたことに感謝している。

 僕は今、ある大学で非常勤講師を1年間やっている。毎週やっているわけだが、僕の授業を受けている学生の数は200人以上。この本を読んで思う。僕が今からここに書くことで、嫌悪感を抱く学生や大学関係者もいると思うが、勇気を持って言おう。この本を読んで思った。僕の授業に出てくれている200人以上の学生の中にも、大学に通うために体を張った仕事をしている人がいるのかもしれない、と。この僕の文章を読んで色々思う人がいるならば、一度、この本を読んでもらってから話したい。

 本の前半に出てくる大学奨学金制度の闇。「奨学金」と言えば聞こえはいいが、今の日本で、大学奨学金というものが、年利上限3%で、奨学金とは名ばかりの利子で利益をあげる金融ビジネスとなっているという現実。奨学金っていつからこんなことになってたの? 恐怖すら感じる。

 大学に行きたいがために、奨学金を借りて、それを返すために、風俗などで働き、体で返す。

 それは昼のドキュメンタリー番組などに出てくる、ごく稀な人ではない。大学に通うための奨学金の返済で風俗で働く女性が少数ではなく、この東京では結構な数、いるのだ。

「貧困」を「普通」に見せるために「大切」を切り売りする女性たち

 そうするしかない人が増えていく日本のシステムも理解出来た。これじゃあ「奨学金」じゃなく「性(しょう)学金」じゃないかと、憤りと共に、くだらない言葉とため息も出る。

 この本の中では「貧困」というものを二種類に分けている。「絶対的貧困」と「相対的貧困」。「絶対的貧困」というのは、衣食住にも不自由して餓死していく貧困で、貧困と言われるとこれをイメージすると思うのだが、「相対的貧困」とは、年122万円未満で生活する人のことらしい。

 相対的貧困の女性の中には、大学にも通うし、スマホも持っている人も多い。その時点で「スマホ持ってたら貧困じゃないじゃないか?」と考える人が多いだろう。だが違うのだ。そこが一番の問題である。本当は「貧困」なのだが、「普通」に見せるために、自分の「大切」を切り売りしてしまう。その「大切」の切り売りを求める大人が列をなしてるから、「需要と供給」が成立してしまう。それがどんなに悪だろうが、そこに一度、「需要と供給」が成立してしまうと、社会から削除することは容易ではない。

 いつから東京で普通に暮らすことがこんなに大変になったのだろう? 東京で「普通」に見せるために、ドーピングしないと生きていけない女性。きっと皆さんのすぐ近くにいる。

 読みましょう。まず。

なかむらあつひこ/1972年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。貧困、介護、AV女優、風俗など、社会問題をフィールドに取材・執筆を続ける。著書に『AV女優消滅』など多数。

すずきおさむ/1972年、千葉県生まれ。放送作家。子供の貧困をテーマにした漫画『秘密のチャイハロ』の原作を手がけている。

(鈴木 おさむ/週刊文春 2019年6月20日号)

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