「ヒカキンがアリババで中国製品を宣伝する日」 1日4.2兆円「独身の日」現地で見えた未来

文春オンライン / 2019年11月12日 17時0分

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取引総額は24時間で2684億人民元(約4兆1800億円)に達した。 ©アリババグループ

「これはもう数字の暴力だ……」 思わずこんな言葉が私の口から漏れてきた。

 世界最大のネットショッピングセールをご存知だろうか。それが中国の「双十一」(ダブルイレブン=11月11日)だ。日本では「独身の日」と聞くとピンと来る人も多いだろう。

 中国EC(電子商取引)最大手のアリババグループが仕掛ける“ショッピングフェスティバル”である。上海市で開催された前夜祭は中国全土に中継されたが、中国の芸能人だけではなく、ポップ界のスター、テイラー・スウィフトまで登場するなど、大変な盛り上がりを見せている。まさに祭り、なのだ。

1日の取引額は4.2兆円、前年比8500億円増

 筆者はこの盛り上がりを取材するため、浙江省杭州市のアリババグループ本社を訪問した。11月11日0時からの24時間の祭りを体験した上での最大の感想が、冒頭の「数字の暴力」である。私の気分を味わってもらうため、皆さんにも今年の「数字の暴力」をシェアしたい。

・セール参加者は5億人。前年から1億人の増加。

・取引額は2684億元(約4兆1800億円)。前年から549億元(約8500億円)の増加。

・商品を配送する宅配便は12億9200万件に。前年比で2億5000万件の増加。

・世界78の国と地域から2万2000ものブランドが参加。

・セールにあわせて100万種類もの新商品が登場。

・売り上げ1億元(15億円)を超えたブランドは299に。

・中国外のユーザーも祭りに参加。100機を超える“チャーター便”がセール品を海外に輸送。

……といった具合に、いちいちすごい数字が突きつけられる。筆者は2回目のダブルイレブン取材だったが、シャワーのように浴びせられる数字の数々にはもう呆然とするしかない。ともかく圧倒的な物量なのだ。

「ARコスメ」と「ライブコマース」に乗り遅れるな

 ただし、ポイントは数字だけではない。ダブルイレブンは新たなビジネスモデルや技術が登場するお披露目の場でもある。「ダブルイレブンで未来が予見できる」とはアリババグループ系のフィンテック企業アントフィナンシャルの蒋国飛副総裁の言葉。このお祭りで登場した、尖った技術がしばらくして普及するという意味だ。

 今年の目玉技術の一つとされているのが「ARコスメ」。口紅などの化粧品をAR技術でお試しできるという代物だ。筆者もトライしてみたが、かなり自然に化粧が試せる印象だ。実は似たような製品を前にも試したことがある。それは2017年のダブルイレブンの時だった。ただし、2年前はスマホではなくお店に備え付けられた専用の機械を使っていた。専用機が必要だった技術がたった2年間でスマホの中に格納されたというわけだ。しかもARの精度や効果が現れるまでの速度も大きく向上している。

ロシア人インフルエンサーが活躍

 もう一つの目玉とされているのが「ライブコマース」だ。テレビ通販のアプリ版のようなものだが、インタラクティブという点が大きな違いだ。視聴者がコメントを書き込むと画面上に表示される。放送者は視聴者の反応で手応えを感じながら、時にはコメントにライブで回答して放送を進めていく。

 もちろんライブコマースは今年始まったわけではない。アリババグループが採用したのは2016年。今年は4年目になるが、今までをはるかに超えた力の入れようを見せていた。「ライブコマースは視聴者とのエンゲージメントが強く、一般のネットショッピングと比べても高い成約率となります」と関係者はその理由を説明している。

 また新しい動きとして、海外を対象としたライブコマースも目立った。中国商品の輸出を手がけるアリエクスプレスではロシア人インフルエンサーなどを招き、外国語のライブコマースを行っている。日本からの購入も少なくないだけに、来年は日本人インフルエンサーが起用される展開は十分ありうる。「ヒカキンがアリババ本社から中国製品を宣伝する」といった未来があっても不思議ではない。

 他にもアリババ傘下の、東南アジアのECサイト「LAZADA」がタイ向けのライブコマースを行っていた。タイ人インフルエンサーがタイの伝統食品をタイの消費者に売る……ただし収録ブースは中国。というなんとも奇妙な状況が生まれていた。

我が社もビッグウェーブに乗りたい……でもどうやって?

 日に4兆円を売り上げるセール、我が社もそのビッグウェーブに乗りたい。そう考える日本企業は少なくないが、日本企業の中国市場向けマーケティングを支援する株式会社プラップジャパンの安田加奈子氏は、「安易な気持ちで取り組めば失敗する」と警告する。

「有名な中国インフルエンサーに頼めば売れると思っている方が多いんですけど、大間違いです。普段化粧品ばかり扱っているインフルエンサーが突然、ガジェットの話を始めてもファンはついていけませんよね? 売りこみたい商品にあったインフルエンサーさんを探さないといけないんですよ。外国のインフルエンサーのことなんて知らないという企業は失敗する可能性が高いと思います」

中国ならではの“ゾンビ”問題

 問題は商品とマッチするかだけではない。中国ならではの“ゾンビ”問題もあるという。

「中国のSNSでは自動的に作られたアカウントで増やした、いわゆるゾンビフォロワーが多いですし、他にも動画の再生回数を水増しするなどして効果があったように見せかけることも。最近だとインフルエンサーによる宣伝動画が200万回以上再生されたのに売り上げがゼロだった、なんてこともありました」

 つまり商品を売るためにインフルエンサーを雇うとなると、どうしてもゾンビフォロワーの問題がついてまわるのだ。そこで費用が発生しない、素人のコミュニティから口コミを広げられないかという動きもある。2018年9月からBoJapanという在日中国人女性のコミュニティを組織するアライドアーキテクツ株式会社の藤田和重ソーシャルメディアプロデューサーに話を聞いた。

「インフルエンサーマーケティングは我が社も手がけていますし、大事な施策です。ただ、それだけじゃ難しい。じつは中国のインフルエンサーってどんどん広告費が上がっているんです。中国市場は巨大ですけど、その分、売り込みに必要な経費も莫大。大企業ならいざしらず、中小企業レベルだと砂漠にコップの水をまくような話になってしまいます」

 そこでインフルエンサーに頼らないマーケティング手法に取り組んでいるという。それが中国ECと日本企業を結ぶ「在日中国人のコミュニティ」だ。

「まずはコスメ好きの女性を集めるところからスタートしました。彼女たちにサンプルを配り、感想をヒアリングするほか、中国のSNSに自らの体験を書き込むようお願いしています。有名なインフルエンサーではなく、同じ目線の一般人の口コミを増やすこと。こうした土壌作りが長期的なパフォーマンスにつながります」と藤田氏。

 筆者は今年10月に開催されたBoJapan1周年パーティーを訪問したが、やたらと品のいい人たちの多さにびっくりした。この手のマーケティングに駆り出される中国人は肉食系というか「がっつり稼ぐぞ」オーラを出している人が多いのだが、おっとりというか、余裕のある雰囲気を出している人たちが多い。

 中国市場は大きなビジネスチャンスだが、すでに多くのブランドがしのぎを削るレッドオーシャンだ。賢く戦わなければ利益を得ることは難しい。効率的なインフルエンサーマーケティングを使うのか、あるいはコミュニティの力を借りるのか。どちらにしても本気で取り組む必要がありそうだ。

写真=高口康太

(高口 康太)

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