テレ東が放つ劇薬『ハイパーハードボイルドグルメリポート』はこうして誕生した

文春オンライン / 2019年7月15日 11時0分

写真

『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート』を手掛ける上出遼平P

「危険すぎる」テレ東社内も激怒 “タブー番組”「世界のヤバい飯」なぜ復活できた? から続く

 テレビ東京がゴールデンタイムに放つ劇薬『ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート  ~ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯~』(7月15日夜9時~)。
 番組は「食うことすなわち生きること」をコンセプトに、これまでリベリアの墓地に住む元人食い少年兵や台湾マフィア、アメリカのギャングといったマジでヤバい奴らの“ヤバい飯”を撮り続けてきた。
 今回はケニアのゴミ山住人の“ヤバい飯”を取材してきたというテレビ東京の上出遼平さん(演出・プロデュース)に話を聞いた。(全2回の2回目/ #1 も公開中)

◆◆◆

生きるか死ぬかの生き方の美しさをどう伝えるか

――アメリカのギャングだったり、ネパールの火葬場で働く人だったり、「みんなどこに住んでいても毎日お腹空くんだよな」って当たり前のことを思い出させてくれる番組です。そもそも「食うことすなわち生きること」というコンセプトはどこから?

上出 食うことは生きることだっていうのは、誰もが「そうですよね」と納得できます。でも、ポーンと浮かんだわけではなくて。ひとつにはスラムだったり、難民だったり、日々生きるか死ぬかという生き方をしている人の美しさをテレビ番組としてどうしたら作れるか。そう悩んだときに、食べ物だと思いました。テレビ的に最も映しづらいものをテレビ的に最も作りやすいもので包み込もうと。

 もうひとつ、小説や紀行文で食にフォーカスを当てたものが一大ジャンルということもあります。例えば『もの食う人びと』(辺見庸)もそうですよね。僕自身、ロケで世界中へ行っていて、色んなところの飯が面白いなというのも感じていましたし。うん、その2つですかね。

――これまでの海外ロケで、印象深いご飯はありますか?

上出 その国がどんな土地か、土壌がどうか、あとは住んでいる人たちの性質も全て食べ物に出るなと思ったんですよ。「この国の人たち、朝昼晩トウモロコシでよく飽きないな」とか。それはアフリカの南の方のマラウイという国なんですけど。三食すべてトウモロコシ。「エナジードリンクあるよ」ってもらったらトウモロコシを発酵させたドリンク。小さい子が布をたすき掛けにして何かをあやしている。よくよく見たらそれもトウモロコシの芯で(笑)。「マジかよ、ほぼトウモロコシでやり繰りしてるな」って。

――マラウイはいつ行かれたんですか?

上出 だいぶ前ですね。入社してから『世界ナゼそこに?日本人』のディレクターをやっていた時代があって。番組では「世界のヘンピなところで頑張る」日本人ばかり取材していたんですけど、日本人と離れた時に現地の人のところに行って、食べ物を観察しては「その食材からこれを作るのか。ん、でもよく考えたら日本のあれと一緒だよな」とか「豆発酵させてるんだ。これって納豆だ」とか。それで「これ自体を番組にしたいな」って思い始めて。

ディレクターデビュー作での「ドラゴンフルーツ事件」

――『世界ナゼそこに?日本人』でも『ハイパー~』でも世界中でいろんなものを食べていると思うんですけど、これまでお腹を壊したことは?

上出 ほとんどない。でもロケから日本に帰った瞬間に壊すというのが僕のベタなパターンですね。

――お腹強いのか、弱いのか……。

上出 緊張がほぐれるとお腹が弛むのかなと。でも今まで2カ国だけ耐え難くお腹を壊したことがあって。インドとインドネシアでした。温度と湿度が高いからでしょうか。インドでは、おばちゃんにもらったドラゴンフルーツみたいなのを食べたんですけど、切ったナイフをその辺で洗っているのが見えて、嫌な予感がして。

「トイレ行きたい」と思ったら、普通はカウント1分ぐらいじゃないですか。でもカウント5秒とかでくるんで、基本的にロケにならないんですよね。そのとき僕のディレクターデビュー作だったんですけど(苦笑)。

――それは?

