あのM-1初代準優勝者が語る「歴代M-1王者でサンドウィッチマンが一番支持される理由」

文春オンライン / 2019年12月21日 18時30分

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昨年は霜降り明星が優勝を果たした ©時事通信社

14組のM-1歴代王者「1番スゴかったのは?」 3位笑い飯、2位中川家、では1位は?<500人アンケート> から続く

 12月22日、漫才日本一を決める大会「M-1グランプリ」が今年も決勝を迎える。

『文春オンライン』では、M-1グランプリ2019決勝に先駆けて『<緊急アンケート>過去14回で「一番印象深いM-1チャンピオンは誰?」』を実施。初代チャンピオンの中川家から、昨年優勝し一躍ブレイクした霜降り明星まで、老若男女から投票が集まった。 (#1ですべてのアンケート結果を公開中)

 第1回大会のM-1グランプリ2001で準優勝し、現在はタレントのみならずお笑い講師として活動するユウキロックさんにこの結果について感想を聞いた。

 ユウキロックさんは、ハリガネロックとして準優勝した第1回大会含め、2度ファイナリストとしてM-1の舞台に立った。最近ではM-1グランプリ予選の司会を担当しており、今年度も決勝当日には「ラジオでウラ実況!? M-1グランプリ2019」に出演する。

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 アンケートでサンドウィッチマンがぶっちぎりの1位。予想通りの結果ですね。大会初の敗者復活からの優勝ですから、視聴者の皆さんの記憶にも鮮明に残っていたんだと想像します。

 芸人目線で言うと、僕もファイナリストだったからわかるんですが、決勝進出が決まって当日までの2、3週間。あの期間が一番チヤホヤされるんですよ。「俺は今、漫才師のど真ん中を歩いている」。主人公感が半端ないんです。それがサンドウィッチマンには一切ないんです。1日です。たった1日で人生の全てが変わった。こんな芸人はサンドウィッチマンしかいないんです。

芸人すら感動した、サンドウィッチマンの優勝

 今年のM-1グランプリの敗者復活戦は皆さんご存知の通り、前年準優勝の和牛ら16組が決勝への1枠を巡って競います。しかし、サンドウィッチマンが出場した第7回大会(2007年)は57組も出場していた。その中から決勝参加の1枠を獲得するのは確率から見ても難しい。それに、サンドウィッチマンは3年連続で敗者復活戦に出場している。決勝未経験者で敗者復活戦の回数が増えれば増えるほど、その環境に慣れきっちゃうんですよ。真剣にネタはしていますよ。けど、慣れきって悔しさが薄くなるんです。

 当時2人は同居していたと聞きます。一緒に家を出て、会場の大井競馬場について、「寒いなー」と言いながらタバコを吸う。あの現場の空気を知っているので、俺にはそんな絵が浮かびます(サンドウィッチマン、そうじゃなかったらごめんね……)。だって「敗者復活戦から優勝」という前例がまだないときですから。優勝できるなんて誰も思ってないですよ。

 それが、そのたった1枠を獲得して、大井競馬場から急いでテレビ朝日本社の決勝会場に向かってネタを披露して見事に優勝。あっという間に時の人になった。1日どころか、数時間で「人生が変わった瞬間」を視聴者全員が目撃したわけです。

 M-1グランプリで優勝すると芸人としてブレイクするという認識が広くあると思います。とは言え、その他の歴代チャンピオンを見ると、大会前から少しずつ知名度を獲得していた芸人が優勝を機に本格的に活躍の場を広げていくパターンでした。

 僕はサンドウィッチマンのことを当時から知っていましたけど、世間にはまだそれほど認知されていない状況でした。審査員ですら知らない人もいたんじゃないでしょうか。その時のファイナリストには、キングコングやトータルテンボス、笑い飯といった知名度のある優勝候補がたくさんいたのに、すべてを下してサンドウィッチマンが優勝するシナリオは感動的でしたよ。

真似しやすい「漫才コント」でサンドがすごいのはなぜか

 このランキングもそうですが、好きな芸人ランキングとか芸人の好感度でも最近はいつもサンドウィッチマンが1位ですよね。それはやっぱり見た目と人柄のギャップが大きいからだと僕は思っています。2人とも一見するとちょっと怖いイメージあると思うんですけど、性格はすごく穏やかで優しい。このギャップが多くの人に愛される理由の1つだと思います。

 あと、芸人目線で言うと、彼らの漫才は一般の人にもすごく分かりやすい作りで、ジャンルで言うと漫才の途中からコントに入る「漫才コント」が主流です。例えば2人がピザ屋の配達人とお客さんなど、役を演じながらネタが進んでいく漫才です。見ている人もストーリーを理解しやすく、世界観に入りやすいのでストレスを感じずにすぐに「面白い!」と思えるネタです。

