ホワイト国除外で日韓関係は底が抜ける。文在寅は徴用工問題をここですり替えた!

文春オンライン / 2019年8月5日 5時30分

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臨時閣僚会議で「盗っ人猛々しい」と日本を批判する文在寅大統領 ©アフロ

 日韓関係が今までにない局面を迎えている。日本の輸出管理体制の見直しに韓国側が強く反発。民間レベルでも日本製品の不買運動が起こるなど、広がりを見せている。様々な情報が錯綜するなか、この問題をどう判断すれば良いのか。韓国と文在寅大統領の実像について、韓国政治や日韓関係が専門の同志社大学教授・浅羽祐樹氏に聞いた。

もはや友好国ではない

 日本政府は8月2日、輸出管理の優遇措置を受けられる「ホワイト国」から、韓国を除外する政令改正を閣議決定しました。この決定により“史上最悪”と言われていた日韓関係は、一気に底が抜けるでしょう。

 7月に打ち出された、半導体素材に関する輸出管理の見直しは、限られた品目の話でもありますし、自由貿易体制下でもありえる措置です。一方、ホワイト国指定の除外となると、日本側から「安全保障上の懸念がある」「もはや友好国ではない」と宣言するに等しい。ひとたび除外すれば、再び「ホワイト国(カテゴリーA)」に指定するのはハードルが高い。日韓どちらも一歩も引けない「ガチンコ対決」「チキンゲーム」の状況に陥っています。

 これまでも、日韓には外交上で緊張する場面がありました。しかし、在日米軍と在韓米軍が連動している以上、安全保障上の戦略的利益を共有していた。そこが“最後の砦”でした。ところが昨年12月のレーダー照射事件で、安全保障の領域ですら、決定的に信頼関係を失ってしまった。

 もはや日韓関係の局面が変わり、われわれがかつて見たことのない状況に直面しています。

「解決済み」を反故にした韓国側の理屈

 今回、日本の輸出管理体制の見直しを受けた韓国側の反応は、激しいものでした。これほど強い反発は、なぜ起こったのでしょうか。

 韓国は、今回の措置を「歴史問題に対する報復」と理解しています。特に、日本企業に対して元「徴用工」(旧朝鮮半島出身労働者)への賠償を命じた昨年の大法院(韓国最高裁)判決についての報復だというのです。韓国側は「大法院の判決で差し押さえられた資産の現金化は、早ければ8月と言われていたのに大幅に遅れている。まだ日本に実害が生じていないではないか。それなのに、経済的な戦争を仕掛けてきた」と捉えている。つまり、日本側が先に挑発し、本来別の領域である経済と絡めたのは国際法違反であると考えている。

 これは韓国側の完全な誤解です。日本企業の資産が差し押さえられている時点で、すでに実害が及んでいます。にもかかわらず、そこまで考えが及んでいない。韓国側の認識はその程度なのです。日本側が「徴用工」問題の大法院判決に関する韓国政府の無作為について、「国際法違反状態の放置」「日韓関係の法的根幹への挑戦」として厳しく受け止めていることも、正しく理解されていません。決定的なすれ違いが続いているのです。

アクロバティックに変化する韓国の理屈

 そもそも、1965年に締結された日韓請求権協定では、両国間の請求権に関する問題は〈完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する〉、〈いかなる主張もすることができないものとする〉と明記されています。より上位の規定である日韓基本条約で、1910年の韓国併合は「もはや無効」と確認した上で、同協定は結ばれています。日本の政府も司法も、この立場に立っていますし、韓国も「徴用工」に関しては、同じ立場だったはずでした。
 
 盧武鉉政権下の2005年、日韓国交正常化40周年の際に、韓国政府は請求権協定についての法的な立場を見直して、「慰安婦」「被爆者」「在サハリン韓国人」について、個人請求権は放棄されていないとしました。このときも「徴用工」の扱いが論点になりましたが、「65年の協定締結の経緯やその後の韓国内の措置を考えれば、他の3つとは一緒にできない」として、「法的には解決済み」と確認しました。ちなみに、文在寅大統領は、当時大統領府の高官で、当事者でした。
 
 それが2018年10月の大法院判決では、日韓併合は「もはや無効である」というのではなく、「そもそも無効だった」という主張に立ち返った。1910年から45年までの日本による韓国統治は強制占領にすぎず、「不当で不法」ということです。だから請求権協定とは無関係に、不法行為の慰謝料を元「徴用工」に支払え、という理屈にアクロバティックに変化したのです。

文在寅は“反「親日派」大統領”である

 では、そういった変化の真っ只中に立つ文大統領とは、どういう人物なのでしょうか。
 
 文大統領について、「反日」だとか、「親北」だと言われますが、私は少し違うのではないかと考えています。あくまで、国内の保守派を悪と捉えることが第一である「反『親日派』大統領」なのです。少し事情を説明しましょう。

「積弊清算」が歴史的使命

 文大統領は、2016年10月~17年3月に起きた、朴槿恵前大統領を弾劾・罷免した「ろうそく革命」の結果として誕生した大統領です。よって、17年の大統領就任当初から、保守派の政権下で積み重なった弊害を否定する「積弊清算」を歴史的使命と自任しています。

