日産・ケリー前代表取締役が明かした「西川廣人社長の正体」

文春オンライン / 2019年6月17日 6時0分

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日産・西川社長 ©文藝春秋

 私が「西川廣人」という人物を初めて目にしたのは、カルロス・ゴーン日産自動車前会長が東京地検特捜部に逮捕された「衝撃のニュース」の直後、日産本社で行われた記者会見の際だった。

 西川氏は会見の冒頭、ゴーン氏について「社内調査の結果、本人の主導による重大な不正行為が大きく3点あった」と述べ、逮捕容疑となった「実際の報酬よりも減額した金額の有価証券報告書への記載」のほかに、「私的な目的での投資資金の支出」と「私的な目的での経費の支出」を挙げた。

 そして、検察当局に社内調査の結果を報告した経緯を明かし、自らの心情についてこう言い切った。

「『残念』という言葉ではなく、(それを)はるかに越えて強い、『憤り』ということ、そしてやはり私としては、『落胆』ということを強く覚えております」

 私を含め、西川氏の記者会見を見たほとんどの人が、日産を経営危機からV字回復させた「国際的経営者カルロス・ゴーン」の下で社長に上り詰めた西川氏が、社内調査で明らかになったゴーン氏の「不正」の内容に驚愕し、検察当局に不正を報告して、会社として捜査に協力する「苦渋の決断」を下したものと受け止めたはずだ。

 ところが、6月10日発売の 「文藝春秋」7月号 に掲載されたグレッグ・ケリー前代表取締役のインタビュー記事「西川廣人さんに日産社長の資格はない」の内容は、記者会見とは真逆の「西川廣人の正体」を示すものであった。

 ケリー氏の証言によって、それまで徐々に高まっていた西川氏に対する「疑念」の多くが裏付けられることになったのだ。

西川氏の高額報酬をめぐる「疑念」

 そもそも、私が最初に抱いた疑念は、西川氏の「役員報酬」に関するものだった。

 ゴーン氏が逮捕された2日後の11月21日、日経新聞の一面トップで、虚偽記載された50億円のうち「40億円分は株価連動報酬」と報じられた。

 日産は役員報酬としてストック・アプリシエーション権(SAR)と呼ばれる、株価に連動した報酬制度を導入している。これは、株価があらかじめ決めた価格を上回った場合に、その差額分の報酬を会社から現金で受け取れる権利である。

 日経新聞の記事では、ゴーン氏にSARで支払われた報酬40億円が有価証券報告書に記載されておらず、東京地検特捜部は、その40億円を有価証券報告書に記載すべきだったとしているというのだ。

 私が日産の有価証券報告書でSARについて確認したところ、日経新聞の記事では触れていない「もう一つの疑惑」に気づいた。

 2017年度の「役員報酬」の欄には、ゴーン氏とともに西川社長の報酬が個別開示され、「金銭報酬」が約5億円と記載されている。ところが、SARを示す「株価連動型インセンティブ受領権」という欄は、西川氏もゴーン氏と同じく、「-」。つまり非開示になっているのだ。

 日経新聞が、ゴーン氏について「SARの金額を記載すべきなのにしていなかった」と指摘したのはこのことだろう。しかし、そうであれば、社長の西川氏も「-」と記載され、金額が開示されていないのはどういうことなのか。

 日経新聞が報じたとおり、ゴーン氏の逮捕容疑である有価証券報告書の役員報酬の虚偽記載がSARに関するものであれば、私は、西川氏のSARの非開示について指摘しようと考えていた。

 ところが、その後、虚偽記載とされたのはSARではなく、「退任後に支払うことが約束された報酬」についてだったという“衝撃の事実”が明らかになった(【 ゴーン氏事件についての“衝撃の事実”~“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった 】)。これによってSARのことは話題から遠ざかることになった。

 しかし、今回の「文藝春秋」の記事によってSARが再び俎上にのることになった。ケリー氏は、西川氏が「SARの行使を一週間ずらすことで大きな額の現金を手にした」という“さらに衝撃の事実”を明かしたのだ。

 ケリー氏の証言によれば、西川氏はSARの金額を決める「行使日」が、2013年5月14日とあらかじめ決まっていたのに、それを約1週間ずらして22日にすることで、4700万円を上積みして、合計1億5000万円もの報酬を受け取ったという。

 ところが、2013年度の有価証券報告書を確認してみると、西川氏のSARによる収入は1500万円と記されている。この食い違いはどういうことだろうか。

 それにしても、西川氏の「金銭報酬」の約5億円だけでも、とてつもなく高額だ。逮捕以降、ゴーン氏の報酬が「年間約20億円」だったことが、「高額報酬」として問題にされたが、「プロの経営者」の国際的な市場水準と比較すると一般的なものに過ぎない。しかし、西川氏の場合、14万人の日産社員の中から社長となった「内部昇格者」だ。その報酬が5億円というのは、他の日本企業の内部昇格の社長と比較して破格に高額だ。

 SARの行使日をずらした2013年度でも、西川氏の「金銭報酬」は1億2,000万円にのぼる。西川氏はそれに飽き足らず、SARの行使日をずらすことでさらに報酬を上積みしたというのだ。

退任後の報酬に関する「書類」への署名

 5年分の金融商品取引法違反に続くゴーン氏らの再逮捕事実とされたのが、2016年3月期から2018年3月期までの「直近3年分の虚偽記載」であった。しかも、西川社長が退任後の報酬の合意文書に署名していたと報じられたことなどから、直近2年は「代表取締役社長」として有価証券報告書を提出した西川氏も、ゴーン氏及びケリー氏と同等、あるいはそれ以上の刑事責任があることは否定できない、という見方が強まった。

 しかし、西川氏は逮捕も起訴もされず、現在も日産社長の地位にとどまっている。そのような西川氏について、今年1月、東京都在住の一市民が東京地検に告発を行ったが、検察は、「嫌疑不十分」で不起訴処分にした。私はその告発人から委任を受け、6月4日に西川氏の不起訴処分について、代理人として検察審査会への審査申立を行い、東京第三検察審査会で受理されている(審査申立書の主要部分は、【 日産西川社長に対する「不当不起訴」は検察審査会で是正を 】で紹介している)。

 実は、この「ゴーン氏の退任後の報酬の合意文書」への署名についても、「文藝春秋」に掲載されたケリー氏の証言によって詳細な事実が明らかになった。

 編集部が、ケリー氏の弁護士に直接確認した結果についてこう記されている。

「ケリー氏の弁護士に書類の確認を求めたところ、書類には次のように記されていることが判明した。

 <日産は、ゴーン氏が日産のビジネスに重要な貢献を続けることができると認識しており、ゴーン氏を取締役ではない立場で雇用することを望んでいる>

 契約項目としては、「ビジネス戦略」「広報活動」「政府との交渉」などとあり、その報酬は、十年間の契約で一時金として「三十億円」(「30 oku yen」)、加えて各年の年間報酬として「三億円」(これは目標を達成した年には五億円まで増額される)。ただし、この報酬額は、青インクのペンで修正され、それぞれ四千万米ドル、四百万米ドル(増額は六百万米ドルまで)と書き換えられていた。さらにリオデジャネイロ、パリ、レバノンの不動産所有権の提供も報酬の一部として記されていた。

 書類の最後には、西川氏のものと思われるサイン(筆記体で「Hiroto Saikawa」)もある。」

 それに加え、ケリー氏は、西川氏がその書類にサインした状況についてこう明かした。

「ゴーン氏と西川さん、そして私のオフィスは日産本社の同じフロアにありました。角にゴーン氏の広い部屋があり、少し離れたところに私と西川さんの部屋が隣同士で並んでいました。私は隣にある西川さんの部屋に行ってたたき台の書類を見せ、西川さんはそれを注意深く読み込んだ後、サインをしたわけです」

