大阪の人気たこ焼きチェーン「くくる」商標めぐり全国でトラブルが続発!

文春オンライン / 2019年10月10日 17時10分

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「道頓堀くくる」JR新大阪駅店 ©文藝春秋

 大阪土産を求める客で連日賑わう東海道新幹線の新大阪駅。「串カツ」「ねぎ焼き」といったご当地グルメが並ぶフードコードで一際長い行列が出来ているのが大阪名物の代名詞「たこ焼き」を販売する「たこ家道頓堀くくる」だ。道頓堀に本店を構え、全国に50以上の支店を持つ人気チェーン店である。

 そんな人気チェーンの商標をめぐって、日本各地の個人店とトラブルが起きていることが「週刊文春デジタル」の取材でわかった。

たこ焼き、お好み焼き業界では3本の指に入る

「たこ家道頓堀くくる」を経営するのは、大阪に本社を持つ「白ハト食品工業株式会社」。同社は1959年の創業。街のアイスクリーム屋からスタートした。

「さつまいもを使った芋菓子で有名な『らぽっぽ』を出店して大当たり。その後、たこ焼き屋の『くくる』の全国展開も進めています。両店ともに駅ナカ、デパ地下を中心に店舗数を拡大していて、2010年の上海万博では日本産業館にも出店し、シンボルの巨大タコの立体看板は話題を呼びました。白ハト食品の昨年度の年間売上は60億円以上。たこ焼き、お好み焼き業界では3本の指に入る大手です」(経済紙記者)

 その白ハト食品の代理人弁護士から、いま全国の「くくる」という名前の個人飲食店主に、次々と内容証明が届いているのだ。静岡県沼津市で「やきとり居酒屋くくる」を営む店主Aさん(40代・男性)は肩を落として、こう話す。

「自分は17歳まで沖縄の石垣島で育ちました。沖縄の言葉で『くくる』って、『こころ』って意味なんです。現地の人なら皆が知ってる言葉。だから、看板にも『くくるこめて焼いてます』って書きました」

「くくる」=「こころ」だった

 弁護士4人の名前が連なった通知書は、配達証明付きの内容証明でAさんのもとに届いたという。消印は8月21日、配達されたのは8月23日だった。

〈冠省 当職らは、白ハト食品工業株式会社(以下、「通知人」といいます。)を代理し、貴殿に対し、次のとおり通知いたします。
 通知人は、以下の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」といいます。)を有しております。
 商標登録番号 第4041825号
 商標名 道頓堀 くくる たこ家
 指定役務 (法区分平成3年法)第42類 (「飲食物の提供」等含む)
 貴殿は、現在、「やきとり居酒屋くくる」なる標章(以下、「貴殿標章」といいます。) を店舗の看板や広告等に用い、飲食物を提供しておられます。しかし、貴殿標章は本件商標と類似するものであり、上記行為は、本件商標権を侵害するものです。(以下略)〉(通知書より)

 それまでトラックの運転手だったAさんが、「やきとり居酒屋くくる」を出店したのは5年前。子供が生まれ、家族と過ごす時間をできるだけ取りたいと思って、貯金を使い飲食店に初めて挑戦した。そのとき思いついたのが、「沖縄の心」という意味の「くくる」だったのだ。

「うちは焼き鳥屋だし、誰もたこ焼き屋とは間違えないですよね。通知書を受け取って以来、『なんで?』っていう気持ちばかりで、モヤモヤしてなかなか寝付けず睡眠不足の日が続き、体調も崩してしまいました。

 銀行や弁護士さんに相談するために何日か店も休みました。通知書には『誠意ある回答をいただけない場合には、通知人は、差止め又は損害賠償を求める』と書かれている。でも、どうすればいいのでしょうか? 『誠意ある回答』とは具体的に何をすればいいのかわからず、9月に入って、私たちは邪魔する意図がないことを明記して手紙を送りました」(Aさん)

 Aさんの店は、カウンターとテーブルが数卓在るだけの家族経営。地元客を相手に、Aさんが焼き鳥を焼き、家族が手伝う小さな店だった。

「鶏も炭もこだわってね、ギリギリの予算でやってきて、やっとお客さんも付いてきた時なんですが……」(同前)

 取材班が調べたところでは、Aさんの他にも神奈川、福井、大阪などの「くくる」という名の看板を掲げてきた5軒の飲食店に、8月下旬に通知書が届いていた。すべて個人経営の飲食店ばかりだ。

沖縄居酒屋にも通知書が

 Aさんの焼き鳥店と同じく、沖縄の「心」という意味で店名をつけていたのは、同じ静岡県伊豆の国市で沖縄料理を中心とした居酒屋「くゝる」を営む女性、Bさん。「く」の一字には踊り字の「ゝ」が使われているが、このBさんの店にも通知書は届いた。

「他界した父が沖縄出身で、『心を大事にしなさい』というのが口癖でした。それでお店をはじめるに当たって、父の言葉から店名を付けました。先日やっと3周年を迎えたばかりです。沼津の『くくる』さんとは、市場でお会いしたことがあって縁がありました。同じ「沖縄の心」という言葉から取った店名だし、一緒に頑張っていこうと話していたのですが、まさか、同じ名前の店を持つ別の会社から『名前を使わないで』と言われるとは……」

