『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

文春オンライン / 2019年8月4日 11時0分

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©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

 十代のころ、みんなで何かやる“お祭り”的なものが本当に苦手だった。一対一の友達ならともかく、仲間なんてしゃらくせぇもんはいらねぇよと思っていた。でも四十代を迎えてから、「今なら、必要だ。愉快な仲間って奴が……」と考えが変わってきた。どうしてかっていうと……?

 さて、この作品は、フランスの中年男性による、エスプリの効いた“男のシンクロナイズドスイミング”映画なのだ。

 ベルトランは二年前に職を失って以来、妻子に白い目で見られつつ、引きこもって暮らしている。ある日、公営プールで男のシンクロチームと出会い、ときめいて、メンバー入り。同世代の男どもと、脂肪のついたお腹を揺らしながら、世界大会を目指して練習に励むように。

 メンバー全員が、家庭や仕事、人生そのものの袋小路に迷いこんで悩んでいる。若者が主役のドラマとちがうのは、彼らの前に広がっているのが、希望に輝く未来ではなく、少しずつ色を失いながら、茫漠と続く、あてどない曖昧な時間だということだ。

 彼らを指導する女性コーチもまた、夢破れた元有名選手だ。人並み外れた努力家だけに、努力では越えられない現実(不幸な事故や、不毛な恋愛)に打ちのめされてしまっている。そんなチームがやがて団結。力を合わせ、世界大会に出場する。

 中年以降、人生が大きく変わることはあまりないと思う。今から勝ち組を目指すためじゃなく、“何も起こらないこと”“人生がただ続いていくこと”のかけがえのなさを、一人の大人が改めて受け入れるためには、“愉快な仲間って奴”が必要だ。家族や恋人、一対一の友達とも違う人間関係が、中年の危機を乗り越える生命線となる。

 最後に世界大会で披露されるエアギター付きロック・テイストの“フランスおじさんシンクロ”は、いい意味で悪夢みたいでした……。

INFORMATION

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開中
http://sinkorswim.jp/

(桜庭 一樹/週刊文春 2019年8月8日号)

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