日韓首脳会談でも進展なし 元徴用工問題、解決への2つのポイント

文春オンライン / 2019年12月29日 11時0分

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会談前、韓国の文在寅大統領(左)と握手する安倍晋三首相 ©時事通信社

 12月24日、中国・成都で日韓首脳会談が開催された。しかし、1年3ヶ月ぶりに首脳会談を行った安倍晋三首相と文在寅大統領だったが、この日は目立った成果を発表できないままに終わっている。 

「史上最悪とも言われる日韓関係の緊張のなかで行われた首脳会談でしたが、両国間の懸案を『今後の協議を通じて解決していく』と述べるに止まりました。徴用工問題をめぐっては双方の主張を繰り返すにとどまったようです」(外信部記者) 

 本格的な関係改善に向けた道筋は見えなかった日韓首脳会談。本音では日本との積極的な関係改善には及び腰だとも囁かれる文政権と、どう関係を改善すべきなのか。本稿では日韓関係の最大懸案となっている徴用工問題に論点を絞って検証していきたい。 

1つ目のポイントは「市民団体の排除」

 元徴用工問題をめぐっては、文喜相国会議長が12月、日韓両国の企業や個人からの自発的な寄付金を財源に慰謝料を支給することを柱にした、所謂“文喜相”法案を国会に提出している。韓国内でも賛否を呼んでいる“文喜相”法案の行方もかなり不透明だ。韓国大統領府は「文喜相案は解決策にならない」との考えをすでに示している。 

 来年になって再び脚光を浴びることが予想される徴用工問題。それに対応するためには、日本政府が心得ていなければならないポイントが2つ存在する。この2つを抜きにしてはどんな解決案を編みだしたとしても、“ゴールポストを動かす”ことが繰り返されるだろう。 

 まず1つ目のポイントは「市民団体の排除」である。 

 例えば元慰安婦を支援する市民団体である挺対協(現在は『日本軍性奴隷制問題解決の為の正義記憶連帯』と名前を変えた)は韓国内において絶大な発言力を持っている。挺対協は旧日本大使館前で行われている水曜集会を主催していることでも知られ、反日団体と評されることも多い。アジア女性基金、「和解・癒やし財団」など、これまで日韓政府で取組んできた慰安婦問題解決のための取組みについて、挺対協は常に批判を繰り返し、そして取組み自体を潰してきた。 

 そもそも挺対協が元慰安婦の味方なのかというと、それも疑わしいのだ。例えば現在、旧日本大使館前で行われている水曜集会。そこでは挺対協と被害者団体の衝突が繰り返されている。 

「慰安婦の人権を守れ!」 

 いま水曜日になると、挺対協と敵対するようにこうシュプレヒコールをあげる集団が目に付くようになっている。参加者に話を聞くと、「挺対協は、沈美子(シン・ミジャ)の存在を歴史から消そうとしている。だから抗議活動をしているのです」と語った。 

 08年に他界した沈美子氏は韓国・遺族会の対日補償請求裁判原告の1人で、元慰安婦としても数々の証言を行ってきた。頭脳明晰で弁が立ったといわれ、元慰安婦の中ではリーダー的な役割を果たした1人だった。彼女は水曜集会を「恥ずかしい行為」だとして、中止を求め挺対協などに対して裁判を起こしたこともあった。 

 前出・参加者が語る。 

「沈美子は韓国政府からも認定された元慰安婦でした。ところが挺対協は、彼女に批判されたことが気にくわないのか『沈美子は元慰安婦として疑わしい』と言い出し、慰安婦の名簿等から彼女の名前を消した。彼女の人生を否定するような、人権を踏みにじる行為を挺対協はしているのです」

 つまりは、市民団体は自らのイデオロギーのためなら、事実を歪曲することも厭わないということなのだ。こうした行動原理は、日韓融和の障害にしかならないのは明白だろう。 

 徴用工問題においては同じく市民団体である民族問題研究所や左派弁護士が徴用工裁判を仕切り、日韓関係を悪化させてきた。まさに挺対協と同じ役割を彼らは担っているのだ。 

 日韓首脳会談においても文大統領は「被害者が同意する方式であれば、さまざまな方法で(徴用工)問題解決は可能」との考えを伝えたとされる。韓国メディアも「被害者は日本による直接の賠償を要求している」等と報じているが、得てしてこう主張しているのは市民団体であって、実被害者ではないケースがほとんどだ。 

 市民団体を排除し実被害者の意見に真摯に耳を傾けることこそが、解決のための第一歩なのだ。 

2つ目のポイントは「日韓による実態調査」

 2つ目のポイントは、「日韓による実態調査」である。本当の意味での未来志向を目指すのであれば、まず戦時に何が起きていたのか日韓で事実を共有、もしくは検証する必要があるだろう。不幸な歴史を繰り返さないためにも「事実」を共有すべきなのだ。 

「例えば元慰安婦についても、日本政府は何人いてどんな経験をしたかについては一切把握していないのです。ほとんど韓国政府や市民団体の言いなりのなかで対応してきたに過ぎません。徴用工においては、もっと杜撰になっています」(元慰安婦支援者) 

 私自身も取材を通じて、被害者の経験は様々だと痛感することが多々ある。例えば元徴用工の話を聞いても、応募して働きに出た者もいれば、徴用令状を受けて止むなく日本に行った者もいる。労働環境も就労場所や地域によって様々だ。韓国内での通説となっている「強制連行・奴隷労働」という表現に、必ずしも全てが当てはまるわけではない。 

大法院判決で「命の値段」に疑問が

 また徴用工裁判において、大法院判決で約1億ウォンの慰謝料支払いを命じる判決が出たことで、被害者団体のなかからは、「命の値段」についての疑問の声も上がっている。 

「太平洋戦争での死者に対しては韓国政府から2000万ウォン(約200万円)の補償金が支払われました。戦争で家族を失って苦しんだ金額としては、十分ではないという声もあります。ところが日本で数年働いて生きて帰ってきた元徴用工に対しては1億ウォンが支払われる可能性がある。これは戦死者を超える金額です。このことについては『私たちの今までの苦労は何だったのだろうか』と疑問を感じています」(太平洋戦争の遺族) 

 戦争被害者をどう救済するのかは世界中で考えなければいけない大きなテーマだ。いま論じられている文喜相案は本質的には対症療法でしかなく、必ず将来に禍根を残すことになるだろう。被害者間に格差を生むことで怨嗟の声が沸き起こり、新しい歴史解釈を主張し裁判を起こす者も現れるだろう。

 極めて困難なことではあるが、こうした騒動を避けるためにも、まず実態調査を日韓で行い歴史を共有することは「必須」だともいえる。実態調査を行い記憶と記録を残すことは、現実の解決を志向するうえで必要なだけではなく、将来、同じような不幸が繰り返されることを回避するための知恵にもなりえるからだ。 

三権分立の名の下に合意を無効にする動きが続く

 聯合ニュースは23日、〈旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意について、韓国憲法裁判所が27日に合憲か違憲かの判断を下す〉と報じた。 

 幸い27日に憲法裁判所によって訴えは却下されたが、こうした”ゴールポストを動かす”ような行為が韓国内では続いている。 

 こうした状況を見つめ一つ言えることは対症療法的な対策だけでは、これからも日韓葛藤は続くことになるだろうということなのだ。 

(赤石 晋一郎)

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