韓国に向けられた北朝鮮ミサイルが九州に? 専門家も驚いた「変則軌道」新型の正体

文春オンライン / 2019年10月5日 5時30分

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新型ミサイルの発射を喜ぶ金正恩委員長(8月7日) ©共同通信社

 北朝鮮による弾道ミサイルの発射が続いている。10月2日には「北極星」系列と推定される潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が発射され、島根県東方沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。今年に入って、11回目の発射となる。

「今回発射したミサイルは、2017年に金正恩がミサイル施設を視察した写真の中に、壁にこれみよがしに貼ってあった『北極星-3』と表題がつけられていたミサイル画像の完成形だと思われます。当時は『次はこれが発射されるのではないか?』と注目していたものですが、2年後の10月に発射に至ったということなのでしょう。想定の範囲内のミサイルでした」

 そう語るのは、在米防衛駐在官、海幕指揮通信情報部長を経て、海上自衛隊呉地方総監を務めた元海将、伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授だ。

想定外の新型ミサイル「北朝鮮版イスカンデル」

 ただ、今年に入って発射されたミサイルの中で、伊藤氏が「正直なところ、その事実を知ったときは驚いた」と語るものがある。それが、ロシアの「イスカンデル」に類似した新型の短距離弾道ミサイルだ。

「これまで北朝鮮は、多くの種類のミサイルを発射してきましたが、実のところ日本や欧米の軍事関係者にはすべてが"想定内"でした。そのミサイルが、どの国の技術を基にしていて、どんな会社から流失した技術が使われているかまで、すべて把握していたのです。さらに、次にどの程度の性能のミサイルが飛ぶかも想像がついていました。

 2017年に『アメリカ本土に届く』と宣言した『火星』シリーズという長距離弾道ミサイルについても、1964年に失脚したフルシチョフ時代のソ連が開発した『RD250』というエンジンがやっと手に入って搭載されたのだなと、その部品まで手に取るように分かっていた。ところが、今年になって発射されたミサイルには、想定外の新型のミサイルが含まれていた。その予想していなかったカードが、『北朝鮮版イスカンデル』なのです」

 問題になっているのが、「イスカンデル」の軌道だ。変則的な軌道で飛行するため、今年5月以降の発射でも、日本政府はその一部が探知できなかったとの報道もあった。

「通常の弾道ミサイルは発射された後に大気圏外へと上昇し、慣性力で宇宙空間を飛行して、着弾地点めがけて大気圏に再突入して落下します。つまり、きれいな放物線のような軌道を描きます。これに対して、『イスカンデル』は通常より軌道が低く、着弾する手前でくねくねと複雑な飛び方をするのです。これまでのアメリカのミサイル防衛システムでは対処できない可能性も指摘されています」

 今回の新型ミサイルで注目に値するのは、その飛行高度の「低さ」だという。北朝鮮のミサイル技術が確実に進歩していると伊藤氏は指摘する。

「これまでの北の技術では、弾道ミサイルを約600キロ先まで飛ばそうとすれば、高度100キロ以上に打ち上げなければいけませんでした。それがあの『北朝鮮版イスカンデル』は、高度50キロほどの高さで600キロ以上飛んだ。このことが専門家たちを、さらに驚かせたのです」

米海軍基地も射程圏内に

 飛距離が600キロとなると、日本の領土の一部も射程圏内だ。実際のところ、日本国民が被害を受ける可能性はあるのだろうか。

「まず、この兵器は基本的には航続距離からしても韓国に向けた武器です。日本への影響は限定的とみてよいでしょう。とはいえ、現在の能力でも、射程でいえば日本海側の陸地のどこかには当たる可能性がある。韓国軍によれば、7月25日に発射されたミサイルのうち一発は約690キロ飛行したとされています(※その後、韓国国防省の関係者が米国軍と共同で分析した結果として、飛行距離は2発ともおよそ600キロだったと修正された)。すでに山陰や九州の北部が射程に入り、福岡市などの大都市、玄海原発(佐賀県玄海町)などの原子力発電所、在日米海軍佐世保基地なども北から約700キロ程度で、届く可能性のある距離なのです」

北朝鮮も意図せず、日本列島に落下する可能性

 このような事態に、日本政府はどのように備えれば良いのだろうか。

「いきなり日本を攻撃するということは現代社会では想定できません。仮に北が日本を攻撃すれば、直ちに休戦していた国連軍が再編され、北朝鮮は数日で国家として存在しなくなるでしょう。国家体制の維持を最大の目標にしている金正恩が、そんな選択をするはずがありません。

 私が恐れているのは、精度の低い北朝鮮のミサイルが実験のために発射され続けることです。領土の狭い北朝鮮には試し打ちをする場所がありませんから、日本海、もしくは日本列島を越えて打つしかない。さらには本来付近を航行する船舶や航空機の安全確保のため義務付けられている『航行警報』も一切出さない。この無礼極まる態度が『ならず者国家』と称される所以なのです。各国が『やめろ』といっても発射実験を繰り返す。そしてその実験が失敗し、北朝鮮も意図しないのに、日本本土のどこかに落下する――そういう事態は十分起こり得るのです」

 この新型ミサイル「北朝鮮版イスカンデル」に対して、日本のミサイル防衛体制は対応できるのか。さらに、韓国との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄の影響はあるのか――。現場を知り尽くした伊藤元海将が、北朝鮮のミサイル問題について解説する7000字インタビューの全文は「 週刊文春デジタル 」ほかで公開している。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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