女優シム・ウンギョンの日本アカデミー賞受賞を韓国メディアはどう報じたか?

文春オンライン / 2020年3月9日 19時25分

写真

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、授賞式でスピーチするシム・ウンギョン ©日本アカデミー賞協会

 3月5日、日本政府が韓国に対する入国制限措置を電撃発表すると、韓国政府が翌日対抗措置を発表するなど、日韓関係が再び凍り付いている。しかし、少なくとも両国の映画シーンには春風のムードが続いているようだ。

 米国のアカデミー授賞式で4冠を達成したポン・ジュノ監督の映画「パラサイト 半地下の家族」が日本で大ヒットしている中、日本映画「新聞記者」に出演した韓国人女優のシム・ウンギョンが日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞した。シム・ウンギョンの受賞は韓国でも「かなり異例な事件」として報道されている。

 彼女の出演映画「新聞記者」は、2019年10月に韓国でも公開されたが、観客1万人という低調な成績で公開一週間で幕を閉じた。当時の「新聞記者」の興行成績の不振について、映画関係者は次のように分析している。

「当時盛んだったボイコット・ジャパンの影響で“生け贄”になったという意見もあるが、映画的な面白さにおいて韓国の映画ファンの期待に応えられなかった点は大きいだろう。韓国では社会派映画でもエンターテイメント的な要素が強くなければ成功できない。『新聞記者』はまさにその点で物足りない感じがした。しかも、映画の結末にむなしさを感じたという映画ファンの評価も多かった」

「政権批判」映画での受賞を強調する現地メディア

 シム・ウンギョンの快挙を契機に、この映画が再び韓国メディアから注目を集めている。彼女の受賞ニュースを伝える韓国メディアは、「新聞記者」が安倍政権を批判する映画であることを強調した。

 京郷新聞系列のスポーツ日刊紙「スポーツ京郷」は、韓国人女優が安倍政権を批判した映画で日本で受賞したことは非常に異例だと報道した。

「映画『新聞記者』は、安倍政権のデリケートなスキャンダルを真正面から扱い、昨年も日本国内公開の際には、見えない圧力に苦しんだ。自国でも苦労の末、やっと公開された映画に出演した韓国人女優が日本の有数の映画祭で最高の栄誉を獲得したことは、単に“記録”を超え、一つの“象徴”とも言うべきだ。特に、日本軍の慰安婦問題と関連した日本政府の貿易報復などで、韓日関係が友好的でない状況で成し遂げた快挙としてさらに意味が深い」

 朝鮮日報系列の女性誌「女性朝鮮」のインターネット版は、映画のモチーフになった加計学園問題に注目した。

「映画『新聞記者』は安倍政権を揺るがした加計学園スキャンダル(安倍政権が特定の私立の学校法人に獣医学部の新設に関する特別の便宜を図ったという疑惑)をモチーフにした。シム・ウンギョンは日本国内のフェイク・ニュースからコメント操作まで、政府が隠そうとする真実を執拗に追う社会部記者の吉岡を演じた。最近、同学園はまた別の話題を作った。獣医学科を受験した韓国人受験生8人の面接点数を0点として処理し、全員不合格にしたのだ。この問題も、最近、韓日のネット民たちから議論を呼んでいる」

 一方、SNSなどでは、シム・ウンギョンの快挙を祝う書き込みが溢れた。特に印象的なのは、韓国人女優に偏見なく最優秀主演女優賞を受賞させた日本に対する好意的な反応が多かった点だ。

「シム・ウンギョンさんの演技は本当にうまかった! 日本がそれを認めてくれたことに感謝したい」

「シム・ウンギョンさんもよくやったけど、日本映画界も大きな決断だったと思う。現政権を批判する映画に出演した韓国人俳優の受賞は大したことだ」

「驚いた、シム・ウンギョンさんにも日本映画界にも……。良心的で客観的な思考を持っている日本の芸術家たちに尊敬と喝采を送る」

「シム・ウンギョンさんの受賞を機に、金大中政権の時のような韓日関係に修復されればいいと思います。岩井俊二監督の映画『Love Letter』の『お元気ですか?』というセリフが大流行したあの頃が懐かしいです。今はとても辛いです」

「のだめ」リメイク版での挫折

 1994年5月31日生まれのシム・ウンギョンは、2003年、9歳の時、アジア全域で韓流ドラマの旋風を巻き起こした「宮廷女官チャングムの誓い」の端役でデビューして以降、現在まで計40本余りのドラマや映画に出演している若手実力派女優だ。

