三好匠、小園海斗……広島カープの内野手に“八重歯”が急増している問題を考える

文春オンライン / 2019年10月7日 11時0分

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カープのさまざまな八重歯 ©オギリマサホ

 幼稚園の頃、王貞治の伝記を読んだ(『学研絵ものがたり 王貞治』)。その中で強烈な印象に残ったのが荒川博コーチとの猛練習のシーンである。「バットをふるしゅんかん、おそろしい力が、おくばにかかるのです。そのため、おくばは、ぼろぼろになってしまいました」という描写に幼い日の私は震え上がり、「プロ野球選手=歯がボロボロの人」という強烈なイメージが脳裏に焼き付いたまま大人になった。

 ところが今、多くのプロ野球選手の歯はボロボロではない。雑誌を見ても、選手達は綺麗に手入れされた白い歯を輝かせている。歯のメンテナンスの重要性が知られるようになったことや、マウスピースの着用などにより選手達の口内環境が向上したためでもあろう。しかし歯並びに着目してみると、八重歯の選手が意外と多いことに気が付く。

最も多く八重歯選手を抱える球団は?

 八重歯とは、一般に上顎の犬歯が前方に飛び出した状態のことを言う。日本では多くの人が「八重歯=かわいい」という意識を持っているのではないだろうか。それは80年代の石野真子や河合奈保子といった八重歯アイドルの影響かと思いきや、昭和5年の段階で既に谷崎潤一郎が「元来日本では八重歯や味噌ッ歯の不揃いなところに自然の愛嬌を認めたもので、あまり色の真っ白な歯がズラリと綺麗に並んでいるのは、何んとなく酷薄な、奸黠残忍な感じがするとされたものだった」(「懶惰の説」中公文庫『陰翳礼讃』所収)と書いていた。

 しかし近年では「アメリカでは吸血鬼の歯と言われ嫌われる」「歯並びが悪いと育ちが悪いと思われる」「不正咬合はさまざまな悪影響を及ぼす」といった説が浸透し、八重歯を抜いて歯列矯正する人も増えた。プロ野球選手でも大学時代に矯正を始めた岡田明丈や、入団時に歯を8本抜いて矯正を始めた藤嶋健人(中日)などの例もある。新庄剛志の八重歯も松坂大輔の八重歯も清原和博の八重歯も「治すべきもの」とされ、いつしか消えていった。となると、今現在の八重歯選手達はそのままの歯並びで大丈夫なのだろうか。

 カープでは1990年以来、広島口腔保健センターにおいて新人選手の歯科検診が行われている。もし歯並びに問題があってプレーに差し支えるのであれば、この時点で何かしらの指導が入る筈である。しかし八重歯選手がそのままプレーしているということは、特に治す必要がないということなのではないだろうか。それが証拠に2015年の検診で咬合力1385.5ニュートンという数値を叩き出し、13年に「ピラニア級」と報じられた美間優槻の咬合力値(1295ニュートン)を遥かに上回った塹江敦哉は立派な八重歯持ちである。八重歯の有無と咬み合わせの良し悪しとが必ずしも一致しないことの証左とも言える。闇雲に矯正を行うことで微妙なバランスが崩れてしまうよりは、そのままの歯並びで結果が出ているのであれば良いということなのかも知れない。

 ここで八重歯選手の傾向を見てみたい。現在、最も多く八重歯選手を抱えるのが巨人(なお、八重歯愛好家の前川ヤスタカ氏の定義による「あなたが八重歯と思えばそれは八重歯」というスタンスに基づき分類している)。吉川大幾をはじめ14名の選手が八重歯である。そのうち半数の7名が沼田翔平ら育成選手だ。これは八重歯選手を育成しようという意図なのだろうか。またDeNAは、八重歯選手13名のうち8名が国吉佑樹ら投手である。八重歯投手王国を築こうという意図なのかも知れない。

カープの内野手に八重歯が急増している問題

 カープはどうだろうか。先日引退した永川勝浩を含めると、75名の支配下選手・育成選手のうち11名の八重歯選手が在籍している。約15%が八重歯選手である。現在の日本では12~20歳のうち約26%の人に叢生(重なって生えている歯)があるという調査もあり(厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査」)、平均よりは少なめなのかも知れない。

 ところが、ある傾向が見えてくる。どうにも八重歯の内野手が多いのである。確かに以前から東出輝裕や梵英心など、カープでは八重歯内野手が多い印象ではあった。しかしここ1年ちょっとの間に、カープは美間、下水流昂(非八重歯選手)をトレードで放出し、曽根海成、三好匠(八重歯内野手)を獲得した。更にはドラフトで小園海斗、林晃汰を指名したことで、もともと八重歯内野手であった小窪哲也を含め、一気に八重歯内野手が5名に増えたのである。ここに何らかの意図はあるのか。かわいさで打者を圧倒する、吸血鬼のイメージで外国人選手を怖がらせる……等々考えてみたが、大きなポイントは八重歯が「アシンメトリー」であるということではないだろうか。

 なぜ日本でのみ八重歯が評価されるのかという理由の一つに、「日本は非対称のアンバランスさ、未完成の美しさを尊ぶ」という説がある(大野粛英・吉田康子「八重歯の考現学(下)」『日本歯科評論』No.549)。そもそも「内野のアシンメトリー」は「王シフト」時代からのカープの伝統であった。

 更に言えば、三連覇を果たしながら日本一になれず、今年もギリギリまで3位にいながらCS出場を逃した現在のカープはまさに「未完成」なのかも知れない。しかし八重歯内野手たちはいずれも次世代のカープを担う選手たちである。特に小園は高卒1年目で58試合に出場し、来シーズン以降の期待も高まっている。もしこのまま小園が順調に成長してメジャーに挑戦などという日が来たとしたら、多くの先達たちがそうしたように真っ白い綺麗な歯並びに直すのであろうか。そのようなことを考えつつ、しばらくは八重歯が覗く笑顔が一回でも多く見られるよう、八重歯内野陣の活躍を見守っていきたい。

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(オギリマ サホ)

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