混乱の文在寅政権 アメリカは「在韓米軍撤退」のカードを切るのか?

文春オンライン / 2019年12月3日 11時0分

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文在寅大統領 ©AFLO

 最近、メディアで「文在寅政権は米国に切り捨てられる!」、「韓国が在韓米軍の駐留経費負担の増額に応じない場合、米国は駐留規模の大幅縮小を検討」、「GSOMIAを延長するよう働きかける際、アメリカは(カードとして)『在韓米軍撤退』を主張した」などの論説がみられる。

 これを見た人々は「米国が韓国を切り捨て、在韓米軍を撤退するかもしれない」と思われるかもしれないが、私はそれは間違いだと思う。筆者は、米国が中国と覇権争い(目下経済戦争などを展開中)を行っている限りは、絶対に韓国は手放さず(米韓同盟を解消せず)、在韓米軍の撤退などありえないと確信する。

 そして、米中覇権争いの中で不安定化している朝鮮半島を安定化させる方策としては「クロス承認」が望ましいと確信する。以下その理由について述べる。

GSOMIA問題は「米国と中国の問題」である

 日韓間でGSOMIA問題が争点となっている。だが、この問題の本当の当事国(利害関係国)は米国である。さらに言えば、もう一つの“影の”当事国は中国である。

 地政学的に見て、朝鮮半島は「大陸国家・中国と海洋国家・米国の攻防の地」だ。現在経済戦争を展開している米中にとって、朝鮮半島は熾烈な覇権争いを演じる舞台(一正面)なのである。

 米国にとって、朝鮮半島は太平洋に進出しようとする中国を封じ込めるための(封じ込め政策の)重要な“砦”だ。そして朝鮮半島の南半部を占める韓国は、その軍事拠点として極めて重要である。米国が中国を封じ込める上で、韓国は「東翼」――中国封じ込めの東の端――に当たる。

 軍事において「翼」は極めて重要である。「翼」を撃破(突破)されることは、防御陣(封じ込めの陣)の崩壊につながる。従って、防御陣地を構成する際は、「翼」は険峻な山や谷などの地形に依託するのが定石である。

「対中封じ込め」の陣立てにおいて、「東翼」は日本も含めた「二段構え」になってはいるが、米国にとって韓国を失うのはやはり痛手だ。

中国にとって「在韓米軍」は極めて大きな脅威

 一方の中国にとっても、朝鮮半島は「一帯一路」戦略に基づき太平洋に進出する足掛かりとして不可欠の要地である。さほど重要な朝鮮半島の南半分(韓国)に在韓米軍が展開していることは、中国にとって極めて大きな脅威になっている。そう見ると、韓国を自陣営に取り込み、在韓米軍を撤退させることが、中国にとっていかに喫緊の課題であるかが分かるだろう。

 このような理由から、米国が韓国を切り捨て、在韓米軍を撤退させることは、中国と覇権争いをしている限りはあり得ない話なのである。

米国と北朝鮮が密通している可能性は?

 11月23日、金正恩党委員長が西部前線の昌麟島(チャンリンド)防御隊を視察し、昨年9月に韓国と合意した砲射撃禁止を無視して、沿岸砲中隊に射撃を命じたという。このタイミングは、まさに韓国がGSOMIA破棄を「効力停止」とした翌日である。見方によっては、この砲撃は米国が韓国のGSOMIA破棄を押し留めたことに対する“祝砲”にも思える。

 なぜ、北朝鮮は韓国が中国陣営に“逃亡”してくるのを嫌うと考えられるのか。それは、朝鮮民族の二つの国家が中国に首根っこを押さえられ、「忠誠競争」をさせられるかもしれないからだ。韓国が中国の陣門に下れば、もっともハッピーな展開としては「北朝鮮主導の南北統一」になるであろうが、それは中国が許さないだろう。ただでさえ統治が厄介な朝鮮民族に対しては、一体的な国家にするのではなく、ディヴァイド・アンド・ルール(分割統治)の手法で南北に骨肉の争いをさせ忠誠競争をやらせるのがオチであろう。金正恩氏はそのことを承知しているのではないか。

 祖父・金日成の時代には、北朝鮮は主体思想のもとに中国とソ連の間でバランスを図りながら、自主独立を勝ち得てきた。今日、ロシアを対中カードとしては使えない現状において、金正恩氏は米国にその役割を見出そうとしているのではないか。つまり、米朝関係を育むことこそ、中国の支配強化を回避する術なのだ。韓国と中国の関係改善とバランスを取りながら、自らは米国との関係を改善するのが金正恩氏の外交戦略ではないだろうか。

 金正恩氏は、米国が喜ぶ方策を知っている。核ミサイル開発は、一面において米国が日韓を支配下に置き、武器売却を後押しすることに貢献する。北朝鮮にすり寄って来る韓国に肘鉄を食わせることも米国の喜ぶところだ。これら北朝鮮の振る舞いは「阿吽の呼吸」というよりも、機密の「米中交渉のテーブル」で密談の上、確立している可能性すらある。

 米国は、北朝鮮制裁を声高に叫びながら、水面下では何らかの救済支援をしているのかもしれない。これまでの世界史を見ればわかるように、国際社会の現実は「小説よりも奇」なのである。

朝鮮半島を安定化させる「クロス承認」

 世界規模で経済戦争を繰り広げる米中の覇権争いは、朝鮮半島を巡り、より熾烈になるだろう。朝鮮半島が一旦バランスを失えば、第二次朝鮮戦争という流血の惨事が起こる可能性もある。今後のありうべき朝鮮半島のバランス回復政策は、韓国と中国との関係改善に歩調を合わせ、米朝関係を改善することであろう。中韓間では1992年8月に国交正常化が図られている。それゆえ米朝間で国交正常化を行えば、いわゆる「クロス承認」が実現することになる。

 米中覇権争いの中で朝鮮半島を安定化させる方策としては、「クロス承認」が望ましいと筆者は確信する。そうすれば、日韓間の現在の軋轢も緩和され、文在寅の「中朝陣営への逃亡」も防止できるのではないだろうか。

 平昌オリンピックを機に米朝の接触が本格化しつつある。米朝両国は当面の目標として「クロス承認」を目指している可能性がある。「クロス承認」を論議する際は、当然中国も介入するだろう。その際の最大の争点は「北朝鮮の非核化」と「在韓米軍の取り扱い」であろう。

「クロス承認」は半島の分断固定化につながるという批判もあるが、日本にとっては二層(南北朝鮮)のバッファーゾーンが保証されることになる。そうなれば、永年の懸案となっている拉致問題解決にも道筋がつくことになろう。

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「文藝春秋」12月号では「 『反日種族主義』を追放せよ 」と題して、日韓問題の本質に迫る特集を掲載しています。全文は「文藝春秋digital」でもお読みいただけます。

(福山 隆/文藝春秋 2019年12月号)

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