 少女時代のシム・ウンギョンは、可愛いイメージと大人顔負けの演技力で多くの韓流ドラマに出演した。韓流ドラマファンたちに高い人気を誇る「グンちゃん」こと、チャン・グンソクの出演作「黄眞伊」(2006年)ではタイトルロールの黄眞伊(ハ・ジウォン)の子役で出演し、ドラマ序盤の人気を牽引した。

 ヨン様ことペ・ヨンジュンの出演作である「太王四神記」(2007年)では、ヨン様の相手役のスジニ(イ・ジア)の子役を演じ、ヨン様の子役のユ・スンホとともに胸をときめかせるロマンスを披露してドラマ・ファンたちに深い印象を残した。

 シム・ウンギョンは、デビュー以来、映画シーンでも活発な活動を見せている。中でも、2011年に彼女が主演を務めた映画「サニー 永遠の仲間たち」は、次世代スターの仲間入りを果たすために決定的な役割を果たした。「サニー」のカン・ヒョンチョル監督は、筆者のインタビューに、シム・ウンギョンの魅力を次のように語った。

「良い俳優には、『テクニカルな演技力に優れた役者』と『芸術的な感受性に優れた役者』の2種類がいると思います。シム・ウンギョンは後者だと思います。初めて会った瞬間から、彼女の俳優としての感受性に圧倒されました。最初は私と目も合わせられないほど恥ずかしがる少女だったですが、台本を読ませた瞬間、まるで彼女の内部から何かが爆発するような感じを受けました。『サニー』の主人公・ナミは、自分だけの世界に閉じ込められていたおとなしい少女ですが、仲間たちに出会って変わっていくキャラクターです。ナミを演じるのは、シム・ウンギョンがぴったりだとすぐに分かりました」

「サニー 永遠の仲間たち」は韓国内で740万人の観客を動員したほか、日本などの外国でリメーク版が製作されるほどの大ヒット作となった。その後も彼女は、2014年の主演作「怪しい彼女」で870万人の興行を記録するなど、韓国映画界の代表的な人気女優として位置付けられるようになる。

 華やかなシム・ウンギョンの役者人生にも挫折はあった。2014年10月、彼女が主演を務めたドラマ「のだめカンタービレ 〜ネイル カンタービレ」が低調な視聴率で幕を下ろして以来、彼女はしばらくドラマシーンと距離を置くようになった。この作品は韓国でも人気の高い日本のドラマ「のだめカンタービレ」の韓国版リメークだ。

 制作プロダクションは「花より男子」の韓国版リメークで知られる韓流ドラマの老舗グループ・エイト。このドラマは当初、シム・ウンギョンではない別の女優が主演候補に挙がっていた。だが原作ファンの間で「のだめ役はシム・ウンギョン以外にはありえない」との反発が強く、オンラインでは視聴ボイコット運動まで起こった。

 結局グループエイド側は、多忙なスケジュールですでに出演を断ったシム・ウンギョンを再び説得し、のだめ役を任せた。キャスティング段階でファンの抗議によってヒロインが変わったという前代未聞の事件は、韓国メディアで大々的に報道され、大きな関心を集めた。しかし、予想外にドラマは平均5%台の低調な視聴率で幕を閉じることになり、シム・ウンギョンはしばらくの間、映画に専念するようになる。

「日本での活動は幼い頃からの夢」

 彼女は2017年に、電撃的に日本進出を発表し、韓国のファンを驚かせた。当時のインタビューによると日本進出は彼女の幼い頃からの夢だったという。

「日本での活動は幼い頃から持っていた夢でした。日本の映画や日本文化が好きで、いつか日本で活動をしてみたいという考えをずっと持っていましたが、今回とてもいいチャンスに巡り合うことができました。日本では新人なのでまだ私のことを知らない人もたくさんいると思います。(日本のマネージメント会社と)日本でどんな活動をするか、どんな作品に出演したいかについて、たくさん話をしています。お互いの意見をよく調整し、どんな活動ができるかよく考えたいと思います」(「エックススポーツニュース」2017年4月21日のインタビューにて)

 是枝裕和監督や岩井俊二監督の作品を中学生の頃から観ていたというシム・ウンギョン。数多くのヒット作を出して韓国映画界のトップ女優に上り詰めた彼女だが、それに満足することなく、再び初心に返り、日本での挑戦を選択した。そして、その結果が今回の歴史的な快挙につながったのだ。

 日本でも大好評の映画「パラサイト」やシム・ウンギョンの活躍をみながら、政治的な対立や国民感情の悪化を乗り越えられる映画の力を信じてみたい。

(金 敬哲/週刊文春デジタル)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング