男性からプレゼントされたぬいぐるみの体内から大量の髪の毛が……“レンタル彼女”が体験した怖すぎる話

文春オンライン / 2019年8月11日 17時0分

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※写真はイメージです ©iStock.com

女子学生絶叫! 彼女が“開けてはいけないクローゼット”の中に見たものとは? から続く

 京都・蓮久寺の三木住職のもとには、助けを求める人が絶えません。ポルターガイストに悩まされる人、人形をお祓いしてほしい、さまよう霊を供養成仏させてほしい……。そんな実話や自身の体験など、現代の怪談、奇譚の数々を収めた『 続・怪談和尚の京都怪奇譚 』(文春文庫)より背筋の凍る2篇を特別公開。見えない世界に触れることで、あなたの人生も変わるかもしれません。

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知り合いの女子大生、吉田さんの最初のお客様

 皆さんは、「レンタル彼女」というお仕事をご存じでしょうか。聞かれたことのない方も、大体の想像がおつきかもしれません。

 レンタル彼女とは、彼女をレンタルする、すなわちお金を払って、一定の間、彼女になってもらうというものです。

 このレンタル彼女というお仕事があるのを知ったきっかけは、私の知り合いの女子大学生の吉田さんから、このアルバイトをするとお聞きしたことでした。

 彼女によりますと、主な仕事の内容は、お客様の話し相手、食事相手になるというもので、簡単に言えば、人に言えない悩みや愚痴を聞くことだそうです。

 今回は、この大学生の吉田さんが体験されたお話です。

 私がこのお仕事を始めて、最初のお客様は、年齢が30代半ばの男性で、小太りでリュックを背負った、長髪の方でした。

 この男性は、女性と話をするのが苦手で、レンタル彼女で女性と話が出来るようになるための練習をしたいと、申し込まれたのだそうです。

 初め男性は、私の顔も見られないほど緊張した様子でした。俯いて何もお話しされないので、会話のきっかけを作るにはどうしたらよいかレクチャーしたのです。

「まず女性に、趣味は何ですかと、男の方から聞いてあげたらどうですか」

「あ、あ、そうですね。それじゃあ、趣味は何ですか」

 男性の声は小さく震えています。

「私の趣味は、クマのグッズを集めることです」

「あ、そうですか……」

 また俯いてしまった男性に、すかさず諭します。

「そういう時は、どういったグッズですかって、話を膨らまさないと」

「なるほど。どういったグッズですか」

「そうですね、クマのグッズというのは、このキーホルダーとか……」

 その後も、私のアドバイスを、男性がオウム返しで話すことを繰り返し、早くも1時間が過ぎようとしていました。

 最後に、「髪は長いよりも、短い方が似合うと思いますよ」と言って別れました。

 1人暮らしのアパートの部屋に戻って、男性に話し方や髪型まで変えるように言ったのは、言い過ぎたかもしれないな……と反省しました。もしかしたらもうレンタルされないかもしれないとも。

 しかし予想に反し、1週間ほどが過ぎた頃、会社から、再びあの男性から指名があったと連絡が来たのです。

 再びバイトができると喜んで男性との待ち合わせのカフェに行きました。すると驚くことに、男性の長かった髪の毛はバッサリと切られて短髪になっていたんです。

「髪の毛、切られましたね。とてもお似合いですよ」

 そう言うと、男性は嬉しそうに微笑まれて、

「女性に褒められるのは初めてです。すこし自分に自信がつきました。他にもなおした方がよいところはありますか」

 男性に感謝されたことに気をよくして、私は遠慮なく思っていることを話しました。

「そうですね……、相手の体型を気にする女性は多いと思います。もっと痩せた方が格好いいと思いますよ」

 まだ2度会っただけの他人に対して随分失礼なことを言ってしまったと思いますが、男性は嫌な顔ひとつせず、「わかりました」と頷きました。

 この日も1時間が過ぎようとする頃、男性は、何か意を決したように、

「あの、今日はプレゼントを持って来ました。受け取ってくれますか」

「え、本当ですか!?」

 まったく想像していませんでした。男性から、リボンの付いた大きな紙袋をカバンから取り出して渡されました。

 紙袋の中身は、クマの縫いぐるみが付いた帽子でした。正直なところ、この帽子は遊園地などで被るとおかしくはないけれど、普段街中では被れないな、とは思いました。そうは思いましたが、この男性が、クマのグッズは何かないかと、頑張って探し回って選んでくれたのだと思うと嬉しかったです。

「ありがとうございます。大切にしますね」

「女性にプレゼントして喜んでもらえたのは初めてです」

 男性が喜んでくれると、何となく自分も人の役に立てていることが嬉しくて、このお仕事を楽しいと思えました。

 そして、また1週間ほどが経った頃、あの男性から指名がありました。

 いつものように待ち合わせのカフェに行くと、男性は右足を引きずっています。足を怪我されたのですかと尋ねると、ダイエットしようとマラソンを始めたのですが、慣れない運動で足を挫いてしまって……と苦笑いを浮かべます。前回、もう少し痩せた方が良いと助言したことを素直に受け止め、実行されていたのです。

