英語民間試験延期 なぜ「一番可哀想なのは今の高3」なのか?
文春オンライン / 2019年11月1日 17時50分

英語民間試験導入延期を発表する萩生田文科相 ©時事通信社
11月1日、2020年度に始まる大学入学共通テストにおける英語の民間試験の導入について、延期が発表された。
英語の民間試験については、受験料が高額であることや、複数回の受験が可能であることから経済状況に応じて格差が生じてしまうことや、試験会場を民間側で用意することから、地方や離島地域に住む生徒に不利に働くことなどが取りざたされていた。
1日におこなわれた記者会見で、萩生田光一文科相は5年後の2024年度の実施に向けて、試験の仕組みを抜本的に見直すとしている。
2024年度は、学習指導要領改訂後、初の大学入試が実施される年でもある。今回の英語の民間試験の導入の延期の影響と、5年後の展望について、大学受験に詳しい大学通信・常務取締役の安田賢治さんに聞いた。
◆◆◆
一番可哀想なのは今年度の受験生
——今回の報道を受けての感想は。
安田賢治さん(以下、安田) 驚いたのと同時に、やっぱりな、と。全国高等学校長協会から延期と制度見直しを求める要望書が提出されるなど、現場の反発は根強かった。民間の英語試験の利用を予定している大学の一覧も先月末にやっと発表された状況で、来年度からの実施というのに先行きも不透明でした。受験生や、受験指導に当たる先生たちからすれば、「こんな状況では試験対策ができない」という気持ちだったのでは。
——延期による影響を一番受けるのは誰でしょう。
安田 間違いなく、今年度の受験生だと思います。今年度の受験生は、センター試験を最後に受ける人たち。浪人したら、新テストのために対策をし直さなければいけないから、「絶対浪人できない」という思いで安全校を選んでいる受験生が非常に多い。
新テストの中でも、特に対策が大変だと考えられていたのは英語の民間試験のライティングとスピーキング。来年度、英語の民間試験がないと知っていたら、「入れる学校」ではなく「入りたい学校」を受験していたのに……と悔しい思いの受験生が多いはず。浪人のリスクを考え、一般入試から推薦入試等に流れた子たちはすでに願書を出してしまっていますし、一般入試を受ける予定の子たちも、安全校の受験から挑戦校の受験へこれから軌道修正するのは難しい。彼らが一番可哀想ですよ。
5年後の改革も不透明な部分ばかり
——萩生田文科相は会見で、2024年度の英語の民間試験の導入に向けて検討するとしました。2024年度にも、大学入試改革が予定されています。
安田 そうですね。2020年度の大学入試では、センター試験の後継である「大学入学共通テスト」が始まります。今の中学1年生が受けることになる2024年度の大学入試は、10年に1度の学習指導要領改訂後初の大学入試です。
5年後の状況も、まだまだ読めません。たとえば、すでに出ている案では、2024年度の大学入試からは英語の試験はすべて民間試験にしてしまおう、というものもある。英語の試験がすべて民間試験になってしまったら、高校の授業が単なる英語の民間試験対策になってしまうとして、現場からは猛烈に反対されているのですが。
もちろん、2020年度に実施される予定だったように、ライティングとスピーキングだけ民間試験を導入する形もあり得ますし、大学関係者からは(センター試験の後継である)大学入学共通テストの一環として、ライティングやスピーキングを取り入れたらどうか、という声もあがっています。
日本の英語教育は過渡期にある
——これでは、現在の小中学生やその親は、どう対策していけばいいのか全く見当がつきませんね。
安田 2020年度から小学校高学年で英語教科化が始まるなど、日本の英語教育は過渡期にあります。ライティングやスピーキングに関しては、国が英語4技能評価(読む、聞く、話す、書く能力を評価すること)を推進しているので、どちらにしろ対策は必要になるはずです。進学を控えるお子さんは、スピーキングやライティングの面倒をしっかり見てくれる中学・高校を選ぶ必要があると思います。
個人的に懸念しているのは、幼い頃から英語を強要されて、英語嫌いになる子どもがたくさん出てくるんじゃないかということ。一回科目を嫌いになってしまうと、きちんと勉強させることは難しい。苦手でもいいけど嫌いにならせちゃだめですね。時代の流れに焦ってしまう気持ちも分かりますが、嫌がる子どもを無理やり英会話教室に入れる、というようなことはしなくてもいいのではないでしょうか。
◆◆◆
1日の会見で、萩生田文科相は「(受験生の)皆さんとの約束を果たせなかった」「大変申し訳なく思っている」などと発言した。
しかし、大学入試改革は今年度、来年度の受験生だけではなく、現在の小・中学生にも大きな影響を及ぼす。制度の公正さ・公平さが担保されることはもちろんのこと、制度をめぐる混乱が解消され、子どもたちが安心して勉強できる日が来ることを願うばかりだ。
(「文春オンライン」編集部)
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