上出 それも『世界ナゼそこに?日本人』です。『ハイパー~』でロシアのカルト教団を取り上げた回がありましたけど、インドでもオーロヴィルっていう一見カルトっぽいコミュニティーがあって、そのロケでした。そこに日本人が1人住んでいたんです。

「日本人1人で取材に行きたい」AD経験を存分に生かした海外ロケ取材

――海外ロケでは現地のガイドさんとのつながりが大事ですよね。『ハイパー~』でも『世界ナゼそこに?日本人』のときの経験がいきている?

上出 すごく大事ですよね。基本的にゴールデンの番組って、まず日本のコーディネーターが居て、カメラマン、アシスタントとかを連れてその国に行く。さらに現地ガイド、現地ドライバーにも参加してもらってロケをする場合が多いんです。

 だけど『ハイパー~』では、僕は日本人1人で取材に行きたい。だからカメラマンもアシスタントもなし。まあ予算も少ないですし、カメラも僕が自らまわします。極端な話、現地の街並みを分かっているガイドだけ居てくれればいい。「こういうところに行きたい」って言った時に「じゃあ、あそこだな」って連れていってくれれば。だから実際、『ハイパー~』では現地ガイドと2人組か、どうしても運転は別でドライバーが必要だと言われた場合だけ3人体制ですね。

――基本は2人組なんですね。

上出 だから『世界ナゼそこに?日本人』という番組をやっていた時に、いざこういう番組が作れるぞというときに備えて、現地で出会うガイドと連絡先の交換とか、Facebookを聞いてみたりしてました。今でもその時に出会った信頼できる現地ガイドさんと組むことが多いです。

――『ハイパー~』のロケでは現地に滞在する期間はどれぐらい?

上出 大体5日間ぐらいですかね。でも基本的には5日居たら、そのうちのどこか1日で1本分を撮る感じです。いろんな所に行って、いろんなトライをして、面白い人に出会えたらその1人に丸1日密着する。それで1本。それが例えば10日になったからもっといいものが撮れるかというと、別にそういうことでもなくて。10日滞在できるんだったら、もう1本全く別のものが撮れるかなという感覚です。

岩を投げられ取材拒否…… その先にある「彼らの思い」を聞きたい

――今回、ケニアのゴミ山でかなり危ない目に遭ったと先ほど聞きました。ご自身の危機管理は経験も積まれて、自分で判断できると思いますけど、他に3人ディレクターがいる。彼らもそれぞれ1人で海外ロケにいくんですよね。

上出 はい。

――リスクも高い取材だと思うんですけど、危機管理はどうやって教えているんですか?

上出 それはなかなか伝えることは難しいので、そんなに危ないところには行かないようにしてもらっています。それは空気みたいなもので、ちょっとずつ失敗しながら勉強していってもらうしかなくて。うん、本当は一緒にロケ行けたらいいんですけどね。

 さっき言った通り、僕を入れてディレクターが4人いるんですけど、下から2番目のディレクターは僕のアシスタントとして昔一緒にケニアに行って。一緒にシンナー中毒の若者たちに囲まれて、顔ぐらいの大きさの岩をみんなで投げつけられたりもした。それも今振り返ったら結構ヤバくて「うわ、逃げろ逃げろっ!」みたいな。

 まあ彼らの領域に土足で踏み込んだから失礼だったということなんですけどね。当時はそこで拒絶されて終わりだったんです。でも本当はその先に彼らの思っていることを聞けたらもっと面白かったのになって思うし。それができているのが今の番組なんです。

ルールは”飯を見せる”だけ 台本がないからこそ撮れる「リアルドラマ」

――上出さんの撮り方というかイズムみたいなものは他のディレクターにどうやって伝えていますか?

上出 うーん、それも難しいですよね。でもディレクターによって全然違うVが撮れるということも、この番組のいいところ。フォーマットも全く決めてないし、出てくる人の紹介の仕方も全く決めてないので。「何でもいいよ」って。ただ「飯は見せてよ」、そこだけは守ろうねと。

――他のディレクターが持ってきたVTRを見て、すごいビックリしたことってありますか?

