同性愛は遺伝する「こともある」? サイエンス誌掲載の最新研究が達した“究極の結論”

文春オンライン / 2019年9月29日 19時40分

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サイエンス誌

 人の気質は遺伝によるのか、環境によるのか。古来のテーマの魅力は、同性愛を含む性的指向を研究する現代の学者にとっても同じようだ。科学誌に発表された最新の研究を紐解いてみると、同性愛をめぐる迷信と真実が白日の下にさらされる。

 同性愛をはじめとする性的指向に関係する遺伝子がある――。同性愛をめぐるタブーに果敢に挑戦して一定の結論を出した論文が8月に科学誌に掲載されると、BBCなどが一斉に取り上げた。

 単なる一科学者の推論ではない。マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学をはじめとする研究機関の20人以上の研究者たちによる研究だ。発表先に選んだ媒体は、科学界で有数の権威で、伝統ある「サイエンス誌」。研究の源泉は47万7522人という空前の規模の遺伝子情報だっただけに、その結論は重い。

《(同性愛指向に対する)遺伝子の影響を考えるとき、いくつかの疑問が浮かび上がる。まず、どの遺伝子が関係して、生物学的にどんな影響を与えるのか》

 論文は冒頭、そんな疑問を投げかける。

「遺伝子は男性の同性愛指向により影響することを示している」

 調査は50万人弱の遺伝子情報提供者を「一度でも同性間の性交を経験したことがあるか」だけでなく、「同性に恋心を抱いたことがあるかどうか」「同性と異性、どちらにより惹かれるか」などに細かく分類。それぞれの遺伝子情報の違いを統計学的に分析した。

 結果、同性愛に関係する5つの遺伝子が見つかった。5つの遺伝子は対象者の8~25%の性的指向に関係していた。

 2つは男性の同性愛、1つは女性の同性愛、2つは両性の同性愛指向に関係するとみられるという。男性の同性愛を促す遺伝子は匂いを司る遺伝子と、男性ホルモンの分泌に関連する遺伝子だったが、それが性的指向にどう関係するかは解明に至らなかったという。

 興味深いのは、男女の違いだ。男性の場合、同性愛指向と遺伝子の関係性は0.73だったが、女性は0.52にとどまった。

「遺伝子は男性の同性愛指向により影響することを示している」と論文は解説した上で、「特に調査の対象者の年齢を考慮すると、女性が性交を持つ相手の数にまつわる社会的な規範が反映されているかもしれない」と付け加える。要はデータが主な対象としている、いまの40~70歳の男女の年代では、社会的に女性は淑女ぶりを求められる傾向が強かったことから、女性の方が性交相手の絶対数が少ないため、同性愛の経験も少なく出るのではないか、ということだ。

経験者のほうが「答え」を求めている

 たしかに年齢別データをみると、1940年生まれの同性愛経験率は男性が2%で、女性はその半分程度だったのが、若くなるに連れて割合が増え、1960年代末生まれでは男性は8%、女性はその7割の6%に上昇し、男女間の差は縮まっている。

 ただ、研究は、大幅な留保もつけている。遺伝子全体の影響を考慮すると、性的指向が説明できるのは1%未満にとどまり、「遺伝子から個人の同性愛指向を予測することまではできない」というのだ。

 研究が明らかにしたのは遺伝子との関係だけではない。他の性質との比較もしている。調査結果によると、同性愛指向者は、よりマリファナを吸い、より性交経験人数が多い傾向もあることがみてとれる。

 また、この研究、多分に副産物ではあるのだが、同性愛者の「切実な悩み」も期せずして明らかにしている。

 研究が対象とした2つのデータのうち、イギリスの研究機関からのデータは同性愛経験があると回答したのが男性の4.1%、女性の2.8%だったのだが、米国の機関からのデータでは、同性愛経験者がなんと18.9%も占めたのだ。

 しかし、米国人に同性愛者が多い、とするのは早とちりだ。実は米国のデータは同性愛に関する調査への情報提供を同意した個人だけが対象。つまり、同性愛経験者の方が、未経験者よりも自分の性的指向が遺伝子と関係するかについての答えを求めている、ということこそが推察されよう。

市民権の向上やレッテル張りを減らすことができる

 思えば、三島由紀夫が同性愛者の葛藤を描いた「仮面の告白」で、作者は主人公の性的指向の遠因について、産湯につかった時点にまで遡って分析を試みていた。現実の同性愛者たちも、自分たちの性的指向が何に由来するのか、知りたがっていることが図らずも明らかになったわけだ。

 サイエンス誌は研究を引用しながら、「同性愛指向を遺伝学と関連付けることで、市民権の向上やレッテル張りを減らすことができる」と結論づける。「同性愛指向は病気であり違法であるとされ、70カ国以上で一部は死刑を含む犯罪とされている」とし、「今回の結果を予測、介入、『治療』に使うのは留保なしに不可能だ」とも釘を刺す。

 多分に「政治的な指向」の感じられる結論だが、この研究が実際にどう受け止められるかはまた別の問題だ。遺伝に完全に関連付けることができない以上、環境要因を変えるため、逆に一部の国で行われることもある「矯正」教育などを正当化する根拠にすら使われることも考えられるからだ。

 研究は今後、遺伝子レベルでの傾向が「環境によってどう変わるか」の調査が必要だと予告する。何が性的指向を決めるのか、真の結論はこの研究をもって出されるかもしれない。

(末家 覚三/週刊文春デジタル)

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