【日中アニメ産業最前線】“製作委員会システム”では中国に勝てない! 『ケムリクサ』プロデューサーが鳴らす警鐘

文春オンライン / 2019年12月2日 11時0分

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福原慶匡氏

【日中アニメ産業最前線】『けものフレンズ』プロデューサーが語る「中国の若者が日本アニメから離れ始めた」 から続く

 2017年、『けものフレンズ』を大ヒットさせ、一躍その名を知られるようになったプロデューサー、福原慶匡。現在も株式会社ヤオヨロズの取締役を務める傍ら、アニメ・音楽プロデューサー、芸能事務所の運営など多彩な活躍を続けている。また、コンテンツ研究のために慶應大大学院の博士課程に在籍し、研究者としての一面も持つ。

 そんな福原プロデューサーがかねてより様々な場所で発言して来たのが「中国のアニメ産業の興隆・日本のアニメ産業のピンチ」についてである。制作本数も大きく伸び市場規模を急速に拡大させる中国のアニメ産業、そしてその一方で様々な構造的問題を抱える日本のアニメ産業について、福原氏は警鐘を鳴らし続けてきた。

 そんな福原氏から見て、日中のアニメ産業の最前線では今何が起こっているのか。現在発売中の『 週刊文春エンタ! アニメの力。 』と連動して、日本アニメ業界が抱える問題について語ってもらった。(全2回の2回目/ #1 から続く)

◆◆◆

日本アニメは配信サイトという「出口」を抑えられた

――福原さんは日本アニメは今までのブランド力にあぐらをかいてたけど、そのブランド力も今はどんどん消えていると度々発言しています。その辺りに関しては、この数年で実感することはありましたか。

福原 動画配信っていうところでは、すごく痛感してます。ワーナーがクランチロールっていうサービスを抱えてるんですけど、今って日本のアニメは世界的にはクランチロールで見ている人が一番多いんですよ。で、他にファニメーションっていう北米を中心にしたアニメ系の配給会社があって、そこはソニーが持ってるんです。また非メジャー傘下の配給会社でセンタイ・フィルムワークスっていう会社がありまして、このセンタイはクールジャパン機構が親会社になりましたので唯一の日系です。

――複数のアニメ配給会社や配信サービスがあるけど、基本的にどれも日本産のサービスじゃないんですね。

福原 日本のコンテンツをワールドワイドに配信するディストリビューションは全て欧米資本が握ってるんです。ビリビリ動画は中国の会社で、なおかつニューヨークで上場してますし。世界的な流通手段を日本は持ってないんですよ。これはやばくないかということで、立ち位置がニュートラルだったセンタイまでどこかの持ち物になったら手の出しようがなくなるぞと、クールジャパン機構が買ったんですね。

――クールジャパン機構としても、一応対策は打ったわけですね。

福原 ただセンタイって動画プラットフォームではないんです。だからセンタイはアメリカのアマゾンやhuluなどの動画プラットフォームに配信権購入の話をしに行かないといけないんですね。普通のフローだと、製作委員会がアマゾンジャパンにプロモーションして作品を買ってもらうものなんですけど、そこでうまくいかなかったとしてもセンタイにいって、センタイがアマゾンUSに売り込んで、それがうまくいけばアマゾンUSはアマゾンジャパンの上にいるからそれで話が確定する。ただそれにしても限界があるんですよね。

「製作委員会システム」は時代に合わなくなっている

――意外に早く、福原さんが以前から危機感を持っていたような状況が来てしまったわけですね。

福原 しかもここにきて、意思決定に時間がかかる製作委員会システムが、せっかちな中国とビジネスするにあたってついていけなくなりつつある感じがありますね。アニメの作り方って3パートにわかれてて、原作開発っていう部分と、制作のプロダクション、あとは最終的に作品を売るビジネスっていう3つなんです。原作開発はコミックを掲載してる出版社がやってることが多い。で、制作はスタジオで、ビジネスは製作委員会がやってます。この3パートを合わせると、業界全体のお金が2兆円あるんですよ。

――2兆円……。

福原 でも、制作だけだと2000億円くらいで、残りの1兆8000億円はだいたい製作委員会とか出版社が持ってるんですよ。製作委員会システムを作った時というのはビジネスを担当するパッケージメーカー主導だったんです。だからパッケージメーカーに有利な仕組みになってて、それでうまくいった時代が20年近くある。今業界にいる人は入社した時からそのシステムで回ってるんですね。特に意見が強い会社はこのシステムの中で勝ってた会社なんで、なかなか自分が不利になるような契約に賛同しないじゃないですか。

――制作サイドが買い叩かれる形になってるんですね。

福原 でも90年代から2010年代初頭くらいまでは、製作委員会システムはスタジオにとってはリスクを伴わずに作品を作れる仕組みっていうことで、すごくよかったんですよ。ただ、スタジオに支払われる金額自体が見合わなくなると、それは成立しませんよね。出資してる企業からすると「今まで通り払ってるじゃん」って話なんだけど、そうは言っても相場が変わってるわけで。でも金払う側がイニシアチブを持ってるから、金をもらうまでは頭を下げるしかないんですよね。結構本当に、打開策がないんです。ちっちゃく勝つことはできるかもしれないけど、業界全体が勝つ方法ってないんじゃないかな。

――そのような状況で、日本のアニメ業界はどうなっていくと思いますか?

