「韓国ビールじゃ物足りない」と自虐する韓国人がそれでも日本のビールを買えない理由

文春オンライン / 2020年1月23日 17時0分

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 韓国メディアの世論調査で「日本が好き」「日本が嫌い」はどちらも2割、「どちらでもない」が6割。それなのになぜ反日は止まらず日韓関係はここまでこじれてしまったのか。『 韓国を支配する「空気」の研究 』より「日本製品不買運動の内実」を紹介します。

「日本製品不買運動」を韓国の人はどう考えているのか

 2019年8月半ば、私はうだるような暑さのソウルを訪ねた。8月15日に行われる、日本支配からの解放を祝う「光復節」が間近に迫っていた。ここ数十年で最悪と言われる日韓関係だが、韓国の市井の人々が何を考えているのか知りたかった。

 ソウル中心部の光化門付近を歩いた。日本でも大きく報道された、「日本製品不買運動」の様子を知るためだ。日本政府はこの年の7月、韓国向けの半導体素材3品目の輸出管理規制措置の強化を発表した。韓国与党や進歩(革新)系メディアが「安倍政権が韓国経済をメチャクチャにしようとしている」と主張し、不買運動に火がついた。

人気だった日本製ビールの輸入額が4割以上も急減

 韓国メディアによれば、日本製ビールの輸入額は6月の約800万ドル(約8億5000万円)から、7月は430万ドルに4割以上も急減したという(その後、11月に再訪した時には、日本製ビールはほとんど姿を消していた)。実際の雰囲気はどうなのだろうか。

 日本製ビールは韓国の人のなかでも人気が高い。韓国の代表的なビールは、ハイト、カス、OBだが、いずれも薄味でコクがない。韓国の知人に言わせると、「麦芽の比率に問題がある」という。日本では麦芽比率が50%以上であることなどがビールの条件だが、韓国ではこの条件を満たしていないケースが多いという。知人に言わせれば「大企業の独占だったから、なるべく安く仕上げたというわけさ」ということだそうだ。

「韓国ビールは爆弾酒製造用」と自虐する韓国の知人たち

 韓国の知人たちは「韓国ビールは爆弾酒製造用」などと自虐的に語る。韓国ビールに、韓国焼酎を混ぜて飲むと確かにコクが出て美味しい。私が習った爆弾酒「ソメ(ソジュ〈焼酎〉+メクチュ〈ビール〉=焼酎のビール割り)」の製造法は、まず焼酎用の小さなショットグラス2杯を重ねる。そして2杯のグラスが重なった部分まで焼酎を入れる。その焼酎をビールグラスに入れ、さらに韓国ビールを加える。こうすると濃すぎず、薄すぎずの絶妙なソメができあがる。大体2人で、焼酎の小瓶1~2本が空く程度にソメを飲んだ。私は、酒量が過ぎると翌日、頭が痛くなり、原稿書きに支障が出るのだが、なぜかソメの場合は悪酔いせず、大いに愛飲した。

 しかし、こういうおっさん臭い飲み方は、韓国の若い人はやらない。若い世代を中心に、「焼酎よりビールやワイン」という酒文化が広がり、それが「韓国ビールじゃ物足りない」という流れになって、日本製ビールの人気につながった。

 私が特派員をしていた2010年前後は、アサヒビールを見かけるぐらいだったが、その後、キリンやサントリー、サッポロなどに加え、日本のクラフトビールも時折、レストランなどで見かけるまでに普及した。

プレモル500ミリリットル缶が4本で1万ウォン(約880円)

 そして、比較的高価な日本製ビールは従来、サントリーのザ・プレミアム・モルツ500ミリリットル缶が4本1万ウォン(約880円)、サッポロのヱビス500ミリリットル缶が3本9900ウォンといった「サービス価格」で販売されてきた。

 これは韓国の独特な販売スタイルを利用したようだ。韓国ではコンビニや大手スーパーなどで、清涼飲料水やアイスクリーム、スナック菓子などを中心に「1プラス1」や「2プラス1」という売り方をしている。「1個あるいは2個買ったら、もう1個を無料サービス」という販売形態だ。韓国の知人は「韓国人はオマケが好きだから」と説明してくれるのだが、消費を刺激する効果は確かにありそうだ。

 では、一体今はどうなっているのだろうか。ビールを販売している付近のセブンイレブンをぐるりと回ってみた。

「このお店では日本製品は販売しません」というステッカー

 日本大使館そばにある曹渓寺裏のお店には、入り口のガラス扉に「このお店では日本製品は販売しません」というステッカーが貼ってあった。そこから500メートルほど離れた鍾閣駅そばのお店には、日本製ビールはあったが、「サービス価格」対象外になっていた。中年の男性店員に「日本のビールはどうして割引しないの」と聞いてみたら、「社長(お店の経営者)が決めたんだろう」と不機嫌そうな返事が返ってきた。さらに、500メートル離れた、仁寺洞にあるお店の場合、普通に「サービス価格」で販売していた。

 一方、やはり光化門近くのユニクロを訪ねてみた。日曜日の午後4時過ぎだというのに、1、2階の売り場にいた買い物客はわずか十数人。4人連れの女性客は中国語で会話をしていた。3人は西洋風の顔立ちのバックパッカーだった。スカスカの店内で、韓国人の従業員が手持ちぶさたにしていた。ただ、そのそばにある日本系の雑貨品店は大勢の買い物客で賑わっていた。

「ヌンチをみる」と「日本製は買えない」

 なぜ、こんなバラバラな状況が生まれているのだろうか。

「ヌンチをみているからだよ」。私が会った大勢の韓国の知人たちは異口同音に教えてくれた。「ヌンチをみる」というのは、日本語の「空気を読む」という意味に近いだろうか。

 40代の韓国外交官は週末、大型スーパーで日本製ビールを買おうとして、妻に止められた。「あなた、こんな時期にイルボンメクチュ(日本製ビール)なんか買って大丈夫ですか」と言われたという。

 知人の1人は「コンビニはフランチャイズ制だから、経営者の判断次第で、日本製品を売ったり売らなかったりするんだろう」と語った。

 曹渓寺近くのセブンイレブンの場合、すぐそばには、日本大使館近くに設置された慰安婦を象徴する少女像がある。水曜日ごとに日本に対する抗議集会も開かれている。一方、仁寺洞は土産物品を売る店がひしめき、日本人観光客にも人気の観光スポットだ。そういう「土地柄」が影響したのかもしれない。

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 朝日新聞前ソウル支局長として韓国社会を取材してきた牧野愛博氏による新著『 韓国を支配する「空気」の研究 』(文春新書)が好評発売中です。対日関係から若者の格差、女性の社会進出など、様々な角度から韓国の「空気」を読み解いています。

 

韓国の若者たちが「ヘル朝鮮」と嘆く激烈すぎる格差社会はなぜ生まれたのか へ続く

(牧野 愛博)

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