『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

文春オンライン / 2019年9月29日 11時0分

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 わたしは大人の言葉をあまり信用しない子供だった。言葉巧みだが、理論武装している分、嘘や不純物も多いと感じていた。だから、自分が大人になった今、「若い人に何かアドバイスを」と言われると絶句してしまう。あのころの自分なら、センセイなんて呼ばれている大人からのもっともらしい助言なんて拒絶すると思うからだ。

 さて、この映画は、SNSと一体化した日常を生きる現代のアメリカの少女をみつめる、痛みと瑞々しさに満ちた思春期成長映画なのだ。

 八年生(日本では中学二年)のケイラは、「学年で最も無口な子」に選ばれるほど内気で、親しい友人もいない。殻を破ろうとYouTubeにチャンネルを作り、発信してみたものの、再生数は〇回とか一回……。学校にもネットにも、つまり世界のどこにも居場所がなくて、静かに追い詰められていく。

 もし「ケイラに何かアドバイスを」と問われたら、答えるのは簡単だ。「学校だけが居場所じゃないよ」「広い視野を持って」と。でも、すでに広い視野を得ている大人からそんなこと言われても、なかなか厳しいよなぁ……。

 ケイラは不器用に、でも一歩ずつ確実に進む。「じつは今の閉塞感がずっと続くわけじゃない」「来年からはハイスクール。次は大学進学。環境も周りの人も、そのたび変わっていく」と、自分自身で気づく。いいことであれ悪いことであれ、すべては水の流れのように動き続ける。明日何が起こるかは誰にもわからない。「だからワクワクするし、不安になる。でも楽しい」と。

 観終わったとき、わたしは、「あぁ、この映画を通して、いま本当に助けを必要としている世界中の教室の隅の誰かに、ケイラの助言が届いたに違いない」と信じることができました。大人としての自分がいかに無力でも、わたしが関わる“フィクション”という文化にはそういう力があるのだ、と。

INFORMATION

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほかにて上映中
http://www.transformer.co.jp/m/eighthgrade/

(桜庭 一樹/週刊文春 2019年10月3日号)

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