 古くから使われる沖縄の方言で「こころ」を意味する「くくる」。甲子園で沖縄代表校の応援歌として使われる沖縄民謡「ヒヤミカチ節」の2番の歌詞にも登場する。

《稲粟(いんになわ)ぬなうり 弥勒世(みるくゆ)ぬ印(しる)し 心打(くくるう)ち合(あ)わち 気張(ちぼ)いみそり》
〔訳:作物が繋がり実る沖縄は弥勒世の印 心をひとつにして 頑張りましょう〕

 沖縄に縁がある店は、「道頓堀くくる」のお膝元、大阪府内にもあった。八尾市の古民家を改装した「カフェ KUKURU」。アンティークな内装とコーヒー、カレーを売りにしている。もちろん蛸は一切だしていない。14年以上店を営む店主のCさんが語る。

「20代のときに沖縄で空手をやっていて、その縁で『こころ』という意味を込めて店名にしました。一人の大切な時間を過ごせる環境にできたらいいなって、妻とはじめた店なんです。

 ギリギリ頑張りながら続けてきて、お客様と僕らの心が詰まった店でして、名前を変えるなんてしたくない。今、自分は47歳で奥さんも同い年、子供は半分諦めていたのですが、3年前なんとか授かった。店の名前を変えるとなるとお金もかかります。裁判で争っても訴訟費用がかかる。だったらそのお金を子供のために使いたいですよ」

すでに名称を変えた店も

 訴訟を避けるために、苦渋の決断で店舗名を改称した店もある。沖縄に魅了され、沖縄の飲食店で修行し、7年前から関東近郊で沖縄料理屋を開いたDさん(30代)は、通知書を受け取り、「くくる」を「くくるやー」と改名した。

「お客さんの弁理士さんに相談したら、『従うしかないね』といわれました。訴訟になれば、お金も時間もかかる上に100%勝てるわけではない。従業員を8人抱えている身としては、リスクを避けたかった。店の看板や名刺、ホームページを通知されてから14日以内に変えたから、ただでさえ忙しい中でバタバタでした」(Dさん)

くくる商標登録の前からあった店

 特許庁によると、白ハト食品は1997年「道頓堀 くくる たこ家」で商標を登録。以来、店舗のマークや関連商品の商標を登録している。そして今年8月21日に新たに「くくる」というひらがなの表記で商標を出願したという。

 白ハト食品が「くくる」について最初の商標を獲得した1997年以前から店を経営しているのは、福井市内でお好み焼き屋「く・く・る」を営む60代の男性店主・Eさん。30年にわたって店の看板を守ってきた。明け方まで営業し、地元住民の憩いの場となっているこの店にも、通知書は届いた。

「朝まで営業しているから、うちの店で『しめくくる』という意味で付けました。この30年間、いろいろあった。最初は、郊外ではじめたんだけどお客が1日1組しか来なかったり。母ちゃんは保険の外交員をやって、俺も外で働きに出て、2人で交代しながら店番して何とか店を守ってきた。軌道にのったのは10年たってからだったな」(Eさん)

 今回の通知を受け取って戸惑っているのは、長年お店を続けてきたEさんも同じだ。

「徐々にお客も来てくれたときに俺が脳梗塞で身体を壊してさ、それでも皆に支えられてリハビリして、こうして今もお店に立ってる。この歳になって、そもそも知らないお店から、いまさら名前を変えろといわれても……」(同前)

専門家「企業の立場としては的確」

 通知された店舗の店主たちは、白ハト食品工業の「くくる」の存在を「そもそも知らなかった」と声を揃え、対応に困惑していた。

 だが、白ハト食品工業が行った措置には「違法性はなく、商品を守る企業の立場としては的確だ」と専門家は話す。商標問題に詳しいレガート知財事務所の弁理士、峯唯夫所長が解説する。

「1992年に商標法が改正されて、サービス業の登録制度が始まりました。この商標制度とは、全国展開するような企業が事業をしやすいように、『事業をする以上は、どんなに規模が小さくても他人の商標をチェックしなかった事業者の方が悪い』という法律。今回のケースも、商標を持つ側に分がありそうです。アルファベットや踊り字のケースでも、読み方が同じなら類似するという判断になると思います。対応策としては、『くくるやー』のケースのように、改名などの手段を検討するしかありません。

 小さい個人店は、商標について確認せずに店舗名を付けてしまうことが多い。それ自体は法律違反ではありませんが、商標権がないと、今回のケースのように、他人に先に登録されて『使うな』と言われたら、せっかくビジネスが軌道に乗ってきた時でも名前を変えなくてはいけない。新しいお店を開くときはどんなに小さなお店でも、商標をチェックして、商標登録をしておくことが必要です」

 今回取材した多くの店は、「くくる」という沖縄で「心」を意味する言葉から店舗名を付けていたが、その点についてはどうか。

「商標はありふれた言葉でも登録できる。たとえば、トンボという昆虫は誰のものでもありませんが、『トンボ鉛筆』という商標が登録されています。要するに『心』という言葉も飲食店としては商標登録できるのです」 (同前)

 白ハト食品工業にも見解を聞こうと、永尾俊一社長へのインタビューも含めて取材を申し込んだが、書面で次のような回答が送られてきた。

「現在代理人弁護士を通じ、個別の案件毎に交渉中でございますので、ご質問に対する回答は差し控えさせていただきます。また、弊社代表取締役永尾への取材のご依頼につきましても、同様の理由によりお断りさせていただきます」

 AさんからEさんまで、どの店も「道頓堀くくる」の不利益になっているようには見えない。たこ焼きのように丸く収まるのを祈るばかりである。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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