沢尻エリカを逮捕した「組対5課」って何? ライバル・マトリが逮捕した“あの大物”

文春オンライン / 2019年11月23日 11時0分

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麻薬所持の容疑で逮捕された沢尻エリカ ©︎getty

 沢尻エリカが今月16日、麻薬所持の容疑で逮捕された。2012年に週刊文春が大麻パーティーの模様を報じたことがあったが、今回は合成麻薬であった。その後の報道によれば、10年以上前からあれやこれやの薬物に手を出していたと取り調べで供述しているという。

 今回、沢尻を逮捕したのは警視庁の「組対5課」だ。暴力団などの犯罪を取り締まる組織犯罪対策部のなかでも、この5課は銃器と薬物の事案を担当する部署である。

「マトリ」vs「組対5課」の摘発合戦

 薬物犯罪の捜査機関では、「マトリ」が有名だ。麻薬取締官の略称で、厚生労働省の麻薬取締部の職員になる。むかしは「麻薬Gメン」の愛称で呼ばれたものだが、最近はこちらの呼称を目にすることのほうが多い印象だ。また「マトリ」は、特別司法警察職員として、警察官と同様に、拳銃の使用や家宅捜索、逮捕ができる。

 そんな「組対5課」と「マトリ」、なにしろ「捜査対象がカブることも多く、昔は互いの捜査情報をリークして潰し合う」など犬猿の仲であったが、現在は人事交流などで協力関係が進んでいるという(注1)。

 では、職務は似ている両者だが、なにが違うのか。

「マトリ」はオトリ捜査で、麻薬を買うことができるのである。いわゆる「買い受け捜査」だ。なにしろ「麻薬及び向精神薬取締法」に、取締官は「何人からも麻薬を譲り受けることができる」と明記されているのである。

 そんな両者が芸能人を逮捕するのを競い合っているかどうかは知らないが、そうした調子の記事が書かれもする。たとえば「沢尻容疑者は組対5課、ピエールはマトリ…摘発合戦」(日刊スポーツ)などがそうだ。近年でいえば「組対5課」は清原和博やASKA、「マトリ」は高樹沙耶を逮捕している。

 しかし、歴史的にみると、マトリは清原&ASKA&沢尻を足してもお釣りが来るくらいの大物を相手にしている。ポール・マッカートニーだ。

ポールを取り調べたマトリ・小林取締官

 ポール・マッカトニーがバンド「ウイングス」での日本公演のために成田空港に降り立ったのは1980年1月のこと。大麻219gを所持していたため、現行犯逮捕される。このとき、ポールを取り調べしたひとりが「マトリ」の小林潔という取締官であった。

 小林はスパイの獲得やオトリ捜査のほか、ヤクザ組織への潜入捜査などで成果をあげ、また『覚せい剤を追え』(日新報道・1977年)を出版するなど、名の知れた取締官であった。この『覚せい剤を追え』には、地域ごとの覚醒剤の呼び方が載っている。映画やドラマでは「シャブ」といったり「ヤク」といったりするけれども、小林作成の呼び名ランキング表では「1位 シャブ 35県」「2位 ネタ(タネ) 23県」「3位 ヤク 21県」となっている。ちなみに10位は「宇宙食」(5県)だ。

  また小林は、週刊文春の「イーデス・ハンソン対談」(今でいう「阿川佐和子のこの人に会いたい」に相当するような連載)にも登場したことがある。ここで小林は、逮捕のきっかけは「協力者からの通報が一番多いですね」と語る(注2)。協力者とは要するにスパイだ。

 そういえばこのたびの沢尻逮捕は、警視庁への「情報提供」がきっかけだと報じられている。「マトリ」に逮捕されたピエール瀧も「情報提供」がきっかけだ。これが市井の者からのタレコミなのか、協力者からのものなのかは知るよしもないが。

ポールが獄中で「イエスタデイ」を…

 そんな小林が退官後に著した『白い粉の誘惑』(宝島社・2014年)に、ポールの話がでてくる。「ポールを乗せた車が中目黒の麻薬取締官事務所に着いた時には、ファンが事務所の庭に集まり、イエスタデイなどビートルズのヒット曲を合唱していた」。小林にすればいい迷惑だろうが、なんだか劇的な場面におもえる。

 歌うのはファンばかりではなかった。獄のなかでポールは「イエスタデイ」を歌った。筆者の記憶が確かならば、その昔、ポールが「笑っていいとも!」かなにかに出演した際にいきなり「与作」を歌いだす。どこでそれを覚えたのかと聞かれ、「大麻で捕まったとき、寂しくないようにと他の収監者が歌ってくれた」といい、返礼に「イエスタデイ」を歌ったと話した。

塀の中で心を通わせた男が「イエスタデイ、プリーズ!」

 その場に居合わせたヤクザが後年、そのときのことを著す。瀧島祐介『獄中で聴いたイエスタデイ』(鉄人社・2015年)だ。瀧島は拳銃の密輸にからんで商売仲間を殺害し、警視庁の留置所にいて、そこにポールが移送されて来る。異国の監獄で淋しさからタバコを吸う気もないのに喫煙所に来るなどしていたポールに、瀧島は話しかけたり、イチゴを分け与えるなどして心を通い合わせていく。

 そしてポールが出所する前夜、彼のいる「二房」にむかって「五房」にいた瀧島は「ポール! イエスタデイ、プリーズ!」と叫ぶ。すると……

 " その時、奇跡が起きた。ポールは私の声が聞こえたのだろう。「OK!」と叫んだ直後、冷たい板を手と足で叩き、リズムをとり始めたのだ。トントコ、トントコ、トントコ、トントコ―――。それから『イエスタデイ』を歌ってくれたのである。"

 留置係も見逃してくれて、ポールは4曲ほど歌ったという。これまた劇的な場面だ。いっぽうで、小林はといえば、ポールを移送する際にも付き添ったためにその姿が新聞などに出てしまう。そうして顔が広まったことで潜入捜査ができなくなり、「ホッとする反面、一抹の寂しさも禁じえなかった」と著書に綴っている。

 意外な場所で生歌が披露されはしたが、ポールのバンドの日本ツアーは中止となる。沢尻の場合はどうか。沢尻が出演するはずだった来年の大河ドラマが窮地だという。なにしろ6月から撮影してきた分をキャスティングからやり直して再撮影しなければならず、それも放送開始まで日がないため、一時は放送開始の延期も囁かれたが、代役の川口春奈でこれから撮り直すことになる。これこそ「プロジェクトX」でみたい舞台裏である。

(注1)週刊文春2016.12.22「マトリ“伝説の捜査官”逮捕 宿敵・組対五課が動いた事情」
(注2)週刊文春1981.7.16「イーデス・ハンソン対談」374回

(urbansea)

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