「死ぬまで運転するつもり」の高齢ドライバー 家族はどう手を差し伸べればいいのか?

文春オンライン / 2020年4月1日 6時0分

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『うちの父が運転をやめません』(垣谷美雨 著)KADOKAWA

 高齢者が車の運転をやめない。運転能力の衰えに自覚のない高齢ドライバーが事故を起こし、ニュースになる。「またかよ、いい年なのだから、運転をやめればいいのに……」。そう思ったことのある読者は多いのではないだろうか。

 だが、もしその「高齢ドライバー」が自分だったら? あるいは、自分の家族だったら?

 社会問題をテーマにした小説で数々のヒットを飛ばしてきた垣谷美雨さんの最新作『 うちの父が運転をやめません 』は、「高齢者の運転」が決して他人事ではないということを突きつけつつ、前向きに考えさせてくれる小説だ。

「自分だったらどうするか、という思考実験が好きなんです。また、深く掘り下げて考えてみたくなる題材が、いつも社会問題なので、それをテーマにした小説が多いですね。高齢ドライバーの問題は、まず編集者に提案されて、資料本を送ってもらったんです。それで調べていくと、行きつくところは高齢化社会であり、過疎地の問題である、ということが浮き彫りになってきました。老齢になって反射神経が鈍くなったとか、運転技術がどうのという、個人の問題というよりも、少子化が進む日本をどうやって維持していくか、税収が減っていく近未来にインフラ整備はどうするのか、という、巨視的な問題であるということがわかったんです。そこで私なりに、解決策をひとつでも提案できれば、という思いから書き進めました」

 東京の大手企業に勤める猪狩雅志は、共働きの妻・歩美と一人息子・息吹の3人暮らし。最近扱いが難しくなっている息吹を連れて田舎の実家に帰省中、駅まで車で迎えに来てくれた78歳の父の危なっかしい運転と、車についていた凹みに危機感を覚える。だが、「運転をやめたら生活できん」「死ぬまで運転するつもり」と口にする頑固な父をうまく説得できない。一方で雅志自身も、好きでもない仕事に数十年を費やしてきた自分の人生を振り返り始める。さらに息吹は田舎の農業高校に転校したいと言い出すが、歩美は東京で働き続けることを選ぶ。雅志は家族のために、そして何より自分自身のために、ある決断をする。

「小説を執筆する時、登場人物全員に『乗り移って』書いています。『乗り移る』というと何やら不気味ですが、要は、個々の立場に立って、自分ならどう行動するかをじっくり考えます。そうしなければ書き進められないからなのですが」

 本作では、雅志は高齢になった両親のために奔走するが、自分に寄る年波に気づかされ、将来を考える場面も多い。

「みんな平等に年を取るという当たり前のことを改めて考えてみてほしいと思います。誰一人として他人事ではないはずなのに、老人を異星人のように扱ってしまう“嫌老”の風潮があります。年齢以外でも、見た目だけではわからない身体の不調や様々な事情を抱えている人も、想像以上に多いと思います。成熟した社会とは、他人に寛大な社会を指すのではないでしょうか。40代以上の大人が、率先して弱者や困っている人に手を差し伸べ、その姿勢を若い人に手本として示していかなければならないと思います。そうでなければ、どんどん荒んだ社会になる気がしてなりません。本作は、高齢ドライバーの現状を分析して訴えるだけでなく、それをきっかけにした家族の物語になっています。家族としてどのように手を差し伸べればいいのかを考えるきっかけになれば幸いです」

かきやみう/1959年、兵庫県生まれ。明治大学文学部卒。2005年、「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞し、デビュー。著書に『夫のカノジョ』『老後の資金がありません』『うちの子が結婚しないので』など。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年4月2日号)

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