男子バレーが急に面白くなった? 「目標が低すぎます」エース石川祐希、2度の直談判とは

文春オンライン / 2019年10月26日 11時30分

写真

W杯で28年ぶりに4位になった男子バレー日本代表 ©getty

 バレーボールの国際大会は「4年に1度」と謳われるものが1つではない。世界選手権の翌年にはワールドカップ(以下W杯)があり、その翌年はオリンピック、というように「4年に1度」の大会が複数あり、その都度異なる放送局が「世界一決定戦」と煽る。

 そのたび、周囲からは「結局どれが一番大きい大会なの?」と聞かれ、同じ言葉が付け加えられる。「女子は盛り上がるけれど、男子は勝てないんでしょ」と。

 いやいや、バレーボールを見るなら醍醐味は男子バレーだよ。しかも今は、日本代表も世界と同じ方向に向かって戦っているから面白いよ。飽きるほどそう繰り返しても、なかなか響かずにいたが、ようやく風向きが変わり始めた。

 W杯で過去最多の8勝を挙げ4位という好成績を収めたことに加え、連日の試合内容も「何かが違う」と思わせるには十分。ようやく、こんな言葉が聞けるようになった。

「男子バレー、面白いね!」

 4年に1度の国際大会の戦績を見れば、中垣内祐一監督が就任した17年のワールドグランドチャンピオンズは6チーム中6位。昨年イタリアとブルガリアの共催で行われた世界選手権は1次リーグ敗退。確かに、結果は出ていない。

 では何が変わったのか。

「やっと日本が本気になった」フランス人コーチの存在

 まず1つは、中垣内監督の就任と共に招聘された、フィリップ・ブランコーチの存在だ。かつてフランス代表監督を務め、ポーランド代表ではコーチとしてチームを世界一に導いた。指導者として豊富な経験を持つブランコーチが日本代表スタッフとして招聘されると、それまでは「日本は時代遅れ」と常に辛辣な意見を述べてきたイタリア人記者も、「素晴らしいチョイスだ。やっと日本が本気になった」と称賛したほど。

 体格も、対世界との経験も、恵まれているとは言い難い日本男子が世界と戦うために何をすべきか。戦術や戦略形成の軸となったのが、ブランコーチの経験だった。リオ五輪以前までの戦い方を徹底的に分析し、日本がサイドからの攻撃数に比較して、ミドルブロッカーを始めとするコート中央からの攻撃数が圧倒的に少ないことを重視した。

 チームスタート時の17年はまずミドルブロッカーの打数を増やすことを掲げ、同じ東レに所属し、代表初招集のセッター藤井直伸とミドルブロッカーの李博がホットラインとなり、それまでの「パスが返ればミドルを使う」という固定観念から、「どんな状況でも使えるならミドルを使う」と新たな発想へと転換。さらに翌年は、そこからのベースアップとして、前衛ミドルの攻撃と同じテンポで展開するコート中央からのバックアタックを多用することで攻撃に厚みが増した。

英語でコミュニケーション――中垣内監督とブランコーチ

 これまでも世界を見据え、さまざまな戦術に取りくんできた。だが、実際に世界を知るブランコーチの指導力や経験がもたらした経験は大きい。選手選考など、時折頑なな部分もあるものの、学閥や所属企業にとらわれず、強くなるためなら忖度なし。プロフェッショナルに徹するブランコーチと、中垣内監督を含めたスタッフ陣が英語でコミュニケーションを取り合い、チームづくりに取り組んできた成果が発揮されているのは間違いない。

 躍進の要素はまだある。前回大会でも活躍した主将の柳田将洋や石川祐希に加え、ベストオポジットに選出された19歳の西田有志や、33歳の福澤達哉が見せた献身的なプレー。李や山内晶大に加え、小野寺太志、高橋健太郎といった大型ミドルブロッカーの覚醒。その個性豊かなアタッカー陣の長所を活かすトスを、コート内外を走り回りながら高い精度で供給し続けたセッターの関田誠大の存在など、個の成長も著しい。

 だが、どれだけ高い能力を持つ「個」が揃い、経験豊かな指導者がいても、与えられたものをそのままやるだけという状態では、おそらくこれほど大きな変化はなかったはずだ。

「ベスト8では目標が低すぎる」

 球技の中でも「過去に勝った」という歴史にとらわれ、育成年代においても現在の世界を見据えた指導ではなく、「昔はこうだった」という指導法もまだはびこるバレーボール界。言われたことをやる、が当たり前とされた世界に風穴を開けたのが、エースの石川だ。

 たとえば、チーム発足時のキックオフミーティングの席上。中垣内監督は今年最大のターゲットとするW杯での目標を「ベスト8」に定めた。過去の成績を見れば簡単に「メダル」とは言えない事情も理解できなくはないが、選手からすれば12チーム中でベスト8を目指す、と言われてもモチベーションは高まらない。その席上で「目標が低すぎるのではないか」と指摘したのが石川だった。

