“立ちそばの聖地”東京・板橋 常連客が閉店する老舗そばを救った話

文春オンライン / 2019年10月1日 11時0分

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板橋は大衆そばの聖地か、志村坂上にも名店が多い

 都営三田線、本蓮沼から志村三丁目あたりには立ち食いそば屋が点在している。板橋は大衆麺処の聖地なのかもしれない。

 深夜営業の「そばひろ」、環八沿いの「石かわ」、志村三丁目の「文殊」、そして志村坂上の「さかうえ」である。

 志村坂上駅の北側の改札を出てA4の階段を上がる。そこには中山道に面した高台の明るい街が広がっている。志村坂上は武蔵野台地の東端に位置しているそうだ。駅から志村三丁目の方へ城山通りを歩いていくと、左手にある小さくて古い商店街「第一ストア」の入り口に立ち食いそば屋「さかうえ」が現れる。
 

常連客が名店を引き継ぐ

「さかうえ」は2018年2月に惜しまれながら閉店した「おくちゃん」(昭和49年創業)の味と建物を引き継いで、常連だった中島斗三之さんが2018年4月に創業した店である。奥さんも営業をサポートしており、アットホームな雰囲気である。

 9月最後の連休の日曜日の昼下がりに訪ねてみた。店の雰囲気は「おくちゃん」と変わらない。ファサードの色が白から茶色に、暖簾が一部白くなった位の違いだ。

 暖簾をくぐってみる。店はL字のカウンターで、手前に麺茹でやつゆを温める茹で釜、奥に茶色の板に白字のメニュー。とてもきれいに管理されている。昔のままである。

 店には地元の常連のおじさんやおばさんがひっきりなしに入店してくる。

 小学生の娘さんとお父さんがやってきて、娘さんは慣れた様子で「冷やしコロッケうどん大盛り」と注文している。しばらくすると自転車にのった小学生の3人組が来てそばを食べている。その全員が常連なのだ。

「紅生姜天そば」や「納豆そば」など「おくちゃん」からの人気メニューもある。早速、「春菊そば」(400円)を注文してみた。

“インスタ映え”するつゆ

 第一ストアの奥には志村製麺所という製麺屋さんがあり、「さかうえ」はそこから麺を仕入れている。麺切れの心配もない。すばらしい連携プレーだ。

 店主は茹麺を丁寧に箸で取り上げ、茹で釜のテボに入れた。そして、どんぶりをお湯で温めながら回し、程なく麺上げをして湯切りし、どんぶりに流れるように麺を入れていった。春菊天をのせ、やや小さな鍋からつゆをかけ、ねぎをちらして登場した。

 つゆは赤いムラサキのきれいなインスタ映えしそうなタイプである。見た目は「おくちゃん」と同じだ。

 しかし、ひと口すすると、これが絶品の味だった。「おくちゃん」の時より、返しはやや控えめになり、口当たりがやさしいのだが、出汁はより十分に香る強さになっている。

 中島店主に聞くとおもしろい回答が返ってきた。

「おくちゃんの大将にかつお出汁はけちっちゃだめだよといわれていて、むしろ昔よりたくさんかつお出汁を使っているかもしれない」というのだ。

 そんな上質なつゆに春菊天をひたすと、ふわっとつゆを纏い、旨みが膨らんでいく。そばは茹で麺だが、つゆと天ぷらとのバランスは絶妙だ。

人気の「ひっぱりうどん」とは?

 人気メニューはかき揚げがのった「天ぷらそば」(390円)、「イカ天そば」(400円)、「ひっぱりうどん」(500円)だという。

「ひっぱりうどん」はあまり聞かないメニューだったので、どんなメニューか聞いてみると、山形の内陸地方にある郷土麺料理だそうで、それを参考に考案してみたという。そばでも作ってくれるというので、追加注文してみた。

「納豆、サバ缶、玉子、ねぎ」を混ぜる?

 ほどなくして、温かいそばつゆに茹で上がったそばが釜上げ風に泳いだどんぶりと、納豆、サバ缶、玉子、ねぎなどが入ったどんぶりと返しが登場した。

 納豆、サバ缶、玉子などを混ぜて、返しをかける。それに釜上げからそばをひっぱり出してつけて食べるという趣向である。

 本来はうどんだろうが、サバ缶と納豆とそばがこんなにも合うとは正直、驚いた。これは元気がでそうなメニューであり、数多の立ち食いそば屋ではお目にかかれない「さかうえ」オリジナルである。

「さかうえ」は「おくちゃん」の味を引き継いだ形だが、時代が変わると環境も変わるし、味を守るだけではなく進化させることも必要だと店主の中島さんはいう。

 天ぷらは仕入れだが、「おくちゃん」の時の仕入れ先は廃業し、同じクオリティの天ぷらの仕入れ先を探すのも苦労したそうだ。

 そんな中でも、出汁を芳醇にしたつゆを提供したり、「ひっぱりうどん」や「もずくそば」などの新メニューを考案するところは「さかうえ」の努力の賜物だろう。

消費税10%はどうする?

 最後に、10月1日からの消費税UPの対応を聞いてみた。仕入れ先が前から値上げをしており、やはり少しだけ値上げしないとならないだろうとのことだった。

 大衆そば業界は後継者問題や廃業のニュースが最近多い。「さかうえ」の味がまだまだこれからも堪能できることはうれしい限りである。

 あのお父さんと一緒に食べに来た小学生の娘さんや自転車に乗ってきた3人組の少年達がいつか大人になった時に、ふと、「さかうえ」でそばを食べたことを思い出すこともあるだろう。その時のおいしかった記憶が人生に少しだけ彩りを与えることもあると思う。

 また訪問しようと思う。

INFORMATION

さかうえ

住所   東京都板橋区志村1-35-10

営業時間 火~日8:30~17:00

定休日  月

(坂崎 仁紀)

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