日韓軍事協定破棄「この先心配なのは偶発的な武力衝突です」と佐藤優が指摘

文春オンライン / 2019年9月28日 5時30分

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文在寅大統領 ©getty

 先の韓国政府による「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の破棄は、“衝撃的ニュース”として受け止められた。

 メディアは「安全保障分野の協力関係の象徴ともいえる協定は維持されるとみていただけに、想定外の事態に衝撃が広がっている」(朝日新聞、8月23日付)などと報じ、政府関係者からも、「一言で言うと愚かだ。北朝鮮を含めた安全保障環境を見誤っている。あり得ない選択」(BSフジの番組での佐藤正久外務副大臣の発言)といった声が発せられた。

「しかし今回の韓国による協定破棄は、首相官邸や外務省にとっては、むしろ“戦略通りのシナリオ”だったと見た方がいいでしょう」

 こう語るのは、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏だ。

日本が韓国に突きつけた“ハル・ノート”

「8月15日、日本の植民地支配からの解放を祝う『光復説』の演説で文在寅大統領が、『日本が対話と協力の道にでれば、喜んで手を握る』と述べたのに対して、日本側は、対話の呼びかけを敢えて無視することで、GSOMIAを破棄する方向に韓国側を追い込んだ、ということです。

 歴史のアナロジーで言えば、米国が『ハル・ノート』で日本側を開戦に追い込んだのを想起すると分かりやすい。

 ハル・ノートとは、1941年11月、日米交渉の過程で、米国国務長官ハルが提示した覚書のことで、日本軍の中国および仏領インドシナからの全面撤兵要求、蒋介石政権以外の政権の承諾拒否など、日本側が到底受け入れられない内容が盛り込まれていました。これが事実上の『最後通牒』となり、日本に開戦を決意させ、12月8日の真珠湾攻撃に至ります。

 国際社会では、『最初に攻撃した方が悪い』となります。首相官邸と外務省は、そこを周到に計算して、日本に真珠湾を攻撃させた米国のように、韓国側に“最初に撃たせる”ことを考えていたのでしょう」

「韓国内では、与党や革新系メディアを中心に、GSOMIAを“対日カード”として利用すべきだとの声が高まっていました。首相官邸や外務省の狙いは、まさにこのGSOMIAを“対日カード”として使わせない、ということにありました」

「しかも、米国が望まない協定の破棄を日本からではなく韓国に言わせる。そうすれば、『責任は100パーセント韓国側にある』と主張できます。まさにこうしたシナリオ通りに事態が動いたわけです。その意味で、短期的に言えば、日本外交の“大勝利”です」

文政権に残されたカードはほとんどない

 だが、佐藤優氏は、次のようにも指摘する。

「こう見ていくと、対韓外交戦において日本が圧倒的優位に立っていることが分かります。むしろ日本にとっては、今回“勝ちすぎている”ことが問題かもしれません」

「GSOMIAの破棄という“切り札”を早々に使ってしまった文政権に残されたカードはほとんどない。日本側は、すでにそれほど韓国を追い詰めたという自覚も持っておいた方がいいでしょう。

 切羽詰まった韓国側がどう出てくるか、不確実性が増しています。この先、最も心配なのは、日韓の偶発的な武力衝突です」

 日韓関係の現状と今後の展望を分析した佐藤優氏の「『軍事協定破棄』文政権は外交戦に敗れた」の全文は、 「文藝春秋」10月号 に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年10月号)

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