寝た切り期間ワースト1の日本人に必要な「食べる力」とは?

文春オンライン / 2017年2月14日 17時0分

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 入院などで医療を受けたことをきっかけに、自分で噛んで食べられなくなるお年寄りがふえている。しかも、放置すれば衰えは進行し、さらなる病いや認知症を招くとも。みずから噛み、食べることに注視して、その重要性を説く『食べる力』(文春新書)の著者、塩田芳享さんが、老いてゆく親の「要介護」予防策を指南する。

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日本は寝たきり期間ワースト1

 日本は世界有数の長寿国である。喜ばしいことのはずなのに、好意的な報道が少ないのは何故か。それには、こんな理由がある。

 日本は平均寿命も長いが、同時に健康寿命との差も長い。男性は9年、女性は12年。アメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米諸国が軒並み6、7年であるのと比べると、日本が圧倒的に長いのだ。

 つまり、平均寿命も長いが、寝たきり期間もワースト1だ、ということなのである。だから、日本は世界的な長寿を素直に喜べない。

 そこには、医療者たちが言いたくとも言えない『医療界の不都合な真実』がある。

「食べる力」を奪う『医療界の不都合な真実』


『口腔医療革命 食べる力』(塩田芳享)

 何故これほど「寝たきり期間」が長いのか? その答えは、日本の高齢者の多くが、人間が本来持っている力ではなく、医療の力で生かされている、ということにある。その顕著な例が、自分の口で噛んで飲み込むという「食べる力」が軽視されている現状だ。

 生き物はすべて、食べることで生命活動を維持し、食べられなくなったら死ぬ運命にある。これが自然の摂理だ。しかし、人間だけがこの摂理に反した行為を始めた。自らの「食べる力」が弱ってしまっても、点滴や胃ろうなどの人工栄養による医療の力で生きられるようになったのだ。

 しかし、もっと問題なのは、まだ自分の力で食べることのできるお年寄りからも、「食べる力」と「食べる楽しみ」を医療界が奪ってしまっていることである。

「食べる・しゃべる・笑う」がセットで失われる

 なぜ病院で「食べる力」は奪われてしまうのか?

 もちろん、医者に悪意がある訳ではない。

 例えば脳梗塞や心疾患などで緊急入院すると、少しでも治療の妨げになりそうなものは一旦排除される。食べものが間違って肺に入る「誤嚥(ごえん)」によって起こる「誤嚥性肺炎」は、高齢者にとって命の危険のある重篤な病気であり、これを避けるためなのだ。

「食べること」は誤嚥性肺炎の最大の危険因子と考えられている。だから、医師は少しでも誤嚥の危険があると、患者に禁食を命じ、「医療の力」で栄養を送り込むようになる。

 するとどうなるか? 口や喉の筋力が衰え、あっという間に「食べる力」が失われてしまうのだ。これが長期化すると、本当に自分で食べることが出来なくなり、口の筋肉が弱まることで「しゃべる」「笑う」といった人間の基本的な動作までも難しくしてしまう。さらに、認知症や転倒のリスクも高まってしまうことが分かっている。

医師は幸せな老後を約束してくれる存在ではない

 多くの患者を取材していて思うことがある。それは医師という仕事に幻想を抱いていることだ。多くの患者は何でも医師に相談する。医師に聞けば、何でも答えてくれると勘違いしている。

 しかし、医師とは本来、病気を治し、病気になる危険を防いでくれる存在以外の何者でもない。幸せな老後を約束してくれるアドバイザーでは決してないのだ。もしも、医師が『食べても良い』と言った結果、誤嚥性肺炎になってしまったら、それは医師の責任になってしまう。少しでも命に関わる病気の危険があれば、「食べること」を禁じる。これは医師としては当然なことなのである。

必要な医療とは、「食べる力」をサポートすること

 では、どうすれば良いのだろうか?

 最期まで健康で寝たきりにならずにいるために最も必要なことは、人間の基本的な力である「食べる力」を維持し、最大限にそれを引き出す努力だ。

 いま、「食べる力」を取り戻すために動いてくれる医者も少しずつ増えてきており、私は彼らを「食医」と呼んでいる。栄養サポート、食事形態への配慮、口腔ケア、お口のリハビリなど、「食べる力」をサポートしてくれる「食医」を探し、活用していくことが非常に重要である。

 当然のことながら、食事の介助は非常に労力がかかるため、親が楽しく食べたりおしゃべりしたりしてくれることは、介護する側にとってもメリットが大きい。親子が最期の瞬間まで幸せでいるために、今のうちから「食べる力」について話し合ってみてはいかがだろうか。

(塩田 芳享)

文春オンライン

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