 ただワガママではなく、チームのために必要であると思えば、言うべきことは言う。その姿勢はW杯でも変わらない。大会終盤、勝てばまだメダル獲得の可能性が残されていたブラジル戦。ブランコーチは当初、それまで主軸を担った選手ではなく、出場機会の少ない選手を先発させる形を取ろうとした。

 実際に大会前半、4日目のアメリカ戦でも、今大会のメダル獲得の可能性を高めるために、より勝率が高いアルゼンチン戦に照準を合わせるべく、アメリカ戦で西田はベンチアウト、石川も出場機会はなかった。

「“世界一”ブラジルとやりたい」石川祐希の直談判

 選手からすれば、せっかく目の前に強い相手がいるのに戦えないもどかしさがある。確かに翌日のアルゼンチン戦に勝利したことも含め、大会序盤ならば納得はできる。

 ただ、勝てばメダル獲得の可能性が残り、ブラジルも日本に勝利すれば優勝が決まるという大事な戦いが目の前にあるのに、「この先を見据えて」はないだろう。これからにつなげるためにも、今、世界との差がどれほどか。紛れもなく“世界一”と呼ぶに値するブラジルに全力でぶつかりたい。そう直談判したのが石川と、北京五輪に出場したベテランの福澤だった。

 現状のベストメンバーで臨んだブラジル戦。敗れはしたが、総力を尽くす戦いを繰り広げ、実に12年ぶりとなるブラジル戦でのセット奪取につながった。

 何より大きな収穫は、全力でぶつかったからこそ感じた「差」と得られた悔しさ。

 石川はこう言った。

「僕たちのパフォーマンスを安定して出せれば戦えると感じましたが、ブラジルは戦略をしっかりはめてくるし、どの選手もいろんなサーブが当たり前に打てる。そこも1つ差を感じたところですし、自分たちは大事なところでの1本だけでなく、それ以外のミスを減らすことや、取り切る場面で取り切るスキル、メンタルをつけないといけない。強豪相手には、取るべき1本を確実に取らなければ勝てない、と改めて学びました」

「石川は周りにも目を配ったり、声をかけたりするようになった」

 大学時代まではコンディション面に不安が残り、万全の状態で1シーズンを戦い切れたことがなかった。だがプロとなり、食事やトレーニングに対してこれまで以上に高い意識で臨んだ結果、体つきの変化は明らかで、昨季はイタリアセリエAのシエナで全試合にスタメン出場を果たし、より高いレベルで経験も積んだ。

 その成果は、共にプレーする仲間もより強く感じている。中大時代の先輩で、共にプレーし大学のタイトルを総なめにしたセッターの関田が言った。

「周りに対して要求するのは変わりません。でも言う以上はやる、というのが彼の意識として常にあるし、周りにも目を配ったり、声をかけたりするようになった。アタッカーとしての進化は言うまでもない。間違いなく、石川がこのチームの軸で柱です」

 世界を知るコーチの知恵と経験に基づく戦術と、それを遂行できる能力と意志を備えた選手が集い、その中心に柱となるエースがいる。躍進の背景には確固たる理由があった。

では東京五輪でのメダルの可能性は?

 とはいえ、W杯の結果だけを見て「東京五輪もメダル!」と声高に言えるかと言うと、残念ながらまだそのレベルには至らないのも現実だ。なぜなら、本来は上位2か国に五輪出場権が与えられるW杯であるが、今大会に限っては日本が開催国として出場するため、五輪出場権はかからない。大会前にはブラジル、ポーランド、アメリカ、ロシア、イタリア、アルゼンチンが五輪出場権を獲得しており、年明けに行われる最終予選へ臨む他国も含め、W杯では主力が来日せず、セカンドチームが多かった。

 五輪に照準を合わせ、ベストの状態で挑む強豪にどれだけ太刀打ちできるか。石川が言うように、W杯では世界ランキング上位国に敗れ、目標としたメダル獲得は果たせず終わっているのも事実で、クリアしなければならない課題も山積みだ。

 だが、大会前にあのブラジルとこれほど渡り合えると誰が予想しただろうか。しかも、1セットを取ったことに「満足」ではなく、負けたことに本気で「悔しい」と口を揃えることなど、想像すらしなかったはずだ。

 まだ今は、トップを走る強者の背中は遠くても、確実にその姿は見えている。

 どんな相手に対しても、何かやってくれるのではないか。そんな期待と高揚感を残し、選手たちは次なるステージへ向け歩み出した。

 W杯閉幕直後にイタリア、パドヴァでの開幕戦に出場した石川を筆頭に、海外でプレーする選手と、日本で多くの注目を浴びながら戦う選手がどんな融合を果たすのか。やはり、期待は高まるばかりだ。男子バレーの未来は明るい、と。

(田中 夕子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング