オーガズム人体実験でわかった女性の性欲――ヒトは何歳までセックスできるのか?

文春オンライン / 2019年6月27日 18時0分

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 厚生労働省が2017年に発表した統計によると、日本人の平均寿命は男性「81.09歳」、女性「89.26歳」と、過去最高を更新し続けている。「人生100年時代」と言われるなか、「QOL(生活の質)」の向上は、現代人にとってますます重要な課題となっている。中でも性生活は、人間らしい暮らしを送る上で避けて通れないテーマだろう。人は何歳までセックスできるのか――かつて「週刊文春」で話題を呼んだ本企画は、これからを生きる現代人にとっても示唆に富む。あらためてここに公開する。

※「週刊文春」2012年8月2日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。

日本人女性はオーガズムを感じにくい?

 下半身から日本が見える、というのは決して大げさな表現ではない。

『 女医が教える本当に気持ちのいいセックス 』(ブックマン社)の著者、宋美玄氏は読者の反応に驚いていた。

「魔法のテクニックを書いたわけでもなく、ごくスタンダードなことを書いただけです」

 2010年に出版した同著は、50万部を越える大ベストセラーを記録。産婦人科医であり、性科学者である宋氏が、間違った性知識をもつ20代が多いことから執筆した本だった。が、

「あれ、私、おじいさん向けに書いたんだったっけ? と驚くほど、読者ハガキは、70代、80代といった高齢の方が多く、最高では90代の方でした」

 いくら長生きしても、正しい性の知識を知らない人が多いという現れだろう。男性が自分は良かれと思って満足していた性行為の陰で、悩める女性たちは女医のもとに駆け込んでいるのだ。彼女たちは、一体、何を訴えているのか。

 横浜元町女性医療クリニック・LUNAの関口由紀理事長のもとに、ある日、70代の女性が訪ねてきた。女性は関口氏と話すうちに、素朴な疑問を口にした。

「世間でいうオーガズムとは、何ですか?」

 性交中の絶頂期。医学的に言うならば、骨盤底筋群の強い収縮によって、全身に広がる快感である。

 この70代の女性は、「とてつもなくすごいことのようだけど、この年になるまで一度も経験をしたことがない」と言う。そして、こんな本音を漏らしたのだ。

「死ぬまでに一度でいいから、そういう最高のセックスというものを体験してみたいんですが」

 実は、日本人でオーガズムを経験したことのない女性は海外に比べて多い。これを「オーガズム障害」という。「感じることはできるが、いきにくかったり、いかないこと」だ。オーガズムは、子宮内膜症になりにくくなるとか、入眠作用があるというアメリカの学者チームによる研究があり、健全な生理現象である。

前戯をしたいのに言えない夫婦

「旦那さんとは、どんなふうにやっているんですか」

 関口氏が聞き込んでいくと、この夫婦の性交の問題点が見えてきた。前戯などがまったくなく、性交のプロセスに原因があるのだ。

「これをご夫婦で見て下さい。見ることも訓練です」

 関口氏が治療用に購入してもらったのが、アメリカ製の性教育DVDだった。『ベターセックス』という3枚セットで、セックスの基本型からテクニック、体位、多彩なプレーを解説したものである。

 すると、「見る訓練」で、拍子抜けするようなことがわかった。実は、夫も前戯をずっと長い間やってみたかったのだ。結婚以来数十年、筆を使ってクリトリスを刺激したいなど、やりたいことはあった。が、

“まさか、お前がそんなこと(前戯)をしてもらいたいと思っていたなんて”

 と誤解し、すれ違いのまま70代を迎えていたのである。つまり問題は、夫婦の関係性の深まりにあったのだ。関口氏が言う。

「セックスを深めるということが、夫婦の中の重要事になっていない例です。日本では古い世代によくあることで、文化的なことかもしれません。でも、オーガズム障害は、若い女の子にもいます。特に、パートナーを取っ替え引っ替えしている子です」

