法事のキャンセルで月収わずか1万円。現役住職が語るお寺業界のコロナ不況

文春オンライン / 2020年3月24日 6時0分

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「文春オンライン」編集部では、新型コロナウイルス感染拡大を受け、読者に「一斉休校・コロナ休校」についての体験談を募った。

 新型コロナウイルスでは学校の休校やイベントの自粛ばかりが注目されがちだ。しかし、なかには意外な職業の人もコロナ自粛で生活を脅かされている。関西地方でお寺を営む住職のクロノクルさん(仮名、47歳男性)もそのひとり。知られざるお寺の苦境を現役住職が打ち明ける。(取材・文=曽我部健/清談社)

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檀家さんから相次ぐ法事・法要のキャンセル

 コロナウイルスによって、住職である私の生活も一変した。関西地方にある小さなお寺のため、もともと檀家さんの数が少なく、食うや食わずの慎ましい生活を送っていたが、コロナの流行とともにその少ない収入も絶たれた。

 感染拡大を理由に、このところ檀家さんからお参りのキャンセルが相次いでいるからだ。3月18日現在、今月の御布施の総額はわずか1万円余りしかない。

 ただでさえ政府が国民に不要不急の外出を控えるように要請している折、ウイルスの感染が怖い、法事を自粛すると言われたら、無理にすすめることはできない。そもそも、お経を唱えるときはマスクを着けるわけにいかず、声も大きくなりがちなので飛沫が飛ぶ。それをリスクと捉えられると、「そういう事情なら仕方ありませんね」と返すほかない。

 結果として、私のお寺では3月の前半2週間だけで5〜6件のお参りがなくなった。小さなお寺にとって、これは死活問題。それぐらい現在のお寺の経済状況は厳しい。

 坊主丸儲けという言葉があるように、世間には「お坊さん=お金を儲けている」とのイメージを持つ人が多い。たしかに、なかには高級車を乗り回したり、夜の街で遊んだりする住職もいる。

 しかし、実際に儲けているのは宗派の本山や人口の多い地域の大きなお寺など、ほんのひと握り。お寺の世界にも勝ち組と負け組がいる。負け組の小さなお寺、それも私のように、家庭の事情で兼業から専業に切り替えた小さなお寺の住職の場合、その収入は日本人の平均年収にも遠く及ばないのが実情だ。

ひと月の収入は平均10万円台だったが……

 一般的なお寺の場合、収入の中心は月命日の月忌参りで、これが一般の会社員の基本給にあたる。年忌は、一周忌、三回忌、七回忌などと、毎年あるわけではない。

 私のお寺は、月忌参りがなく、祥月参り(亡くなった方の年1回の命日参り)と年忌法要のみ行っている。このため、ひと月の収入は平均すると10万円台だ。ここにお葬式が加わることで、なんとか生活を維持している。

 ただ、人がいつ亡くなるかは誰にもわからないので、お葬式は月の収入として計算に入れられない。月忌が基本給なら、お葬式は特別手当のようなものだ。

 私のお寺は今年に入ってからお葬式がなかった。そこへ運悪くコロナの流行によるイベントの自粛が重なったことで、収入がほとんどなくなってしまったのだ。

社会に危機が訪れると、法事は真っ先にカットされる

 問題は、法事の自粛が一時的なものでは終わらない可能性が高いことだ。

 コロナの流行もいつかは終息する。しかし、その後に法事を再開する檀家さんは非常に少ないだろう。社会に何か大きな危機が起きて法事を一旦やめると、多くはそのままになる。事実、阪神淡路大震災のときがそうだったし、先代の住職に聞いた話ではバブル崩壊の後も同じだったという。

 近年は全国的に法事の簡素化が進み、お葬式も直葬が増えている。多くの人にとって、なるべく仏事にお金をかけない、かけたくないというのが正直な気持ちなのだ。生産性があるわけではなく、生活に直結するものでもないので、法事の費用は支出を抑えたいときに真っ先にカットされてしまう。

 それでも、私のお寺が所属する宗派の本山は、法事のキャンセルが続きお寺の経済状況が厳しいからといって“上納金”を免除してくれたりはしない。これは本山や教区(本山の出先機関)から徴収される賦課金のことで、一種の税金でありフランチャイズ料のようなもの。その金額は年間40万円に及ぶ。

 人口減少時代に突入し、過疎化で檀家が減ったにも関わらず、本山による賦課金の見直しなどもない。これだけ生活が苦しいのに、本山に納めるお金もプールしておかなければならないのだ。

住職は休業補償も対象外

 しかし、政府は小さなお寺の救済や補償は考えてくれていないようだ。

 自営業者やフリーランスには休業補償として「一律で日額4100円」の支援策が打ち出されたが、檀家さんから口頭で依頼されるお寺の法事には契約書類が存在しないため、申請することもできない。それ以前に、この補償は子どもの休校で仕事を休まざるを得ない場合に限られるので、独身の私には当てはまらない。

 中小企業や小規模事業者向けの新たな貸付制度も創設されたが、先が見通せない状況で新たな借金を作っても返済できる保証はない。結局、救済策は何もないに等しいのだ。

 もはや住職もきれいごとを言っている場合ではない。私たちも生きていかなければいけないからだ。現在は貯金を切り崩してなんとか生活しているが、この状態が長く続けば生活は破綻する。政府には一刻も早く抜本的な救済策を打ち出してほしい。

(「文春オンライン」編集部)

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