実質中国の植民地!? カンボジア・シアヌークビルの中国式ネットサービスがスゴイ

文春オンライン / 2019年12月3日 6時0分

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シアヌークビル。年中暑い。そして公共交通機関がない

中国人の「ギャンブル」「詐欺」産業が集中するカンボジアのシアヌークビルに潜入した から続く

 多くの中国人が生活するカンボジア。中でもビーチリゾートで知られた地方都市「シアヌークビル」は、中国人による同胞への暴力や詐欺で日々逮捕者が報じられていることから、ゴッサムシティのような犯罪多発危険都市だと思われてしまうのも無理はない。

 カジノやギャンブル産業が盛んであり、中国本国のような規制のない新天地を求め、一山当てたい中国人が集まり、続いて食堂やホテルや商店など中国人向けのサービスをオープンする人がやってきた。後者に関してはダメ人間という感じではなく、良識ある普通の中国人であり、イメージしたような世紀末都市とは異なっていた。

 ただ、新しい人口が一気に流入したことでシアヌークビルはこの2年で大きく変わっていて、中国にありがちなビルが続々と建設されている。当局はカジノやギャンブル産業を排除しようとしているが、ギリギリまで儲けようとしているのか、まだまだカジノは稼働している。

ネット先進国中国と同様のサービス

 カンボジアのシアヌークビルをざっと紹介するとこんな感じだ。すでにいくつかのメディアが報じている。が、実は見えない部分で、ネットサービスが超絶進化していたことについて紹介したい。

 シアヌークビルは右を見ても左を見ても中国式ビルの工事現場だらけであり、その周囲はトタンやコンクリートの壁で囲まれている。その壁にはびっしりと中国語の貼り紙が無造作に貼られている。一部の貼り紙には、QRコードが大きく印字されている。最近貼られたであろう、新しいものだ。

 ここでそれらのQRコードをスキャンしてみる。私は中国以外で利用するための日本で購入したソニーのスマートフォンと、Googleのアプリが入ってない代わりに中国のアプリをしこたま入れた、中国メーカーによる中国人のためのスマートフォンを分けて使っている(気休め程度の安全対策だ)。

 まずソニーのXperiaに入れたLINEでQRコードをスキャンしてみると、中国版LINEというべき国民的アプリ「WeChat(微信)」のインストール画面が出てくる。ではWeChatの入った中国のスマートフォンで微信からQRコードを検索するとどうなるか。……ネット先進国中国と同様のサービスが提供されていた。これにはたまげた。

シアヌークビル用にアレンジした現地限定のアプリ

 ある貼り紙は、食事の配送サービスに関する内容だった。WeChatからスキャンすると、シアヌークビルの中国系食堂から食事をデリバリーしてくれるサービスが立ち上がった。LINEの「公式アカウント」のようなWeChatの「公衆号」機能とか、PayPayやLINEにもある、「ミニアプリ」とか「ミニプログラム」という名前のようなものだが、とにかくめちゃめちゃわかりやすい食事のデリバリー画面が出てきたと思ってほしい。

 これは中国で有名なデリバリーアプリではなく、中国で人気のアプリのひな形からシアヌークビル用にアレンジした現地限定のアプリだ。なにせカンボジアドリームを目指して、中国各地から多数の料理人がシアヌークビルや首都プノンペンにやってきて店を開いている。そして、東西南北各地のバラエティに富んだ中国料理屋の中から、好きなメニューを選んで注文できるのだ。

 そこで私は、試しに距離的にそう遠くない広東料理屋から「腸粉」という伝統料理を宿で注文してみた。しばらくすると店員と思しき人から電話があり、「地図と同じ場所のXX酒店(ホテル)で間違いはないか」と中国語で聞いてきた。大丈夫だと伝えると、10分しないうちに中国人のおっさんがバイクに乗って食事を運んでやってきた。私は代金と配送料を米ドルで払うと(メニューは米ドルなのだ)、「またよろしくー」と言っておっさんはバイクで走り去った。

2年で作り上げられた中国ネット環境

 シアヌークビルにはチャーハン一皿を5ドルで提供するようなぼったくり食堂もあり(本来の相場ならば2~3ドル程度)、食べて後悔したことがあるが、これなら欲しいものを安く食べることができる。なにより公共交通機関がなく、唯一の移動手段は言葉が通じない三輪タクシー「トゥクトゥク」だけ。食事にいくだけでもストレスが溜まるならば、気になる食事を運んできてくれたほうがいい。注文数を見ると広く使われているようだが、それも頷ける。しかも、シアヌークビル限定の食事のデリバリーアプリがいくつもあることから、サービス間でも競合して磨きがかかっているのだ。

 池袋や西川口よりもずっとリアルな中国ネット宅配環境が、たかだか2年で作り上げられている。シアヌークビルを「悪くてダメな中国人が集まる犯罪多発都市」と紹介するのは正しいが、その一面以外の紹介も、とてつもなく重要に思えてきた。

スマホひとつで生きていける環境

 気になった私は、「これは面白くないわけがない」と思い、宿から歩ける範囲で道という道を歩き、街中に貼られている貼り紙を見てはスマホを取り出してQRコードをスキャンするというチェック作業を始めた。

 WeChat上のフードデリバリーのほか、爆速で宅配してくれるネットスーパーや、シアヌークビル限定の中文ニュースや掲示板サービスもあり、地元中国人住民の情報交換やニュースの場ができあがっていた。もはや一歩も外に出なくてもスマホひとつでまったり生きていける環境がカンボジアの一地方都市で完成していた。

 さて、シアヌークビルには中国人向けの大小様々なカジノがある。カジノというと敷居が高そうだが、要は大人向けのゲームセンターである。賭け事をする必要はない。特にやることがない人がカジノに入ってまったりしていて、エアコンが効いた建物の中にはプレイルームのほか、食堂があり、またスマホを充電できるテーブルも揃っている。暑い時には、とにかくカジノに入ってしまえば困らないわけだ。至るところで見られる個人経営のネットカフェも兼ねた小さいカジノでも同じである。だんだん街歩きに慣れるにつれ、コンビニのないシアヌークビルで、私も中国系商店だけでなくカジノに避難するようになった。

人の動きを考えてネットサービスが提供されている

 ふと入ったカジノで「ええっ!」と驚かされた。よくみるとスマートフォンアプリを活用したモバイルバッテリーのレンタルサービス「シェアバッテリー」の機械が設置されてあったのだ。これまた中国本土のブランドではなく現地限定のもので、アプリをインストールすることなく機器のQRコードを読み込むと、WeChatの画面から気楽に起動できる。著名なシェアバッテリー同様、多くのカジノに展開されていて、別のカジノで返すこともできる。

 日本や中国では、ショップやレストランなどにシェアバッテリーを置くことで、その店に入ってくれてお金を落としてくれる。カンボジアではギャンブルでじっくり遊べるよう設置されていたのだ。これでギャンブルに興じながらスマートフォンをずっといじっていてもバッテリー切れすることはない。シェアバッテリーが普及する中国ではモール内にあるが、カンボジアではカジノにある。実に人の動きを考えてネットサービスが提供されているのだ。

現地人を活用するサービスは苦手

 ともなれば、なんでも本国で培ったネット技術をカンボジアやその他の国々に適応できそうだが、そうでもない。

 市内の唯一の乗り物であるトゥクトゥクは、中国人在住者が「カンボジア人ドライバーが相場の何倍もの金額を提示してくる」というほど悩ましい存在だ。この問題の解決方法としてUberのような配車サービスを謳うカンボジア産の「PassApp」というアプリも出ているが、このアプリは実際のところ乗車地点から降車地点までの相場を知ることと、バイクを呼ぶこと、相場を見せて不利にならない価格交渉をすること、この3点しか活用できない。Uberや東南アジアに強い「Grab」、中国の「Didi」に比べると、あまりにサービス内容が貧弱だ。

 海外の中国人は、フードデリバリーで同胞の中国人を活用したり、シェアバッテリーなどのように製品を活用したりするのはできるのだが、配車サービスなどの現地人を活用するサービスは苦手らしい。

 中国人が多く移住するカンボジアのシアヌークビル。移住した結果、街ばかりかネットサービスまでもが中国そっくりになった。一方で、現地に溶け込まない、溶け込めないために、現地人を活用したサービスができないといった壁も見えた。筆者が中国のネットを使えるから見えてきたことだ。アプリを起動することは非中国在住者にとってハードルが高い。なにせ中国人はGoogleなどを締め出して独自のインターネット文化を進化させているので、アプリストアを探してもまるで見つからないのである。

中国人は中国人同士で、生活水準を改善していく

 となるとアジアであれアフリカであれ、中国人が多数移住した街で中国未経験の日本人ジャーナリストが取材しても、街の様子という一側面でしか見ることができない。ジャーナリストだけではない。他国のビジネスマンがカンボジアで孤軍奮闘する中、中国人は中国人同士でネットサービスを活用し、生活水準を改善していっている。中国語が使えることで生活やビジネスが改善されることだろう。

 今後、一帯一路の掛け声で中国の影響力はより強大化するだろう。現地での調査やビジネスに必要な能力は、中国語だけでは足りず、中国のライフスタイル・ネット活用も熟知する必要がある。シアヌークビルに行ってそう感じた。

写真=山谷剛史

(山谷 剛史)

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