「潮風に当たるとボクは元気になる」人口200人の離島で進次郎が久しぶりの笑顔を見せた

文春オンライン / 2019年7月20日 11時0分

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©常井健一

「ワイドショーの主役」小泉進次郎の遊説を支える鉄壁の自民党軍団 から続く

 令和に入って初めての大型国政選挙となった今回、小泉進次郎は17日間の選挙戦中、全国17の選挙区を応援に回った。北海道、秋田、岩手、宮城、山形、福島、茨城、神奈川、新潟、長野、三重、滋賀、香川、愛媛、大分、佐賀、長崎。地元の神奈川、複数区の茨城と北海道、そして自民党現職が優勢の佐賀を除けば、いずれも自民党候補が苦戦を強いられた激戦の1人区である。

 だが、応援の密度はこれまでと大きく異なった。3年前の前回の参院選は1日長い18日間だったが、あわせて21の選挙区に入った。最後の3日間だけで20か所の街頭に立った。それが今回のラストスパートは9か所と、前回の半分以下にとどまった。

「小泉が入りたくないと言っている選挙区」の噂

 公示される1か月ほど前、小泉は自らに近い現職候補の決起集会でスピーチした際、こんなことを述べていた。

「この夏の参院選では全国を回ることになりますが、私が応援する方の中にもいろんなタイプがあります。応援に行けと言われて行く人か、状況が厳しいから行かなきゃいけない人か、行かなくても大丈夫だけど私から『行かせてくれ』と言って行く人か」

 同じ頃、永田町では「小泉が入りたくないと言っている選挙区」がまことしやかに語られ、党内では物議を醸した。結局、小泉はその選挙区に入らなかったので、噂は間違っていなかったようだ。党本部も彼を気遣ったのだろう。

 一方で、候補者本人と揃い踏みする会場は少なかった。

「今日、私は県内を何か所も回っているけど、○○さんとは一度も会いません。それでいいんです」

 小泉は自虐的な振りで、聴衆の笑いを誘う。劣勢に立たされた選挙区では、候補者がいようがいまいが、本人の弱点や悪評を大勢の前であえて取り沙汰した。これは高度な応援技術なのか、受け狙いなのかよくわからない演説が目立った。

「Who are you?」という疑問が残ったまま

 最も残念だったのは、自ら「全国行脚のテーマ」として掲げた年金問題のことである。小泉は遊説を丸1日休んだ7月16日以降、その問題に一切触れなくなった。

 たしかに、選挙も終盤戦に入れば、個別の政策を訴えている場合ではない。だが、小泉は公示直前にあるネットメディアに仕掛け、厚生労働部会長として進めてきた社会保障改革の詳細を拡散させるまでして、周到に「見せ場」を整えてきたはずだ。

 本連載でも小泉が社会保障を考える視座に着目し、遊説を通じた国民との対話の中で彼の構想が日に日に磨かれていくものかと期待していただけに、少々面食らった。

 19日の昼、小泉はなぜか4日ぶりに年金問題を持ち出した。

「年金は高齢者の問題。それは違います。若い人だって同じです。『どうせもらえないんでしょ?』と思っている方が多い。そんなことありません。年金が崩壊する、破綻すると言っている人がいます。だけど、それは嘘です。世の中おもしろいですよ。前向きなことを言うより不安を煽った方がもっともらしく聞こえるんです。だから、不安を煽る人がいっぱいいるんです。私はそんなことに与さない」(秋田県鹿角市での演説より)

 小泉は山あいの駅前で行った演説の中で、「パート」「非正規」「氷河期世代」という単語を口にした。 この連載の#4 でも指摘したが、選挙戦16日目にして初めてのことである。「私も就職氷河期の世代」とも言った。

 突然どうしたのだろうか――。

 会場の報道エリアに目をやると、NHKのテレビカメラがあり、近くには東京から来た同局の番記者の姿があった。演説会終了後、小泉は記者に軽く会釈をした。

 その晩、19時と21時のニュースでその映像が取り上げられた。おそらく、小泉は事前に全国放送されることを知らされていたのだろう。私は「彼らしいパフォーマンスだ」と唸った。

 私は今回、小泉が17日間で回った61の演説会場のうち、半分以上の会場に足を運んだ。人気弁士の能弁ぶりに圧倒されるような毎日だったが、社会保障政策の大手術を前にした国民への「インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)」は、自民党厚生労働部会長の口からとうとう果たされることはなかった。

 小泉進次郎という政治家は、誰のために年金制度を改革したいのか、どんな体験をもとに国民の命を預かろうとしているのか。「Who are you?」という疑問が残ったまま、夏の参院選が終わろうとしている。

「政治家イコール政策で世の中が動くわけではない」

 今回、とても印象に残っている小泉の言葉がある。

「政治家にとって一番怖いのは、なんにも声をかけてこなくて黙々と見ている人の眼なんです。一体、応援するという気持ちの眼なのか。それともやっぱりダメだと思って見られている眼なのか。いろんなことを考えて悩みます。(中略)

 政治家イコール政策で世の中が動くわけではない。政治というのは面白いですよ。Aという政治家、Bという政治家、Cという政治家。3人の政治家がいて同じことを言ったとしてもAさんの言うことなら聞こうとなる。最後、政治は人がやるんです。政策は1人ではできません。多数が必要です」(7月13日、愛媛県新居浜市での演説から)

 人気先行で「何もやっていない」と言われ続けてきた政治家は今、狂おしいほど「成果」にこだわっている。だが、こうした演説を聞かされると、きっと彼はどんなに言葉を尽くそうと、自分はまだ「Aという政治家」になりえていないという諦念を抱いているのかもしれない。