「子供は欲しいけどセックスはしたくない」

 経験豊富な女性がオーガズム障害というのは意外だが、似たような話を聞いたことがある。恋愛コラムニストの島田佳奈氏は、仕事柄、性に関する相談を受けることが多い。

「ある男性から、『26歳にして初めて彼女ができたのですが、彼女をどう扱っていいかわからない』という相談がありました」

 島田氏の話を聞いて、「ああ、草食系の童貞ですね」と私は受け流したが、次の言葉を聞いて、飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「いえ、セックス経験は非常に豊富です。ただ、これまでは全部セフレ。携帯電話で気軽に出会って、考える前にセックスをしている。コミュニケーションは苦手で、女性とちゃんと向き合ったことがない。そういう人は多いのです」

 当然、関係性が深まる経験はなく、性交は性欲解消の機会というわけだ。男は射精がオーガズムだからいいが、女性の場合、即物的な性交は満足を得られないばかりか、苦痛になることがある。冒頭の宋氏にはこんな相談がきているという。

「子供は欲しいけれど、夫とはできるだけセックスをしたくないと訴える女性たちがいます。セックスをしたくない夫との間に、なぜ子供が欲しいのかわかりませんが、『そんな気にはなれない』とか『できるだけ最少回数で妊娠したい』と言い、若くして人工授精を希望する人もいる。したくない人にしなさいとは言えませんが、セックスが嫌いだったり興味がない人は、本当に気持ちのいいセックスをした体験がないのでは、と思ったのです」

オンして何分で達するか

 女性に苦痛をもたらす性機能障害は、4つある。局所反応障害、性的意欲障害、オーガズム障害、性交疼痛症だ。では、どうすれば気持ちのいいセックスができるようになるのか。まずは、オーガズムのメカニズムから見ていこう。

 2009年、スウェーデンで開かれたWAS(世界性の健康学会)に参加した宋氏は、思わず唸らせられる研究報告を聴いた。オランダの医師が発表した、オーガズムの個人差である。

「これは、20人の女性にバイブレーターを渡し、アダルトビデオを見せながらマスターベーションをしてもらうという実験です。スイッチをオンにしてから、何分でオーガズムに達するかを計測し、グラフにして発表されました」

 この“人体実験”の結果、被験者は2群に分けられた。3分以内で絶頂に達した女性と、10分かかった女性である。2つのグループの違いは何だったのか。

 3分という早さでも、性的興奮には4段階のプロセスを経る。まず、興奮期だ。性交でいうと、服の上から体を触ったり、抱き合ったりというスキンシップを始めることで、体の性欲にスイッチが入る。

興奮期、高原期、オーガズム、消退期

 興奮期に入って30秒ほどで「膣粘滑液」が膣壁を覆う。これがいわゆる「濡れる」という現象である。

 宋氏によれば、男性は液体の量を気にするのではなく、「彼女の濡れ方を把握するのが大事」だという。

 ちなみに、外国人は「濡れにくい」という症例が多く、日本人は濡れにくいという悩みは比較的少ない。

 閉経で濡れにくくなった人は、ホルモン療法によって簡単に治療できる。

「エストロゲンという女性ホルモンがなくなると、骨盤の血管が細くなったり、死んだりします。エストロゲンを増やせば、膣にいく血管が増えて栄養がいき、血管から液体の成分が染み出てきます」(宋氏)

 次のプロセスが、高原期である。性器が肉厚に膨らみ、男性器を挿入できるタイミングとなる。性交の開始となり、3段階目に移る。骨盤底筋群が強い収縮を始めて、高揚感は全身に広がっていく。これが、忘我の境地となるオーガズムだ。

 その後、4段階目の消退期が来て、骨盤に流れ込んだ血が引いていく。オーガズムに達していないと、血液が解放されず、ひどい場合は腰痛や骨盤痛に繋がる。オーガズムは健康の証でもあるのだ。

( 後編 へ続く)

「セックスって、何がいいんですか?」と言う女性たちへ――ヒトは何歳までセックスできるのか? へ続く

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2012年8月2日号)

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