就活オワハラの実態 理系学生の恐怖「“後付け推薦”の強要を断れません」

文春オンライン / 2019年8月29日 5時30分

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「自由応募で受けてる企業があるんですが、最終面接は合格でした。ところがその後人事から、内定がほしい場合は推薦状を出してほしいと言われました。

 自由応募でも推薦状を出したら、やっぱり内定は辞退できないのでしょうか。まだ他に受けたい第一志望の会社があるんですけど。困ってます」

 私、福島直樹は就職コンサルタントとして長年学生の相談に乗ってきた。その中で、このような「後付け推薦」について質問されることが最近、増えている。

 後付け推薦とは、自由応募で受けている理系学生に対して、企業が内定を出す前に、次のような対応をするものだ(稀に文系学生に求める場合もある)。

「内定がほしければ教授推薦か学校推薦を当社に出してください」
「最終面接に進みたければ推薦状を出してください」
(推薦状を出す以上は内定を辞退しないでほしい、辞退したら来年から〔学校や研究室に〕ペナルティを科すかもしれない、というメッセージが暗に込められている)

「推薦ルートに変更するように」

 また、後付け推薦の変種として「ルート変更」を要請する企業もある。ある女子理系就活生はこんな体験をした。

「自由応募でA社を受けていましたが、エントリーシートや、1次面接通過のたびに、推薦に変更しませんか?と何度も誘われました。推薦と自由応募では、推薦の学生から優先的に選考されるようです。自由応募の友人は、選考が遅々として進まないと嘆いていました」

 別の男子理系就活生はこう言う。

「B社の1次面接で、推薦ルートに変更するように言われました。推薦状を早めに出せば、入社後の配属先などが優遇されるそうです。でも推薦を出すと内定を辞退できなくなるので、はじめは悩みました。結局、2次面接の前に推薦状を出して、その後内定をもらいました」

 このように最近の理系採用では、ウェブ上のプレエントリーの時点で、自由応募か推薦かのルート選択を求める企業が増えている。その後、内定辞退を防ぐために推薦への「ルート変更」を就活生に要請するのだ。結果、多くの理系学生が困惑している。

「第一志望企業は諦めます」学生の不満

 理系の就活では昔から「学校推薦ルート」と「自由応募ルート」があった。前者は、企業の依頼を受けた大学が学生を取りまとめ、学生を推薦する。その分、内定を得やすいが、内定辞退はできない。後者は、内定は得にくいが、内定辞退できる、という認識で就活生は活動をしている。

 ところが「後付け推薦」「ルート変更」は、自由応募にも関わらず、途中で学校推薦の仕組みを活用する、ご都合主義の採用戦術なのである。もちろん就活生からは不満の声が出る。

「すごく悩んだのですが、推薦状を出してしまったので、もう他社は受けないようにします。仕方がないので第一志望企業は諦めます」

 概して真面目で誠実な理系学生の中には、このように考えてしまう人もいる。

「これって、一種のオワハラですよね。まあ、人事の人も大変なんでしょうね。うまく対応しておきます」

 このように企業側の意図を見抜き、大人の対応をする学生もいるが、あくまで少数派だ。要は真面目で誠実な理系学生を、人事がうまく利用しているように私には感じられるのだ。

どんな企業が「後付け推薦」をしている?

 今回、様々な大学、文系理系問わず、20人以上の就活生にあらためてヒアリングをしたが、「後付け推薦」の経験者は理系学生ばかりだった。具体的な企業名を聞くと、メーカー、情報関連の名が上がった。某メーカーでは、後付けの推薦状が内定の“交換条件”になっているという。また別のメーカーでは最終面接前に後付けの推薦状を提出させておきながら、落ちるというひどいケースもあったようだ。

 また「ルート変更」については多くの有名メーカー、通信、情報関連がおこなっていることがわかった。

「2020年卒は『後付け推薦』が増えた」

「昨年と比較して、今年(2020年3月卒)は、後付け推薦が増えた印象があります」

 某有名大学のキャリアセンターのスタッフもこのように言う。その要因には、少子化を背景とした若手の人手不足があげられるだろう。

 特に理系学生は「就活ナビでは集まらない」「合同説明会に参加しても会えない」「新卒紹介の会社にお願いしても紹介してもらえない」と言う話を中小企業の人事からよく聞く。

 大手でも、NECで年収1000万円、ソニーで年収730万円など、新卒高度人材に多額の初任給を提示することが話題になっている。それだけ優秀な若手を採用することが難しいのだ。

 そんな中、経営陣から人事部へ若手人材確保の圧力が強まり、「後付け推薦」「ルート変更」が発生していると思われる。

何が問題なのか?

 では「後付け推薦」「ルート変更」は、何が問題なのだろうか。まず、下記の経団連が策定する「 採用選考の指針 」の考え方に反することを指摘したい。

「公平・公正で透明な採用の徹底に努め、(中略)学生の自由な就職活動を妨げる行為(正式内定日前の誓約書要求など)は一切しない」

 まず、この「採用選考の指針」の考え方に、反している可能性は高いだろう。

 また厚労省は2015年にオワハラが社会問題になった時、塩崎大臣が 記者会見 で次のように説明している。

「最近の報道にあるような学生の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的な行為、いわゆる『オワハラ』を企業の方が行わないように留意をしていただきたいというふうに思います」

「後付け推薦」「ルート変更」は、厚労省の言うオワハラの一種と考えて良いのではないだろうか。

では「後付け推薦」への現実的な対策は? 

 困った就活生の中には、大学キャリアセンターに相談する人もいる。現状、「後付け推薦」「ルート変更」は、大学のキャリアセンターにより様々な解釈がある。

「後付け推薦は辞退していい」「学生個々人の判断に任せる」「後付けだとしても推薦なら内定辞退はできない」……

 特に企業に対して立場の弱い大学の中には、次年度からのペナルティを恐れ、辞退させない対応をとるところもあるようだ。

 このように大学ごとに判断が分かれている状態は健全ではない。何より一番被害を受けるのは学生自身である。よって判断を統一するためにも、2015年のオワハラ問題の時のように、厚労省から明確にメッセージを出すことを期待したい。

「後付け推薦やルート変更はオワハラの一種であり、学生を困らせないでほしい。推薦制度は、大学が学生を取りまとめて企業へ送り出す従来方式のみを活用してほしい。後付け推薦やルート変更の場合は学生が内定を辞退しても問題なしとすべきだ」

 このようなメッセージが伝われば、世論は支持すると思われる。もし改善が見られない場合は 「優ジロウ」(ホワイト企業・ブラック企業判別サイト) に、「後付け推薦」「ルート変更」の項目を作り、社名の公表も検討すべきだろう。

 ブラック企業という言葉があるが、「後付け推薦」「ルート変更」は就活生を困らせるブラック採用と言えるだろう。企業はすぐに対応を検討すべきだ。先輩から後輩へ悪い噂が伝わり、長期的には優秀な人材を採用できなくなるだろう。

(福島 直樹)

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