「寝違えた……」は大きな勘違い!? 「頚椎症性神経根症」を見逃さない5つの診断ポイント

文春オンライン / 2019年8月10日 11時0分

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 朝起きたら首が痛い――。

 そんな時、たいていの人は「寝違えたか!」と思うだろう。

 実際、寝違えたつもりで首を安静にして数日過ごしているうちに症状も消えて行った。

「やっぱり寝違えたんだな……」

 と納得しているあなた。

 もしかしたらそれ、「頚椎症性神経根症」という“別の疾患”かもしれません。

◆◆◆

「寝違えた」いつものことだと放置していたら……

 大手ゼネコンの経理部に勤めるKさん(38)は、朝起きたときから首から右の肩甲骨の内側にかけて違和感があった。過去に何度か寝違えた経験のある彼は、「またやったか……」とため息をつきながら出社。以前寝違えたときは、時間の経過とともに症状も軽快していったので、それほど深刻には考えていなかった。

 その時期、決算を前にして忙しかったKさん。仕事のことで頭がいっぱいで、首の痛みどころではなかったのだ。

 その日も朝からパソコンに向かっていたが、いずれよくなると思っていた首から肩甲骨にかけての違和感は、逆に次第に強い痛みになっていく。それどころか、右腕にも痺れるような症状が出てきた。午後になると我慢できないほどの激痛に進展していった。

 以前何度か経験した寝違えとは明らかに違う症状に恐くなったKさんは、上司に願い出て病院を受診した。

 問診にCTなどの画像診断の結果を加味して下された診断は、寝違えではなく、「頚椎症性神経根症」という聞きなれない病名だった。

 人間の背骨は33個の「椎骨」という、中央に穴の開いたドーナッツのような骨が重なってできている。このうち一番上で「首」を構成している7つの椎骨を「頚椎」とよび、ここに異常が起きるのが「頚椎症」だ。

 椎骨の中央の穴(脊柱管)を太い神経が走っていて、そこから枝分かれする細い神経が、腕などの感覚をつかさどっている。

 この「枝分かれした細い神経」が、頚椎の一部に当たって刺激を受け、痛みやしびれを起こすのが「頚椎症性神経根症」だ。

 国際医療福祉大学三田病院整形外科・脊椎脊髄センターの磯貝宜広医師に解説してもらう。

『寝違えた』と思いこむケースが多発 「頚椎症性神経根症」とは

「“神経根”とは、脊柱管の中を走っている太い神経から枝分かれした細い神経のこと。これは脊椎の隙間から外に出る時に狭い隙間を通りますが、頚椎に問題がなければ、骨が神経根を圧迫することはありません。ところが、骨も経年劣化します。骨の一部がささくれ立って“骨棘(こつきょく)”というトゲのような突起ができることがある。このトゲが神経根を圧迫して痛みやしびれなどの症状を引き起こすのが頚椎症性神経根症なのです」

 疾患名が知られていないわりに、頚椎症性神経根症の患者は多い、と磯貝医師は指摘する。

「当人が勝手に『寝違えた』と思い込んでいるケースが多いのです。いわゆる“寝違え”とは、睡眠中の不自然な姿勢によって引き起こされる首周囲の”筋肉痛”で、神経が刺激されて起きる頚椎症性神経根症とはまるでメカニズムが異なる。でも、頚椎症性神経根症の大半が、最初のうちは強い痛みが出ても、痛い姿勢を避けて安静にしておくと自然に治るので、医療機関を受診する前に治った人の多くが、『あれは寝違えだったんだろう』と思い込んでしまうのです」(磯貝医師)

「自然に治るから大丈夫!」が落とし穴 悪化すると”手術”も!?

 自然に治る明確な理由は明らかになっていないが、「時間の経過とともに骨棘の刺激を受けた神経が回復することと、神経が刺激に馴れていくためではないかと考えることもできます」と磯貝医師は分析する。

 自然に治るなら、何も「文春オンライン」が取り上げる必要もないではないか――と考えてはいけない。正しい知識を持たないと、えらい目に遭う危険性があるのだ。

 Kさんのように、症状があるうちに医療機関を受診して診断を受ければ問題はない。いずれ症状が引いていくまでは、非ステロイド性抗炎症薬や神経障害性疼痛治療薬などの服薬で痛みを取ればいい。他にも痛みを発している神経根にブロック注射を打ったり、人によっては「牽引」などの理学療法が効果を発揮することもあるという。

 ところが、自己診断で「寝違えた」と思い込み、妙なことをすると、事態を悪化させることがあるというのだ。

「よかれと思ってマッサージなどを受けて、悪化させた末に手術に移行するケースもある。自己診断は危険です」(磯貝医師)

 ここでいう手術とは、首を小さく切開し、神経根を刺激している骨棘や周りの組織を削る――というもの。「手術は時としてとても有効な手段」と磯貝医師は言うが、「首の手術」と聞けばやはり恐い。先般発表されたネプチューンの名倉潤のように、手術そのものは成功しても、それに付随する痛みでうつ病を引き起こすこともある、と考えると、なるべくなら手術に移行しないように治したいと考えるもの。

 そのためには、「頚椎症性神経根症」という読みづらい病名を覚えておき、その可能性がある時は素人診断をせず、速やかに医師の診断を仰ぐべきなのだ。

30~50代は要注意 「寝違えた?」で確認したい5つのポイント 

 もう一つ注意したい点として、頚椎症性神経根症は、たとえ治った様に見えても、疲労や強い精神的なストレスを抱えると再発することが多い、という点だ。ストレスで肩が凝ることはあっても、「痛み」となればちょっと話も違ってくる。ストレスを背負い込むたびに首の周囲が痛くなる人も、この病気の可能性があるのだ。

 磯貝医師は、「寝違えたかな?」と思った時は、次の5つのことを考えてほしい、と呼びかける。

「頚椎症性神経根症」を疑う5つのポイント 

 (1)    首を上に向けると痛む

 (2)    痛みで首を動かせない

 (3)    腕全体に痛みとしびれが出る

 (4)    肩甲骨の内側が痛む

 (5)    痛む部位を押しても痛くない

 特に(4)の「肩甲骨の内側の痛み」は、他の疾患ではまず出ることのない、特徴的な症状だという。

 ちなみに、好発年齢は「30代~50代」。

「不思議なくらい、きれいにこの年代に収まるんです。若い人は神経が丈夫だし、高齢者は神経に“たるみ”が生じるので、骨棘の刺激を受けにくくなる。つまり、神経がそれなりに劣化してきて、それでもまだ“ハリ”がある年代に起きやすい痛み――ということができるのかもしれません」(磯貝医師)

「頚椎症性神経根症」という病名を覚えるのが大変だという人は、せめて「寝違え」とよく似た別の疾患がある、ということだけでも覚えておいてください。

(長田 昭二)

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