性欲のスイッチはこう入る! 解明された「脳の性的メカニズム」――ヒトは何歳までセックスできるのか?

文春オンライン / 2019年7月1日 18時0分

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 厚生労働省が2017年に発表した統計によると、日本人の平均寿命は男性「81.09歳」、女性「89.26歳」と、過去最高を更新し続けている。「人生100年時代」と言われるなか、「QOL(生活の質)」の向上は、現代人にとってますます重要な課題となっている。中でも性生活は、人間らしい暮らしを送る上で避けて通れないテーマだろう。人は何歳までセックスできるのか――かつて「週刊文春」で話題を呼んだ本企画は、これからを生きる現代人にとっても示唆に富む。あらためてここに公開する。

※「週刊文春」2012年8月30日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。

「日本人の性欲」に異変が!

 妻に性欲が向かないという問題は、不妊治療の現場では特に新しいテーマではない。しかし、2011年に発表された日本人の意識調査は、医学者たちを驚かせるものだった。日本人の性欲そのものに、異変が起きていたからだ。

 厚生労働科学研究班は男女3000人を対象に、「男女の生活と意識に関する調査」を行った。中でも話題となったのが、「セックスをすることに関心がない、嫌悪している」割合である。もっとも高かった世代が、男性は16歳から19歳。36.1%、つまり3人に1人がセックスに「無関心」「嫌悪」と回答した。2008年の17.5%から2年で倍増していたのである。

 男性の不妊治療や性機能障害が専門の大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科・辻村晃准教授は、こう言う。

「本来、16~19歳の男子はテストステロン(男性ホルモンの一種)の分泌が盛んで、最も性に対するアクティビティが高いはずです。未だ経験していない性交渉に興味津々で、些細なことで勃起する世代が、性交渉に無関心というのは信じがたい結果でした」

女性は全世代で「無関心」が増加

 セックスに無関心な世代は、次に45~49歳(22.1%)である。

 2章( 日本男児肉食化の鍵を検証する )でも紹介したように、40代は加齢にくわえてストレスがテストステロンの減少を加速させるケースが多い。ゆえに性欲が減退すると思われるが、この世代に続くのが、再び若い20~24歳(21.5%)だった。テストステロン値がピークに達する年代である。

 女性の場合も、16~19歳(58.5%)と若い層が多い。女性は全世代で、無関心が増加した。

 セックスを敬遠する理由で多かったのが、男女ともに「面倒くさい」である。国家をあげて少子化を問題視しながら、生物として説明のつかない事態が起きるのはなぜだろうか。

 前出の辻村氏ら大阪大学の研究チームは、08年から2年間、いっぷう変わった研究を行った。性的興味と脳と人格の関連性を解析する、世界初の実験である。

「近年、MRTやPETという画像診断の技術が進歩したので、性的な刺激を受けた時、つまり勃起した時に脳のどの部分が活性化するか、射精直前までの推移を特定しました。また、アダルトビデオを見てもらいながら、ビデオの中のどの部分を興味をもって見たかを、視線追跡装置を使って検査し、見たコマ数を自動的に時間に換算。性的興味を定量化したのです」

男は「顔と身体」、女は「背景」を見る――AV実験のリアル

 具体的にいうと、20人ほどの男性グループに、「レジスキャン」という輪ゴムのような2つのリングを、ペニスの先端と根っこの部分につける。約30秒ごとに輪がキュッと締まり、ペニスの太さと硬度が計測できるものだ。

 彼らにアダルトビデオを見てもらい、どの部位を見ているか、視線を追跡する装置を考案。男女それぞれの被験者グループにビデオを見せた。

「男は、女優の顔と身体を見て、男優を見ている男はほぼゼロです。女性も圧倒的に女優を見るのですが、男優も見ているし、背景も見ている。男女で見る興味が違うのです」

 ちなみに、男女ともに、男優と女優の局部を見ている人は少ない。

 そして、レジスキャンで勃起の状態を計測しながら、その興奮時に脳のどの部分が活性化していくかをリアルタイムで撮影した。

 まず、性欲のスイッチが入る「興奮期」。

「性的刺激でドキドキする勃起の初期段階である興奮期に、後頭葉が活性化され、さらに小脳虫部の一部が特異的に活性化することがわかりました」

 この時、脳はビデオの音にも反応して、聴覚野も活性化する。

 次にオーガズムまでの助走「プラトー期(高原期)」。尿道からカウパー腺液を出して、尿道の残留物を洗い流すこの時間に、ビデオの音に反応していた脳の聴覚野である側頭葉が、興奮期よりもさらに活性化された。