 全国行脚の移動中、周囲に「明るく行こう」と妙に繰り返している様子を見ながら、私は社会保障をめぐる「体重と体温が乗った言葉」がなかなか繰り出せず、どこか浮かない顔をしている彼の胸の内がずっと気になった。

なぜあえて人口200人の離島を選んだのだろうか

 今回、ようやく小泉の明るい笑顔を見られたのは、最終盤の18日だった。

 その日、小泉はこの選挙で2度目(3日目)となる山形入りをした。彼が選んだ遊説先は、日本海に浮かぶ山形県の離島、飛島(人口約200人)。6年前の参院選で、「1日1島」の離島巡りをテーマに全国を行脚した時以来の再訪である。

 この参院選で最も熾烈な激戦区の1つとなった山形において、しかも陣営からすれば大都市の無党派層向けのてこ入れをしてほしい残り3日の時点で、なぜあえて過疎地を選んだのだろうか。

 島に向かうため、チャーターした小型漁船に乗り込む直前、小泉は繁忙期を迎えた牡蠣漁師らを前にした演説でこう語った。

「きっと、山形県が地元じゃない国会議員の中で飛島に2度も行ったのは、おそらく私1人。しかも選挙期間中に。でも、人に言われます。何で大きな町の市街地のど真ん中で何百人も集めてやらないで、200人のところに行くんだと。私からすると『そうじゃない!』。『飛島に行くほどの激戦』なんです。だから、山形県内には総理も官房長官も入っていますよ。いろんな方が応援に入っている。だけど、誰も応援に入っていないのが飛島。そして、今いる吹浦。これからの日本、他人が行かないところ、他人がやらないところ、そういうことで頑張ることに、意味がある」

 山形県遊佐町にある吹浦という小さな漁港には300人近い人が集まった。11時半頃に小泉が現れるまで、小さな漁師町の人々は「どうしてこんな辺鄙なところを選んだんだべ」と一様に首をかしげていたが、地元のマスコミ関係者らは、政治的な集会にめったに顔を出さないというムラの若手たちが勢揃いした光景に驚いていた。

「こないだ近くであった自民党の集会に野田聖子が来た時より人が集まっているよ」(地元の新聞記者)

「疲れ切っている時、潮風に当たるとボクは元気になる」

 鄙びた船着き場に集まったこれだけの賑わいを見て、小泉も安堵したのだろう。何かが吹っ切れたような表情で漁船に乗り込むと、約1時間かけてとびうお漁で有名な離れ小島を目指した。

「どうして島に行くって。島に行きたいと思ったから。好きとしか言えない。それで、山形選挙区に入るならば、飛島に行こうと思ったんです。山か海か、どっちが好きかと言ったら断然、海。横須賀で海に囲まれて育ってきたから。疲れ切っている時、潮風に当たるとボクは元気になる」

 小泉はそうつぶやく。

 小泉が飛島に上陸すると、集まったお年寄りたちから握手攻めの歓待を受けた。「こないだブラタモリが来たんだから、『ブラシンジロー』で行こう」。そんな冗談を口にしながら、若者が営む小さなカフェ「しまかへ」に歩を進めた。そして店員に勧められるがまま、名物の「飛び魚焼き干だしアイス」を頬張った。

 その後、小泉は芝生に置かれたビール箱の上に乗り、島の人々に語りかけた。

「今日6年ぶりに来てうれしかったのは、前に来た時にできたばかりだったあのカフェの営業が続いている。スタッフさんも3、4人だったのが今は14人と聞いて、うれしかった。アイスの名前も覚えにくいですね。『とびうおやきほしだしあいす』。言えました!」

 演説はこう続く。

「飛島は日本で一番早い投票日です。本来は21日ですけど、飛島は島だからと言うことで明日です。今日が期日前投票の最終日。だから、私が来たということもあるんですけど(笑)。さっき聞きました。この島にはもう子どもがいないと。さっき、82歳で現役の漁師さんのナガハマさん、『今日もサザエ取ってきた』と伺いましたけど、この島の(漁師で)最年少の方が50歳くらいですか。ということは、この島は子どもがゼロという悲観的な話ではなくて、私みたいな政治家からすると有権者100%の島だということですよ。何事も見方を変えれば、ゼロが100になる!」

 島民の半分に当たる100人近い聴衆を前に小泉がマイクでそう言うと聴衆たちの笑い声が港に響き渡った。

いつものように閣僚選びの目玉候補に浮上するだろう

 結局、島に滞在できたのは約1時間。帰りの定期船に乗り込んだ小泉は座席には付かずにデッキに立ち、船着き場から見送る島民たちが見えなくなるまで手を振っていた。

「日本ってどうしても前例がないことをしたがらない。ボクは前例がないところに前例をつくりたい。そういうタイプ」

 そう話す小泉は参院選が終わった後、こんどはどのような「夢」を語り始めるのか――。

 秋にやってくる人事では、いつものように閣僚選びの目玉候補に浮上するだろう。小泉は6月に政府の方針に盛り込まれた社会保障改革を実現させようと躍起だ。今回、これまで距離のあった安倍晋三のことを持ち上げ、「我こそは年金改革の提唱者だ」と言わんばかりの演説を続ける姿は、彼の行動を長く見続けてきた私にとって「不慣れな猟官運動」をしているようにしか見えなかった。

 私がかつて期待したのは飛島で見た「潮や土の香りがする小泉進次郎」である。だが今は、なんにも声をかけずに黙々と見ているのが良さそうな時期なのかもしれない――。

 そう戸惑いながら、プライベートな福祉の課題を抱える私は17日間に及ぶ長い旅を終え、地べたを這うような日常に戻ろうとしている。

写真=常井健一

(常井 健一)

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