“合法的に人を殺す”安楽死現場の明るさが気味悪い――青木るえか「テレビ健康診断」

文春オンライン / 2019年6月23日 17時0分

写真

©iStock.com

 NHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』はすごかった。

 全身マヒしてやがて人工呼吸器によってしか延命できないという難病にかかった女性が安楽死を求めてスイスに行く。もちろんそこに至るまでにはいろいろな葛藤がありさらに審査もあるが、彼女は揺らがない。スイスに行って死ぬ。その死の瞬間までカメラが撮る。

 この番組が視聴者に問いかけたいのはきっと「人間の尊厳とは。それを守るための決断とは」というようなものだと思う。受け取る側としては「安楽死容認したら今の日本では難病患者が逆に追い込まれる」「いや死ぬことがある種のセーフティネットに」とか議論は尽きない。とにかくいろんなことを考えさせる映像がそこにはあった。

 しかし私が何よりも怖ろしかったのは「合法的殺人(それが自ら点滴の栓をあけることによってもたらされる自殺であっても)現場の、人工的明るさと穏やかさ」だ。病院で医師の最終面接を受け、OKが出たら翌日に執行。その執行現場は明るくオープンでテキパキしていて穏やかで平静。以前公開された東京拘置所の刑場が、皇居の宮殿竹の間的な静かな整い方をしていて気味が悪くてしょうがなかったが、この安楽死現場の明るさも同じように気味が悪い。『ソイレント・グリーン』という近未来SF映画に「公営安楽死施設」が出てきて、心地よさそうなリクライニングシートに横になり、美しい自然の映像の中、ベートーベン『田園』を聞きながら死ぬようになっていた。子どもの頃に見てすごく気持ち悪くなったが「これは映画だし」と心を落ち着かせていた、あの場面と似てるではないか(調べたらこの映画、2022年の設定! この世界はもうそこまで来てる!)。

安楽死からの達川の笑顔!

 1973年のアメリカ映画の中で想像された「未来の安楽死施設」も、現在の安楽死施設も刑場も、「合法的に人を殺す装置を真面目に、人道的に考えると、こういうふうになってしまう」のだ。その形がたまらなく気持ちが悪い。やっぱり不自然なのだ、「合法的に人を殺す」ということは。それは安楽死が正しいか正しくないか、自分ならどうかということとは無関係に。

 途中、くじけそうになりながらも見終わったら『サンデースポーツ』が始まった。急に世界が明るい(当たり前だ)。まだ胃の腑に鉛をのみ込んだみたいになってる私に、コメンテーターで出てきた元広島の達川が、ヤクルトの連敗に触れながら「ぼくも監督時代カープ13連敗の記録持ってますから! 今まで健康だったのがそれで血圧ドーン!」。ダッハッハァと笑いながらまくしたてる。安楽死から達川の笑顔、本当に助かった……。その効用を期待してのその日の達川起用ではないとは思うが。

INFORMATION

『NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ』
NHK総合 6/2(日)放送
http://www6.nhk.or.jp/special/

(青木 るえか/週刊文春 2019年6月27日号)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング