【10・17ドラフト】軟式出身の非エリート・大船渡佐々木はプロで完全燃焼できるか

文春オンライン / 2019年10月17日 11時0分

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プロ志望表明の会見での大船渡の佐々木朗希投手(10月2日) ©共同通信社

 いよいよ10月17日午後5時、運命のドラフト会議が始まる。163キロ右腕、 “令和の怪物”と呼ばれた大船渡の佐々木朗希、甲子園を沸かせた星稜の奥川恭伸らの上位指名が予想されている。

 この日を迎えるまでに様々な経歴を積んできた高校球児たち。彼らを長年取材してきた、『投げない怪物 佐々木朗希と高校野球の新時代』(小学館、10月16日発売)の著者、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が、そのキャリアから今年のドラフト会議を分析した。

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 10月17日に開かれるプロ野球ドラフト会議の注目は、令和の怪物こと佐々木朗希(岩手・大船渡)と、今夏の甲子園準優勝投手である奥川恭伸(石川・星稜)にいったい何球団の指名が集まるのか。まずはその一点だろう。

 ドラフトの対象となる今年の高校3年生世代を代表する両投手はいずれも中学時代は軟式野球に励み、硬式球を手にしたのは高校からである。宇ノ気中学時代に全国制覇経験のある奥川でさえも当時は全国区の知名度はなく、佐々木にいたっては成長痛や腰の疲労骨折で満足に投げられない時期が続き、まったくの無名選手だった。

野球エリートが集まる大阪桐蔭

 両者は地元の仲間と声をかけあって同じ高校に進学し、黒土にまみれながら練習に励み甲子園を目指す中で、大きく才能を花開かせてきた。だが、ドラフト上位候補として彼らが辿ってきた道のりは、決して主流ではない。昨今は小・中学時代から日本代表に入った経歴を持つような野球エリートが上位指名されるケースが目立つのだ。

 たとえば昨年のドラフトで1位指名された根尾昂(中日)は小学時代にドラゴンズジュニアに選ばれ、中学3年次にはNOMOジャパンのエースとして国際試合を戦った。同じく藤原恭大(千葉ロッテ)もオリックスジュニアを経験し、中学に進学する際には中学硬式野球の数十チームから声がかかったという。

 根尾や藤原のような野球エリートを全国から受け入れ、高校野球に一時代を築いてきたのが大阪桐蔭だ。同校はここ数年、U−15侍ジャパンやボーイズ日本代表、あるいはNOMOジャパンなど、日本代表歴を持つような有望選手を数多く抱え、昨年は史上初となる二度目の春夏連覇を達成した。

 ところが今春の選抜、今夏の選手権大会と大阪桐蔭は出場を逃す。かわりに全国屈指の大阪を制し、この夏の甲子園で初めて深紅の優勝旗を手にしたのが、履正社だった。寮のない履正社を選ぶのは自宅から通える大阪近郊の球児が中心となるが、中学時代の輝かしい実績を持つ有望選手が居並ぶのは大阪桐蔭と同様である。

 いわば野球エリートに選ばれるヒエラルキー上位校が、大阪桐蔭や履正社であり、関東ではそれが東海大相模や横浜(共に神奈川)、日大三(西東京)だ。これはそのままプロ野球選手輩出学校ランキングの上位に相当する。

 プロ野球12球団のジュニアチーム→U−12侍ジャパン(カル・リプケン世界少年野球大会代表)→U−15侍ジャパン(ボーイズ日本代表、NOMOジャパン)→野球強豪校→プロ。こうした経歴こそ、まさしくプロへの常道となっている。

軟式野球出身者が活躍中

 そして、今年のドラフトで上位指名が予想される選手の中で、華々しいエリート街道を歩んできている選手が、春の選抜を制した東邦(愛知)の石川昂弥と、創志学園(岡山)の豪腕・西純矢、そして横浜(神奈川)の及川雅貴、興南(沖縄)の宮城大弥という両左腕である。

 選抜優勝投手の石川は、野手としてプロの世界に挑むが、彼は根尾と同じドラゴンズジュニア出身で、中学時代はやはり根尾と同じNOMOジャパンに選出された。石川の地元球団である中日は昨年の根尾に続く二匹目のドジョウを狙っているかもしれない。さらに甲子園での“咆哮”投球が記憶に残る西も、NOMOジャパンを経験した一人だ。

 及川と宮城は16年のU−15侍ジャパンの一員で、宮城は西とともに今年8月末から韓国で開催されたU−18野球W杯でも侍ジャパンに選ばれ、大車輪の活躍を見せた。今年のドラフトでは、佐々木と奥川に、森下暢仁(明治大)を加えた3人に指名が集中することが予想されるが、十分に“外れ1位”の可能性もある。

 中学時代の代表歴が甲子園中継でも紹介されるようになり、野球エリートたちが一部の強豪私立に一極集中する傾向は今後より強くなっていくに違いない。

 だが、中学硬式野球で華々しい実績を持つ球児が、プロへ行っても大成するとは限らないから難しい。今年のプロ野球の開幕投手を務めた12人の投手のうち、外国人(メッセンジャー)1人を除く実に11人が中学時代は軟式野球出身だったという面白いデータもある。ちなみに、昨夏の甲子園で“カナノウ”フィーバーを巻き起こした吉田輝星(金足農業→北海道日本ハム)も地元の中学で軟式野球に励んだ。

 前述したように、佐々木も奥川も軟式出身。ふたりに指名が集中すれば、高卒ドラ1の常識が覆される可能性だってある。

 また奥川を育んだ星稜や、宮城の仙台育英のように、付属中学(軟式)からの6カ年計画で甲子園を目指すような私立の躍進も見逃せない。

 身体の出来上がっていない中学生の時期は軟式で身体をいたわりながら励み、高校に舞台を移してから重たい硬式球を手にする。来春の選抜から球数制限が導入され、球児の健康を第一に考える時代に高校野球は突入する。強豪野球部の作り方もより多様化し、エースを酷使するような古き体質のやり方は批判され、淘汰されていくだろう。部長や監督の暴言や暴力行為が表沙汰となった横浜の問題も、高校野球が新たな時代を迎えた象徴のような出来事な気がしてならない。

“ガラスのエース”の行方は

 高校野球が新時代を迎える中、エリートが集まる名門私立ではなく、地方から甲子園の頂点を目指すような強豪野球部でもない岩手の大船渡から、163キロの直球を投じる怪物が生まれたのは、奇跡的な出来事ではある。

 今夏の岩手大会決勝で佐々木は、故障の懸念によって登板を回避され、自身初の大舞台となるU−18野球W杯でも、血マメの影響でわずか1イニング、19球を投じただけで終わってしまった。

 高校野球を不完全燃焼で終えたガラスのエースがどんな野球人生を歩んでいくのか。まずは運命の日の指名結果を待ちたい。

(柳川 悠二/週刊文春デジタル)

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