福原 まずエンタメ自体がなくなることは絶対ないし、アニメがなくなることはないと思います。ただ、今の日本って中小のアニメスタジオが大量にあるんで、それがどんどん統合されていくと思います。

――統合ですか。

福原 例えばこの前、サンライズ(制作会社)に引き続きガンダムの権利を持っている創通(原作者)もバンダイナムコ(ビジネス)の傘下になりました。それによってガンダムというコンテンツをバンダイナムコだけで作れるようになったわけです。これってワンオーナーシステムっていう、ハリウッドメジャーと同じやり方です。だから時間はかかったけど、日本も世界標準の仕組みに近づきつつあるとは思います。

日本アニメは「ビジネスできてないからこそ広がった」

――福原さんの現在の仕事も、そういった仕組みに近づけているんでしょうか?

福原 現状僕がやっているコンテンツも、うちで原作を作ってます。ただ原作の知名度がないということはセールスの担保がないということなんで、普通はお金が集まらないんですよ。幸いうちは今までにヒットが出たりとか、組んでくれてるクリエイターさんの知名度でなんとかなってますけど。そう言った意味での期待値ということでも、僕はなるべく権利をまとめて、ビジネスも一箇所でやるようにしてます。今の仕組みって、どうしてもビジネスの人がクリエイティブをないがしろにできちゃうんで。

――どっちにしろビジネスの人が一番強いですよね。

福原 そうですね。ただ、今までの日本って、いいものは作るけどビジネスがヘタだったんですよ。これだけ日本のアニメが世界中で見られたのって、昔の日本人の著作権管理がヘタだったからなんです。でもそれによって、世界中の子供がそれを見て育った。ビジネスできてないからこそ広がったものではあるんです。

――間違えて安く売っちゃったからこそ広まったわけですね。

福原 そのころ子供だった人たちが今40歳くらいになって、企業で決定権を持って今の日本を推してくれてるんです。でもおそらく、この先はアニメイコール日本っていう子供はだいぶ少なくなると思います。

――『ドラゴンボール』を見てるのだって、いい歳の人ばかりですもんね。

福原 日本人の女子高生だって、『ドラゴンボール』は見てないと思いますよ。日本のクリエイターは引き続き優秀なんです。そういうアニメーターの仕事は本当に素晴らしい。だからその周囲にいるプロデューサーが、どうやって金を還元するかを必死で考えないと、足元から崩れますよね。今までずっとクリエイターの努力にあぐらをかいてたビジネスが、もっと優秀な外国人がきた時に弱点を露呈したっていうことなんで。

2020年代の日本アニメに勝ち目はあるのか?

――製作委員会型に代わる、こういうシステムだったら勝てるという方法はなさそうでしょうか。

福原 先ほど言ったようにアニメは2兆円という産業なんですけど、その金額を1社で全部ハンドリングしてる会社があったら世界を相手に戦えると思うんですよ。大政奉還して、でかい1社で戦えればいいんですけど、やっぱりそうはならないですよね。ステークホルダーが多すぎるし、よほどの傾奇者じゃない限りそんなことやらないですよね。

――この先、2020年代の日本アニメには勝ち目はあると思いますか?

福原 今まで配信の話をしてきましたけど、日本人ってなんだかんだでテレビ見ちゃうじゃないですか。テレビに電波代3000万~4000万円とか払うんで、テレビを使わなくなるだけでコストが4000万円なくなるんですよ。そう思うと、1円も払わずにネットで配信できるならそっちの方がいい。でも、アマゾンプライムにすら入ってないという人って案外たくさんいるんですよ。一気にデジタルシフトできればまだ勝ち目はあると思うんですけどね……。でも成熟した国ほどいろいろな価値観を認めるべきなんで、そこは難しいんでしょうけど。

――ライフスタイルがバラバラになるほど、ディストリビューションのコストが上がるんですね。

福原 そうです。みんなが一箇所だけ見てるんなら、そこにだけ流せばいいわけだから。ネットはテレビと違って無限に表示できるし。IT企業がもうすこし頑張ってくれればと思うんだけど……。別に僕は中国大好きとかじゃないけど、あの国の良さを日本が取り入れたらいいのになと思います。やっぱり、失敗した人を叩いてたらヒーローは生まれないですよ。ウルトラマンはビルとかをものすごく破壊するけど、その問題点を指摘してウルトラマンが出動できず怪獣が野放しならその方が問題じゃないですか。そういうところを乗り越えないと厳しいだろうと思います。

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 福原慶匡プロデューサーが“中国産アニメ”や『ULTRAMAN』についても語ったオリジナル記事「もはや中国は日本と組むメリットはない」は『 週刊文春エンタ! アニメの力。 』に掲載されています。

福原慶匡(ふくはら・よしただ)

1980年生まれ。アニメ・音楽プロデューサー。実業家。川嶋あいのマネージャーからキャリアをスタートさせ、アニメ制作に携わり、2013年より株式会社ヤオヨロズの取締役。ヒット作『けものフレンズ』のプロデューサーとしても知られ、現在も多数の企業の取締役を務める。コンテンツ研究者として慶應大大学院博士課程にも在籍。

(しげる/文春ムック 週刊文春エンタ!)

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