GSOMIA破棄の裏にいる、文大統領のイケメン最側近の正体

文春オンライン / 2019年8月31日 5時30分

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曺国(チョ・グク)前民情首席秘書官 ©時事通信社

「文在寅大統領の分身」、「進歩派のアイコン」――。 

 こんな異名を持つ文大統領の側近中の側近、曺国(チョグク)・前青瓦台(大統領府)民情首席秘書官を巡る疑惑に、8月27日、検察の捜査が入った。

 韓国でソウル地方検察による捜査への見方は主に2つに割れている。単なるパフォーマンスと見る視点と、司法のトップになるやもしれない人物を徹底的に洗い直し、疑惑が事実として立証されれば法相になることを拒否する意図を見せたのではないかという視点。

 そもそもの発端は8月9日。文大統領が内閣改造の目玉として曺国前秘書官を法相候補者として指名したことから始まった。

 中道系の韓国紙記者が言う。

「文大統領は、自身が進めている積弊清算の一環であり、悲願とする司法改革を託すのは曺前秘書官しかいないと話していました。法相の次は来年4月の総選挙で曺前秘書官を国会議員にし、次期大統領候補へという青写真を描いているとも囁かれていたのですが」

順風満帆だった前秘書官から匂い立つ疑惑

 曺前秘書官は、1965年、文大統領と同郷の慶尚南道の釜山生まれ。韓国の大学最高峰、ソウル大学法学部を卒業後、同大学院で修士を、米カリフォルニア大学院で博士号を取得した。その後、弱冠27歳の時に蔚山大学教授に就任し、当時、最年少での教授誕生と話題をさらったという。2002年にはソウル大学法学部教授となった。専門は刑事法だ。進歩派の間では、歯切れのよい発言で保守派を論破し、「長身で甘いマスクも相まって人気を集めた」という(同前記者)。

 民情首席秘書官には2017年5月に文大統領が当選した翌日に任命されている。ちなみに民情首席秘書官は、文大統領も盧武鉉元大統領時代に務めたポストで、政府高官の監視や司法機関を管轄する首席秘書官中の“花”。大統領にもっとも近いポストともいわれる。検察出身者が多い中、大学教授出身者は異例の抜擢だった。

 順風満帆かに見えたが、思わぬところで躓(つまづ)いた。

 韓国では通常、大統領に指名された大臣候補者は国会での人事聴聞会を経て、正式に任命される。ところが、その前のメディアによる“身体検査”で次々と疑惑が吹き出した。疑惑は大きく3つ。ファンドへの不正投資疑惑、子女の大学不正入学疑惑、そして、曺前秘書官一家所有の学校法人を巡る偽装訴訟疑惑だ。

高校生の娘が研究論文の第一著者に

 この中でもっとも人々の怒りを買ったのが娘の不正入学疑惑だ。これは、娘が高校時代にある医科学研究にインターンとして2週間ほど参加しただけにもかかわらず、その研究論文の第一著者として名を連ねたというもの。こうした経歴により名門大学を無試験で入学したとされている。また、医学大学院在学中、2度留年したにもかかわらず、奨学金を総額1200万ウォン(約106万円)を受け取っていたことが発覚。いずれも、曺前秘書官が自身の地位を利用したのではないかという疑いが持たれている。

 過去、保守派に向けた曺前秘書官の発言も掘り起こされた。以前、曺前秘書官が投稿し、多くの共感を得た「チョン・ユラ(朴槿恵前大統領の友人の崔順実氏の娘)の『能力がなければ親を恨め。カネも実力だ』はまさに朴槿恵政権の哲学だった」というツイートには、「まったく同じことをやっている」と言う声が上がり、「疑惑が事実ならこれこそダブルスタンダード」と別の中道系記者は言う。

「今回の疑惑には20代からの反発が強い。また、その父母世代の間では怒りと同時に『曺国みたいな父親でなくて申し訳ない』と、子供のために何もできない無力感も広がった。これだけ大きなイシューになっていても、与党はただただ火消しに必死で、曺前秘書官をかばい続けている。ここに大統領の意志があることは明らかです。

 実は、22日の日本との『軍事情報包括保護協定』(GSOMIA)破棄は、曺前秘書官の疑惑から世論の目をそらす狙いがあったともいわれました。しかし、結局疑惑は収まりきらなかった。23日には、投資したファンドなどを社会に寄付すると発表し、25日には『安易な父親だった』と自ら謝罪はしましたが、手続き上違法は行っていない、不正ではないと強く主張していて、候補を辞退する動きは見えません」

文大統領はなぜ曺前秘書官をかばい続けるのか?