「ビデオを見続けていくうちに小脳の活性は落ち、腹側線条体など別の場所に活性が移っていくことがわかりました。この腹側線条体が性欲中枢の一端を担っていることが、PET撮影で明かになったのです」

 そして絶頂期(オーガズム期)に入った瞬間、男は射精する。

 こうした脳の性的メカニズムが科学的に解明されたのは初めてのことである。

「社会的内向性が高いと性欲が落ちる」の衝撃

 男性ホルモンが低下していると、性欲中枢は活性化されず、男性ホルモンを補充すると活性化が戻る。

 さらに性的興味の範囲がわかると、精神科で用いられる「ミネソタ多面人格目録」なるテストを行い、性的関心と人格の相関性を解析した。これは約550の質問で人格を分析していくものである。

 その結果、最も特徴的だったのが、「社会的内向性」の度合いが高い人ほど、女性の裸を注視していないという事実だった。

 辻村氏が話す。

「まあ、当たり前といえば、当たり前のことです。内向的な人ほど、ビデオを見ても目を伏せる。例えば、仕事でストレスがたまって内向度合いが強まると、目の前を裸の女性が歩いても関心が持てないでしょう。性欲の低下が科学的な数値で証明されたということです。また、EDが性的なものに興味を失って勃起しないのか、あるいは別の理由なのか、原因を見極めることに役立つと思います」

 社会的内向性が高いと性欲が落ちるという検証結果は、実は衝撃的ではないだろうか。冒頭で紹介した「セックスへの無関心、嫌悪」の割合が、若年層を中心に幅広い世代で増加している事実は、逆に日本人の社会的内向性が高まっている現れと読めるからだ。

 内向性が高い人が増える社会とは、一体、どのような社会なのだろうか。日本の将来を占う意味で、非常に興味深い。

「結婚しているが、勃起しない」は鬱病のサイン?

 では、性欲減退の“現場”で何が起きているかを覗いてみよう。

 浜松町第一クリニックは、日本で最もEDの症例数が多いと言われている。だが、04年に開院して以来、明らかにあるタイプの来院者が急増している。

 一つは、「結婚しているのですが、セックスをやる気がないし、勃たないんですよ」と訴えてくるケースだ。同クリニックの竹越昭彦院長が言う。

「そういう人たちに、私は『夜は寝られますか?』と聞くと、眠れないと言う。食欲を聞くと、痩せたと言うし、会社に行きたくないでしょ? と聞くと、頷く。つまり、EDというより、鬱の症状なんです。昔から鬱病の初期症状として、肩凝りや眼精疲労、胃痛、勃起不全という身体症状がありました。最近は、EDだと訴えてきて、鬱病だとわかるケースが多い。勃起しないことより、鬱病を治すことが先決なので、メンタルクリニックを紹介するケースが増えているのです」

 責任感が強く、真面目な男性ほど多く、「勃たないと、妻に浮気していると疑われる」と思い、自分を追い込んでしまうという。

不妊治療の夫婦に多い「膣内射精障害」

 また、薬の副作用によるEDも増えている。

 竹越院長が続ける。

「昔から使われている三環系抗うつ薬にはなかったのですが、近年、爆発的に売れているSSRIやSNRIといった抗うつ薬は、性欲減退、勃起力低下、射精困難をともなうことが多い。私は薬を換えるように指導しています」

 時代を反映した新型のEDといえるだろう。

 次に、竹越院長が指摘するのが、「オナニーED」なるものである。

「これは、10代から20代に多い。マスターベーションの時は勃起するのに、女性の膣に挿入すると萎えてしまうのです」

 第3回( 性交を成功させる「ゴールデンタイム」 )で紹介した不妊治療を受ける夫婦に多い「膣内射精障害」のことだ。

「誤ったオナニーが原因です。勃起したペニスは約80グラムで、それを10キロくらいの握力で刺激を与えている。あるいは、手を速く動かしている。刺激が強すぎるから、女性の膣では締め付けが弱く感じてしまうのです。オナニーEDは習慣性があるため、治療は難しいことが多い」

 世に勃起を促す薬はあるが、射精させる薬はないため、不妊に悩む夫に医師たちは2週間から3週間、マスターベーションを禁止させるケースが多い。これもポルノサイトなど、手軽に性欲を解消できる習慣がもたらした時代の象徴である。

( 後編 へ続く)

“ギリシャ化”が鍵 性欲減退を「年代数×9」の方程式で乗り越える――ヒトは何歳までセックスできるのか? へ続く

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2012年8月30日号)

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