 最近は僕も漫才を教える側になって、学生さんや若手のネタを見ることが増えたんですが、サンドウィッチマンが優勝して以降「漫才コント」をやる人が多い多い。見ていて分かりやすいので、真似しやすいんですよね。だけどサンドウィッチマンと同じように笑いをとるための個性を出すことはすごく難しい。やっぱり2人は一芸人として個性が突出していて、能力が高い。

「前年優勝がチュートリアルだった」の思わぬ影響力

 あと、僕がこのランキングを見て一番思ったのは「チュートリアルがもっと上の順位でも良かったんじゃないかな」ということ。歴代チャンピオンのなかで初めて、審査員の満場一致によって優勝したんですよ!? ここからは僕の勝手な見解ですが、サンドウィッチマンの優勝はチュートリアルの優勝がなければあり得なかったと思っています。

 M-1グランプリを立ち上げた、島田紳助さんがM-1に求めた漫才は「革新的な漫才」でした。西川きよし・横山やすしを代表とする「オーソドックスな漫才」ではなく、ざっくりと簡単に言えば、内容も間もスピードもどこか奇をてらったような分かりづらさもある漫才だったんです。だけども、中川家やますだおかだ、フットボールアワー、アンタッチャブルといった分かりやすい漫才の優勝が続いていました。

 その中で現れたのが第6回大会(2006年)のチュートリアル。自転車のチリンチリンを巡って、徳井義実くんが変質者ぎりぎりの危ないボケを繰り出すネタは鮮烈でした。審査員の満場一致を見て、M-1グランプリにとって悲願でもあった理想的なチャンピオンがチュートリアルだったんだと確信しましたね。

 そして翌年のM-1グランプリ。「チュートリアル以上の革新的なネタ」が求められるのかな、と決勝に注目していました。でも蓋を開けたらチュートリアル以上の革新さは誰も持っていなかった。審査員も同じことを思ったんじゃないでしょうか。革新的漫才を得意とする笑い飯も5回目のファイナリストで期待されていたはずですが、思うような力を発揮できていませんでした。

 そんな状況で、最後の敗者復活枠に相当な期待がかけられていた。そこに出てきたのが見たこともないガラの悪い2人。革新的なネタではなかったけれど、見た目が個性的な2人が披露したオーソドックスな漫才コントは完璧で個性も突出している。そこに審査員は賭けて、背中を押したんだと思います。

 サンドウィッチマンの優勝は、チュートリアルの革新的な漫才からオーソドックスな漫才への揺り戻しだったんじゃないでしょうか。けど、今のサンドウィッチマンの活躍を見たら、審査員は全く間違っていなかったなと震えますね(決してネット動画で悪口なんか言えませんよ!)。

「これまでの漫才人生は何だったのか」と絶望したブラマヨの漫才

 僕は芸人として、M-1グランプリに4回出場。第1回大会(2001年)では準優勝しました。

 第2回大会(2002年)では良くして頂いていた島田紳助さんに「お前ら、こんなネタしか作らんかったんか!」と怒鳴られたこともありましたし、ラストイヤーとなった第5回大会(2005年)は予選で敗退して、優勝したブラックマヨネーズのネタに「俺のこれまでの漫才人生は何だったのか」と絶望するほどの衝撃を受けたこともありました。そんな色んな思い出がある中で、僕が1番印象に残っているのは、やはり第1回大会(2001年)の最終決戦で、中川家と1対1のガチンコ勝負したことですね。

 現行システムでは決勝での最終決戦は3組で争うシステムになっていますが、第1回大会だけ2組だったんです。結果的には1対6で負けはしましたけど、後にも先にも、同期の中川家の背中に触れたのはこの時だけでした。

M-1グランプリは「芸人のプライドを懸けた唯一無二の大会」

 今は予選の司会や決勝当日のラジオ実況でM-1グランプリに関わらせてもらっていますが、第1回大会からこうして見ているとM-1グランプリというのは「芸人のプライドを懸けた唯一無二の大会」だと痛感しています。だってこの大会、賞金1000万円なんですよ。かなり高額賞金の大会なんですよ。ただ、それに触れる人います? それが答えですよ。 

 今年も22日にまた新たなチャンピオンが生まれます。昨年は霜降り明星という若い世代からチャンピオンが生まれ、ジャルジャルやスーパーマラドーナと言った実力派もラストイヤーを迎えて大会から引退していきました。

 また今年はファイナリストの9組中7組が決勝初進出のメンバーで、新しい世代による「漫才日本一決定戦」が始まった気がしています。

 僕が注目しているのはからし蓮根です。サンドウィッチマンと同じ漫才コントですけど、新しい世代らしく、より繊細で計算されたネタを作ってきている印象です。どんな漫才が生まれて、どんなドラマが生まれるのか。楽しみです。

【前回】M-1歴代王者「1番スゴかったのは?」 3位笑い飯、2位中川家、では1位は?<500人アンケート>

(「文春オンライン」編集部)

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