楽天・三木谷浩史が167億円も出資した「“世界が変わる”がん療法」の全貌

文春オンライン / 2019年9月22日 11時0分

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医療ベンチャーの楽天メディカル ©共同通信社

「Rakuten Medical ガン克服 生きる」

 スーパースター、アンドレス・イニエスタが着るJリーグ、ヴィッセル神戸のユニフォームの左鎖骨にある広告の意味がわかる人はまだ少ないかもしれない。

 ネット大手の楽天が出資する楽天メディカルは、元々、アスピリアン・セラピューティクスという米西海岸の医療ベンチャーだった。その会社に2018年、楽天会長兼社長の三木谷浩史が個人で約167億円を出資。2019年7月には、楽天も1億ドル(約107億円)を追加出資して社名も「楽天メディカル」に改めた。

 楽天メディカルが取り組んでいるのが「光免疫療法」という画期的ながん治療法である。ノーベル賞を受賞した本庶佑らが開発した免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」に次ぐ、新たながん治療法として国も期待を寄せており、4月8日に楽天メディカルが「頭頸(とうけい)部がん向け光免疫療法が厚生労働省の『先駆け審査指定制度』の対象に指定された」と発表すると、楽天の株価は6日連続で上昇した。

なぜ楽天ががん治療に取り組むのか?

「光免疫療法」の生みの親は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の主任研究員の小林久隆。その画期的な研究成果はバラク・オバマ大統領が一般教書演説で絶賛したほどだ。

 なぜネット企業の楽天ががん治療に取り組むのか。きっかけは三木谷の父親、経済学者の三木谷良一ががんを罹患したことだった。後期すい臓がんだった良一はすでに、従来の治療法では対処できない状態だったが、三木谷は良一を救いたい一心で英語の学術論文を読み漁り、世界中の名医を訪ねた。

 その末にたどり着いたのが小林の「光免疫療法」だった。共通の知人を通じて小林に会い、説明を聞いた三木谷は直感的に「これはいける」と確信した。「なぜ治るのか、ロジカルに納得できた」(三木谷)のだという。

 それは「興銀時代にインターネットと出会った時とよく似た感覚だった」と三木谷は振り返る。インターネットの存在を知った時、三木谷は「これで世界は変わる」と確信し、興銀のキャリアを捨てて起業した。インターネット・ショッピングの楽天市場を立ち上げた時も、「現物に触れられないインターネットで物は売れない」と笑われたが、三木谷には人々がパソコンの画面でショッピングを楽しむ未来が見えていたという。光免疫療法に出会った時、まさにそれと同じ感覚を覚えたのである。

人体に無害な光線でがん細胞のみを狙う

 光免疫療法で使う薬は、がん細胞(抗原)の表面にある突起物だけに結合する特殊なタンパク質(抗体)に、近赤外線に反応する光感受性色素「IRDye® 700DX」を混ぜた複合体だ。この複合体を静脈に注射すると、全身を駆け巡った抗体が、がん細胞を見つけてドッキングする。そこに近赤外線を当てると、IRDye® 700DXが反応し、がん細胞の細胞膜を傷つける。その傷口から水が入り、がん細胞はものの1、2分で膨張し、破裂するのだ。

「近赤外線光線はテレビのリモコンで使う光線で人体には無害。抗体もタンパク質なので、がん細胞以外の正常細胞は傷つけません」(小林)

 正常な細胞を傷つけて患者にダメージを与える手術や抗がん剤、放射線治療とはそこが根本的に異なる。

 皮膚がんや頭頸部がんの一部のように患部が体表面に露出しているがんの場合はペンライト型の光源で光を当て、深部がんには円筒型の光源を使う。深部がんの場合は、楽天メディカルにおいてCTガイドや超音波ガイド下で患部に針を刺入する方法を開発している。

 良一は2013年11月に亡くなり、光免疫療法の開発は間に合わなかった。だが三木谷は「この画期的な治療法を早く患者さんに届けたい」と事業化を決意し、楽天メディカルを設立した。

 光免疫療法は最終段階の治験が国内外で2021年に終了する予定だ。順調に進めば2022~23年ごろの承認が見込まれる。 

「文藝春秋」10月号 では、三木谷氏や小林氏へのインタビュー、光免疫療法の詳しいメカニズムなどについて取り上げている。

(大西 康之/文藝春秋 2019年10月号)

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