大腸がん、乳がん、前立腺がん……「検診は絶対必要」とは言い切れない7つのエビデンス

文春オンライン / 2019年9月14日 5時30分

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「国も医療者もメディアも、『早期発見・早期治療が大切』と口をそろえて唱えますが、必ずしもそうとは言えません」

 こう語るのは、沖縄の群星臨床研修センター長として研修医を指導する、徳田安春医師だ。

 徳田医師は、臨床上の効果が高く、副作用や合併症の少ない、エビデンスが確立した医療行為を行なうことを目指す「チュージング・ワイズリー(賢明な選択)」というキャンペーンに共鳴し、日本で活動を行う一人だ。

医療行為の効果とリスクをわかりやすく伝える

「患者さんに賢明な選択をしていただくためには、受けようとする医療行為によって得られうる効果と被りうるリスクを、わかりやすくお伝えする必要があります」と語る徳田医師が、その一助として紹介するのが、ファクト・ボックスだ。

 ファクト・ボックスとは、検査や治療など様々な医療行為について、「もし1000人が受けたとしたら(受けなかったとしたら)どうなるか」をわかりやすく示した表だ。提唱したのは、ドイツのマックス・プランク人間開発研究所に所属する、世界的に著名な心理学者・統計学者のゲルト・ギーゲレンツァー博士。

 博士がディレクターを務める「ハーディング・センター・フォー・リスクリテラシー」のサイト(英語)には、ファクト・ボックスが公開されている。 「文藝春秋」10月号 「統計が教える本当に価値ある『がん検診』」では、その中から日本人にも関係の深い7つを紹介した。

大腸がん検診にはどれくらいの効果があるのか?

 例えば、「大腸がん検診」のファクト・ボックスを見てほしい。

 徳田医師はこう解説する。

「この図では、45歳以上の1000人が、日本でも推奨されている『便潜血検査』を定期的に受けた場合、将来どうなるかを示しています。

 まず、検診を受けなかった場合(非検診群)を見てみましょう。1000人のうち、7人が大腸がんで亡くなるとあります。一方、検査に伴う合併症を被る人は、当然のことながら1人もいません。

 では、検診を受けた場合(検診群)はどうなるでしょう。1000人のうち6人が大腸がんで亡くなるとあります。つまり、大腸がん検診を定期的に受ければ、1000人のうち1人が大腸がん死を免れる――これが、大腸がん検診によって得られる効果なのです。

 ですが、効果が得られる反面、検診を受けることによってリスクを被る人も生じます。その一つが『偽陽性』です。 

 偽陽性とは、結果的に大腸がんでなかったのに、検診で『陽性』とされることを言います。残念ながら、現在の医学での検診技術では、100%正確な検査はまだ無いために、偽陽性の人が出てきます。

 ファクト・ボックスでは、偽陽性で大腸内視鏡などの精密検査を受ける人が12人です。また逆に、実際には大腸がんが隠れていたのに、がんではなかったと診断されてしまう『偽陰性』の人も6人です。

 つまり、大腸がん検診を受けると、1000人のうち1人が大腸がんによる死を免れる一方で、12人が偽陽性、そして6人が偽陰性のリスクを被ることになるのです」

「ファクト・ボックスを元に国民全体で議論するべき」

 医学論文では、数字がパーセントなどの相対的な数字で表されるために、効果が過大評価されがちで、一般の人には理解しづらかった。一方ファクト・ボックスでは、人数など自然数で結果が出ているため分かりやすく、患者自身の判断に役立つ。

「文藝春秋」10月号 では、この他にも、乳がん検診や前立腺がん検診、さらに、抗生物質や、血中のコレステロール値を下げる薬であるスタチンの投与について、ファクト・ボックスと共に解説している。

 徳田医師はこう続けた。

「私たちが使える医療費や税金には限りがあります。だとしたら、価値に乏しい医療行為にお金をつぎ込むのはなるべく減らし、より価値の高いエビデンスの確立した予防政策にシフトするよう、ファクト・ボックスを元に国民全体で議論するべきだと私は考えています」

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年10月号)

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