 この曺前秘書官疑惑により文大統領の支持率は44%と先週から1ポイント下落し、「曺前秘書官は法相に不適切」とした人は57%にのぼった(8月30日、世論調査会社「韓国ギャラップ」)。曺前秘書官を法相に任命すれば、中道派や支持基盤層すら失いかねないとも言われるが、なぜ文大統領は曺前秘書官にこだわるのか。

 2人の出会いは1冊の本だったと別の記者が言う。

「2010年に出版された本で、この本の内容に感銘を受けた文大統領が直筆の手紙を送ったことから知り合ったといわれます。以降、曺前秘書官は文大統領のブックコンサート(ざっくばらんとした討論会)の常連になり、縁を深めていった」

 文大統領と曺前秘書官は共に高校時代までを釜山で過ごしているが、釜山は文大統領が弁護士生活を送り、国会議員にもなった思い出深い地。釜山生まれの曺前秘書官に親近感をもったのではないかといわれている。

 李明博元大統領時代に出版された、『進歩執権プラン』というタイトルのこの本は進歩系メディア代表との対談形式で綴られていて、序文にはこんな一節がある。

「私はこの本を20代30代の青年たちにたくさん読んでほしい。現在、彼らは現実への疲労感と未来への不安に苦しんでいる。大学の入学金1000万ウォン(約87万円)、青年失業者100万名という統計は苦痛の根源が何であるかを示している。

 このような環境の中で、青年たちは、険しい世の中で生き残ろうとその方法を探り、躍進することで自分だけのスペック(学歴、成績、TOEICの点数など就活生の外的条件)を積む以外にないという哲学を持つようになったようだ。しかし、法と制度の変化なしに個人の奮闘だけで問題が解決する確率は低い」

 文大統領はこんな曺前秘書官しか司法改革を成し遂げられる人はいないと惚れ込んでいたといわれる。「大統領になってからも何か気になることがあれば休日でも夜中でも構わず曺前秘書官に電話していたといわれ、絶大な信頼を寄せていた」と前出の記者は話す。

文大統領が聴聞会での反対を押し切る可能性も

 28日には、曺国前秘書官を糾弾するキャンドルデモが母校、ソウル大学で開かれた。ここで、ソウル大学総学生会長はこう語った。

「平等を叫んできた知識人でありながら、法の網をくぐり抜け、社会的地位を守るため全力を尽くしてきた曺国教授が法相になればこれは公正と正義という価値に完全に背反する」

 キャンドルデモ精神を誇ってきた文政権の側近が、キャンドルデモにより糾弾されるというアイロニー。

 奇しくも翌29日には、このキャンドルデモにより弾劾・訴追された朴槿恵前大統領、その友人、崔順実氏、李在鎔サムスン副会長の上告審裁判が行われた。朴前大統領の友人、崔氏もまた娘を名門大学に不正入学させていて、当時、世論から激しい糾弾を受けた。

 上告審の判決は3人とも高裁差し戻しとなり、量刑は重くなる可能性もあるといわれる。

 曺前秘書官の人事聴聞会の日程を巡り与・野党の攻防が続いている(30日現在)。

 9月初めに開かれなければ文大統領が反対を押し切って指名するのではないかという見方もでてきた。もし、曺前秘書官が法相となれば文政権はレームダックに陥り危機的状況になるという声も聞かれる。しかし、前出の記者はこう話す。

「文大統領の支持基盤層は大きくは崩れない、支持率も40%を割ることはないとみられています。それは、保守派の野党があまりにも弱いためです。今でも、保守派内で揉めていて力はない。こういった内政事情に加え、現在の日本との緊張関係をある程度、保たせていけば、曺前秘書官が法相になっても来年4月の総選挙でも勝てると与党は踏んでいるようです。ただ、ここに来てGSOMIA破棄に対し米国側の猛反発が伝えられ、対米関係の摩擦は国内で波紋を呼びそうです」

 文大統領はそんな状況下でも曺前秘書官を法相に推すのだろうか。そして、いずれの結果にしろ韓国の若い世代はこれからどう動いていくのか。

 日本はこの動向をきっちり見極める必要がありそうだ。

(菅野 朋子)

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