 なんて素直で努力家なんだろう。ますます好意を懐きました。

 男性との話も1時間が過ぎようとした頃、再び男性が「今回もプレゼントがあるんです」と、カバンから袋を出しました。

 袋の中身は、クマの縫いぐるみが付いたスリッパでした。

「いつも、ありがとう。これも大事にしますね」

 男性は嬉しそうに帰って行かれました。

 部屋に帰って暫くすると、何となく体がだるく感じて、そのまま寝てしまいました。気が付くと朝になっていて、何か食べようとしたんですが、熱っぽくて食欲もありません。風邪でも引いたのかなと、近くの病院に行って薬をもらって、休むことにしました。しかし翌日も、翌々日も、1週間経っても、体調は一向に良くならず、風邪のような症状が続きました。その間、あの男性からの指名があったのですが、行けるような状態ではなく断りました。

 月末になって私は、家賃の支払い期日が迫っていることに気付きました。そもそも両親からの仕送りだけでは払えないので、レンタル彼女のアルバイトを始めたほどです。休んでばかりはいられないのですが、相変わらず体調は優れず、心配は積もります。

 そんなとき、あの男性からの指名が再び入りました。これは逃せないと、無理をおして男性に会いに行くことにしたのです。

 いつものカフェで待ち合わせをして、やってきた男性は開口一番、

「体調を悪くされていたんですよね。大丈夫ですか」

 と気遣ってくれました。そう言う男性の方も口にマスクをしています。聞けば、彼も風邪を引いているとのこと。

「私も、ちょっと風邪を引いてしまって」

「どんな症状がいつから出たのか詳しく聞かせて下さい。良い病院を探します」

 そういって事細かに私の病状を聞き、メモにまで書いていました。

 この日も終わりに近づいた頃、いつものように男性はプレゼントがあると言いながら、カバンから大きな袋を出しました。その袋の中身は、クマの縫いぐるみでした。

「熱が出てしんどいのに、来てくださってありがとうございます。この縫いぐるみを抱いて、風邪を乗り切ってください」

 と優しい言葉まで掛けてくれました。私は本当に感動しました。

(なんて優しい人だろう。自分も風邪を引いているのに私の心配ばかりしてくれて)

 部屋に戻ると、無理をしたせいか、熱だけではなく吐き気ももよおしてきました。夜にはそれに加えて下痢もひどくなり、ゆっくり寝ることすら出来ないほど体調は悪化しました。

 男性からもらったクマの縫いぐるみを抱えながら、ひとり苦しみと闘っていました。

 翌日、大学の友人が訪ねてきてくれました。体調を崩して以来、ずっと学校を休んでいたので、心配になって様子を見に来てくれたのです。

 私がやつれてしまった姿にびっくりした友人は、すこし考えた後、こんなことを言い出しました。

「あなたの抱えてるその縫いぐるみ、何か嫌な感じがする」

「え、何を言ってるの? この縫いぐるみはバイト先のお得意様からもらったんだから、そんなこと言わないで」

 すこしムキになった私の言葉など聞こうともせず、他にもらった物はないかと聞いてくるので、男性からもらった、縫いぐるみのついた帽子とスリッパも見せました。

 これらを一瞥するなり、友人は、有無を言わさぬ圧力で忠告してきたのです。

「その3つを持って、いますぐ三木住職のお寺に行こう」

 こうして私はこのお話をお聞きすることとなった訳です。

 吉田さんの友人は少し霊感があるらしく、この3つに嫌な感じがするのでお祓いをして欲しいとおっしゃいました。

 私もその方と同じく嫌な感じを覚えました。そして彼女の話をお聞きして、私はあることを思ったのです。私は尋ねました。

「大変申し訳ないのですが、この3つの縫いぐるみの縫い目を切って、中綿を見てもよろしいですか」

 吉田さんは、渋々ではありましたが、了承してくださいました。

 まずは、縫いぐるみの付いた帽子の縫い目を切りました。そして中綿部分を開いてみますと、中から大量の髪の毛が出てきました。

 この帽子をもらわれた時に、男性が短髪になっておられたのは、この中に自分の髪の毛を入れるためだったと思われます。

 次に、男性が足を引きずりながら来られた日にプレゼントされたものは、縫いぐるみ付きのスリッパだと伺いました。こちらも縫いぐるみの部分の中身を見せていただきましたところ、中から足の爪と思しき物が5枚、出てきました。

 そして、最後にプレゼントされたクマの縫いぐるみも中身を改めさせていただきました。するとそこには、前歯が3本入っていたのです。男性がマスクをされていたのは、風邪などではなく、前歯が無かったからではないでしょうか。

 ここでは詳しくお書きできませんが、髪の毛、足の爪、歯の他に、ある物が一緒に入っていました。これは、ある国で行われる呪いのかけ方の一種で、もしかすると、この男性はレンタル彼女を使って、他人に呪いを掛ける実験をされていたのかもしれません。

 私はすぐに、この3つのプレゼントをお焚き上げ供養しました。すると不思議なことに、吉田さんの体調も良くなっていきました。

 お経に「還着於本人」という言葉があります。他人にした行為や発した言葉などは、必ず本人に還ってくるという意味です。ですから、他人に優しく接すれば、やがて自分にも良い形で還って来ます。しかし悪い行いをすれば、悪い形でその方に還り、苦しむこととなるわけです。

 この話に出てくる男性は、今頃自分の発した呪いが還って来て、苦しまれているかもしれません。

※この男性の行く末は『 続・怪談和尚の京都怪奇譚 』の「鏡」に収録されています。

(三木 大雲)

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