三国志ファンも随喜の涙……『特別展「三国志」』の目玉とは?

文春オンライン / 2019年7月13日 11時0分

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市元塁さん

「皆さんの中には、それこそ固有といってもいいくらい、それぞれの三国志イメージがあると思うんです。それをひとつにまとめようなんて、とてもとても……。準備している段階からプレッシャーは感じていました。見に来てくれた人たちに『思ったのと違う』と言われるのは、いまはもう覚悟の上です(笑)」

 現在、東京国立博物館で開催中の『特別展「三国志」』。展示の総指揮をとった学芸員の市元塁さんはそう苦笑する。小説に始まり映像やマンガ、テレビゲームに至るまで、三国志というコンテンツはあらゆるメディアで題材にされてきた。

「今回は学問的な客観性を重視して『リアル三国志』と銘打ちました。考古学の最新の成果を交えた、三国志の歴史的真実に触れてもらえたらと思っています。私は、三国志の時代を含んだ魏晋南北朝時代の東アジア史を考古学の立場で研究してきました。ですからフィクションとしての三国志には詳しくなくて、実は吉川英治の『三国志』を読み始めたのも最近のことなんです」

 黄巾の乱のスローガン「蒼天すでに死す」を思わせる銘文が刻まれた磚(せん)、呉の皇族級の棺の台座には精巧な虎が象(かたど)られる――かの智将・猛将たちが実際に手にした文物かも知れないと思えば、世の三国志ファンは随喜の涙を流すに違いない。

「目玉はなんといっても、最近発見された魏王・曹操の墳墓からの出土品です。現地中国でも、実際の墓は博物館化するために見学することすらできない状態ですから、中国の人でも目にしたことのない物を見ることのできる貴重な機会になりました」

 曹操が没したのはいまだ天下おさまらぬ三国鼎立の時期。騒乱が続く折、曹操が出した薄葬令は有名だ。

「当時の薄葬がどんなものだったのかを知る手がかりにもなりました。たとえば副葬品として出土した土器は、当時の他のものと比べても質素でした。ただ、魏王の墓に入れるだけに、とても丁寧なつくりになっていたりします。もしかしたら、目ぼしいものは盗掘にあっている可能性もあるのですが、いまのところ曹操の遺言は実行されたものと考えられます。それにしても、中国では頻繁に大発見があるんですよね。日本だと100年に一度クラスの発見が、それこそ毎年のように。日本のどこかに眠っているかも知れない、魏から卑弥呼に贈られた『親魏倭王』の金印が見つかったら、また三国志展をやりたいですね。今回の展示で歴史に親しむ人の裾野が広がればと願っています。英雄たちと同じ時代を生きた出土品の空気に触れれば、あらためて三国志の創作物も新鮮に見えてくるはずですから」

いちもとるい/兵庫県出身。滋賀県立大学人間文化研究科修了。九州国立博物館を経て、東京国立博物館主任研究員。「太宰府天満宮の地宝」「始皇帝と大兵馬俑」などの展覧会を担当。論文に「後漢から三国の把手付容器と公孫氏政権」「曹魏の鮮卑頭と郭落帯」「金銅製香炉状品の再検討」など。

INFORMATION

『特別展「三国志」』
東京国立博物館平成館にて9月16日まで。
休館日は月曜と7月16日。ただし7月15日、8月12日、9月16日の月曜日は開館。
https://sangokushi2019.exhibit.jp/

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年7月18日号)

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