 これらの事実からすると、ゴーン氏とケリー氏に加えて、法人としての日産まで起訴されているのに、代表取締役社長として有価証券報告書を提出した西川氏について、「犯罪の嫌疑が不十分」ということはあり得ない。

 検察審査会で、市民の常識に基づく審査が行われれば、「起訴相当」の議決が出ることは必至だ。その場合、検察は再捜査の上、西川氏の処分を決することになるが、その判断は非常に微妙だ。ゴーン氏とケリー氏、そして法人としての日産の起訴を維持して西川氏を不起訴にすることができるだろうか。西川氏を起訴するか、ゴーン氏とケリー氏、日産の公訴を取り消すしかないはずだ。

 それでも、検察が「引き返す」ことなく、西川氏を再度「嫌疑不十分」で不起訴にした場合、検察審査会の2回目の審査に委ねられることになる。ここで「起訴議決」が行われれば、指定弁護士が西川氏を起訴することになるが、その場合、西川氏が有罪を認めるとは考えられない。「退任後の報酬についての合意」の有価証券報告書への記載義務などの法律問題も含めて全面的に無罪を主張する可能性もある。そうなると、ゴーン氏とケリー氏及び日産の起訴は根拠を失い、検察の「有罪立証」全体が崩壊することになりかねない。

日産に自宅を購入させようとした西川氏

 実は、ケリー氏は「文藝春秋」の記事で、もう一つ信じ難い事実を明らかにしている。2013年春、日産に新たに不動産を購入してほしいとケリー氏に相談していたという事実だ。これは西川氏が渋谷の新居を購入し、それまで住んでいた世田谷区の自宅から引っ越した直前の時期にあたる。

 西川氏は、ゴーン氏が逮捕された直後の記者会見で、社内調査によって明らかになった不正の一つとして、「目的を偽って、私的な目的で、当社の投資資金を支出した不正行為」を挙げた。この中には、日産の子会社がパリやリオデジャネイロ、ベイルートの高級住宅の購入資金を支出したことが含まれていたはずだ。

 ケリー氏の証言によれば、これらの海外の住宅購入は、海外でのビジネスのために拠点となる場所として日産が購入したもので、西川氏の承諾も得て不動産の契約を行ったということだ。その西川氏が、自分が日本で購入する自宅の資金を日産に出させようとしたというのだ。日本国内の自宅であれば、その購入費用を会社に出させる筋合いは全くない。事実であれば完全な「会社の私物化」である。

会見で語った西川氏の「残念」、「憤り」、「落胆」とは

「文藝春秋」に掲載されたケリー氏の証言によれば、西川氏はゴーン氏が逮捕された直後の記者会見で「不正」だと述べた行為のほとんどを認識、承諾していただけでなく、自らも日産を私物化しようとしていたことになる。

 記事の内容は、当然、弁護人も事実関係をチェックし、慎重に検討されたものであろう。また発売後、日産や西川氏の側から、記事について何の反論もコメントもないことからしても、事実関係に大きな誤りはないと考えてよいのであろう。

 この記事が事実だとすると、西川氏が、記者会見で、ゴーン氏の不正を知って感じたという「残念」、「憤り」、「落胆」という言葉は一体何だったのだろうか。

 自らを、5億円を超える高額報酬を得られる日産社長という地位に取り立ててくれたゴーン氏に対して、自分のやっていることを棚に上げて、そのような言葉を浴びせて非難することができるという「鉄面皮」のような厚顔無恥さは、日本人の一般的な感覚からは凡そ理解できないものだ。

 信じ難いことに、そのような人物がいま、日仏間の国際問題にもなりつつあるルノーとの経営統合問題や急激な業績悪化などの渦中にある日産の経営トップの地位にあることに関して、なぜかマスコミからも、日産社内からも、ルノーとの関係で後ろ盾になっていると思える経産省からも、何一つ疑問の声が上がらない。

 日本の社会は、いつからこんな「異常な社会」になってしまったのだろうか。

(郷原 信郎/文藝春秋 2019年7月号)

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