 それは、朴槿恵政権が結んだ2015年の日韓「慰安婦」合意は誤りで、その父・朴正熙元大統領が行った日韓国交正常化も「誤った過去清算」だったという前提に基づいています。そのため、「日帝強占(日本帝国主義による強制占領)」をきちんと清算しなかった保守派こそが、文大統領からすれば最も断罪すべき存在です。

 つまり、文大統領は植民地期に日本に協力した「親日派」を断罪した。それだけでなく、その「親日派」の清算に失敗した保守派は真っ当な政治勢力ではないと言うのです。つまり、進歩派の文大統領にとっての対日外交というのは、韓国国内の「保守派=親日派」叩きの延長線上なのです。

文在寅政権は「革命政権」

 そして、文政権の方針を理解するとき、考えるべきはこの政権が「革命政権」であるということです。朴槿恵政権という「不正な権力者」を排除した革命政権であることが、彼ら自身の正統性の根拠であり、その革命は現在も進行中なのです。

 そもそも、韓国は“民の力”で、歴史を「進歩させてきた」過去があります。1960年に当時大統領だった李承晩を大規模な民衆デモによって下野させた四月革命もその一例です。

 なにか問題が発生したとき、日本なら法の適正手続きで問題を解決しようとするでしょう。それに対して、韓国では、主権者である「我ら大韓国民」(韓国憲法前文)が自ら前面に出てきて、法や合意よりも「正義」や「道徳」を貫いて、歴史的飛躍を遂げようとするのです。近年の韓国の対日姿勢には、このような「革命」思考、「進歩」観がよく出ています。日本は、人権や脱植民地主義の領域で「遅れている」という認識なのです。

大統領を悩ませる厳しい経済情勢

 文政権は3年目に入りましたが、依然として「積弊清算」を続けています。当初は、8割を超える支持率を得ていた文政権ですが、時間が経つにつれて、国内外の問題をすべて前政権の責任にはできなくなっています。

 特に厳しいのが経済です。最低賃金の全国一律の急激な引き上げや若者の雇用創出、大企業偏重の経済システムの是正など経済政策に力を入れていますが、最低賃金の引き上げでは当初の目標達成期日を撤回するなど、その成果は芳しくありません。

 なかでも雇用は最優先の政策でした。大統領に就任して真っ先に行ったのは、大統領の執務室に、雇用政策の推進状況を18の指標で確認するための電光掲示板を設置することでした。雇用を安定させ、経済成長に努めたいという狙いですが、国民もそのロジックが破綻しはじめていることに気付いています。

 例えば、「2020年までに最低賃金を時給1万ウォン(約1000円)にする」という政策。文氏は大統領就任からわずか2年で、3割近くも最低賃金を上げました。しかし、実態としては、各方面から反発の声が上がっています。というのも、全国一律で最低賃金を上げたために、地方を中心に中小企業や自営業、食堂など、安いアルバイトを雇用してなんとか営業している業態で、人員を削減する動きが起こり、結果として人手は減って労働強化になるばかりか、韓国全体の雇用が伸び悩んでしまいました。

 韓国では、来年4月に総選挙を控えており、政権にとって経済対策は最重要課題です。その頃までに、今回のホワイト国除外によって経済的影響が広がり、それが政治的にも跳ね返るようだと、文大統領も「徴用工」問題で動く可能性が出てきますが、今のところ、危機時には「挙国一致」で政権を支えようという「旗下集結効果」が見られます。

当事者意識なき文在寅政権

 文政権の課題として、前政権の否定が最優先になっているため、「我々はこういう国を創っていく」というポジティブな政策がなかなか出てこないという点があります。

 それこそ、朴槿恵政権の慰安婦合意についても、事実上反故にしておきながら、再交渉は求めない。「徴用工」判決についても、司法の判断は尊重せざるを得ないとは言うけれど、韓国政府の立場も表明しない。

 少なくとも、先述の2005年に政府が表明した立場と違うことははっきりしているのに、対外的に韓国を代表するはずの政府、何より大統領が、この問題を整理して何らかの形を示すこともない。「韓国を代表して、この国の立場を決めるのは私である」という認識が、文大統領からは伝わってこないのです。

 朴槿恵前大統領には、曲がりなりにも当事者意識がありました。「徴用工」訴訟の進行を遅らせようと、司法に手を突っ込んだところで潰れたとの見方もあるほどです。

 結局、文大統領には当事者意識といったものが欠けていると言わざるを得ません。

 そして、文大統領は「革命家」だと言いましたが、彼の革命家としての物語の道筋と、国際社会で通用するロジックは明らかに乖離しています。彼自身がそれに気付き軌道修正するのか、このまま「積弊清算」をはじめとする「革命」路線を続けるのか、文大統領とともに大韓民国はその岐路に立たされています。

 日本政府は、輸出管理体制の見直しや「徴用工」問題において原理原則を貫き、ロジックとエビデンスを示すべきです。それに加えて、オバマ前大統領が広島を訪問し被爆者を抱擁したシーンのようなグッとくる「一枚絵」になるエピソードを演出し、国際社会の「心と精神を勝ち取る」ことができるかどうかも鍵です。

浅羽祐樹(あさば・ゆうき) 1976年大阪府生まれ。同志社大学グローバル地域文化学部教授。北韓大学院大学招聘教授。著書(共著)に『知りたくなる韓国』『戦後日韓関係史』など。ツイッターアカウントは @YukiAsaba

(「週刊文春」編集部)

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