上出 『アメリカ 極悪ギャング飯』(2017年10月放送)はビックリしましたね。バウワウっていうろくでもない黒人ギャング……。

――子どもが3人居るお父さんですよね。

上出 そうそう。奥さんと子どもたちは、お父さんが刑務所から出所してもろくに職につかないことに愛想をつかして別居していて。でもこの番組の取材を受けたことによって、お父さんが久々にその家族のお家に行くことになって。

――子どもだけでなく、夫婦の間でも久々の会話が生まれるシーンが印象的です。

上出 映画なんじゃないかと思うぐらいの人間模様。あれは僕には撮れてないだろうなと思いました。人の選び方、入り込み方と、自分が介入することによって何かドラマを起こす。そんなハートフルな結末になるの?って。ディレクター本人もビックリしてましたから。

 この番組は本当に台本がないので、僕以外のディレクターがどんなものを撮ってくるのか毎回すごい楽しみなんです。どんなことがあってもそもそも想定外。今回の特番でも、ボリビアの「人食い山の炭鉱飯」とブルガリアの「密漁キャビア飯」をディレクターが撮ってきています。期待してください。

「幸せの感じ方を知ってほしい」

――シリーズ通して、MCを担当されている小藪さんが今回のゴールデンの放送について「子どもに見せるべき番組だ」という風にもおっしゃっていました。

上出 日本ではかなり偏った”幸せ教育”がされていると感じることが多くて。この番組を企画したきっかけも、いろんなスラム街や貧困街を歩いている時に見かけた、すごく楽しそうに暮らしている子どもたちなんです。その日暮らしのような子たちが、俺のことを「ジャッキー・チェンが来た」と言って笑う。とにかく本当に楽しそうなんです。だから、なんで日本はこうじゃなくなっちゃってるのかなって。日本の子どもたちにこそこの『ウルトラ~』を見ていただいて、幸せの感じ方を知ってほしいと思います。

――最後に番組名なんですけど『ハイパーハードボイルドグルメリポート』って、略称はないんですか。

上出 それ、僕も含めてテレビ東京みんな頭を抱えていて。しかも今回の特番は「ウルトラ」まで付けちゃった(苦笑)。

――ネットの記事タイトルをつけるときも番組名が長いと悩みます。

上出 局内でもいろんなことを言ってます。僕は「ハイパー」って呼んでるんですよ。ちょっと前までは「グルメリポート」だった。うちのディレクターは「HHGR」とか言ったりして。いや、それ表記的には短いけど、口に出したら結構長いよって。

――視聴者が番組を見ながら、ツイートするときも困りそうです。ハッシュタグつけてつぶやきたい人もいますし。

上出 何がいいですかね。日本語にしたら「#超固ゆで飯報告」みたいなことなんですけど。

――「#ハイパー飯」はどうですか。ハイパーはイメージが強いです。

上出 でも、たまにTwitterで見てると結構「スーパー~」に間違われてて。

「めちゃイケ」みたいにいい略称ないですかねえ。あ、「#ヤバい飯」もよく言われますね。うん、「#ヤバい飯」いいかも。もし良かったらこの記事を見た人はそれでつぶやいてみて欲しいですね。


#1 「危険すぎる」テレ東社内も激怒 “タブー番組”「世界のヤバイ飯」なぜ復活できた?
https://bunshun.jp/articles/-/12825

写真=平松市聖/文藝春秋

かみで・りょうへい/1989年生まれ。早稲田大学法学部卒。2011年テレビ東京入社。バラエティ番組を制作する制作局に配属。『ありえへん∞世界』のADを務める。その後ADとして『世界ナゼそこに?日本人』の立ち上げに関わり、当番組でディレクターデビュー。海外ロケばかりを繰り返す6年間を経て、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を立ち上げ。現在は『学校では教えてくれない!所さんのそこんトコロ』のディレクターなど兼任。

(てれびのスキマ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング