箕輪厚介氏「セクハラ問題」に見る、成り上がりとコンプレックスと業界あるある話

文春オンライン / 2020年6月8日 17時0分

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箕輪厚介氏 ©文藝春秋

 かねて噂され続けてきた幻冬舎・箕輪厚介さんのセクハラ問題、やっぱりというか、文春砲がエイベックス・松浦勝人さんのネタのついでにブチ込んできて爆炎が上がり、関係者が総立ちになっていました。

 やはり、文春はこうでなければなりません。

才能のある人物ではあるけれども……

 大前提で言うならば、箕輪さんは才能のある人物であり、その才能と隣り合わせに、人として駄目な部分、アカン行為があるわけでして、稼げる人物が聖人君子とは限らない、という過去の事例を見事に踏襲するのです。人間誰しも生まれ落ちた瞬間から罪を背負って生き抜いていかねばならず、人の成功も、挫折も、すべてはその人の内面に理由があるのでしょう。

 箕輪さんの場合は、その問題が下半身にあったわけです。あくまで彼の才能を見て「ああいう人だけど、仕事はしっかりしているよね」と見るか、逆に「ほら見ろ、そんなに世の中うまくいくわけがねえんだよ」と煽るかは人それぞれです。

 そして、今回の箕輪さんの問題というのは、本人そのものがどうなのかというよりは、舞台装置がなかなか豪華であります。すでに報じられている通り告発者のA子さんは、そもそも幻冬舎から箕輪さんを担当編集としてエイベックス・松浦勝人さんの本を出すために仕事を請け負った、はずだった、というところからスタートしています。

首相公邸で安倍晋三さんや他経営者と写真

 エイベックスの社員でもあったA子さんは、松浦さん本人に取材を重ね、闇紳士を含む面白人脈から適法性が怪しい素敵薬物まで文春砲に爆薬を目いっぱい詰めてぶっ放したあたりに「やりおったか」感はあるのです。一方で松浦さんに関する告発記事が音楽業界大物ネタだったとするならば、箕輪さんはあくまでスター編集者とはいえ一介の雇われであり、業界的には単に目立つ実績のある人に過ぎません。

 しかしながら、その幻冬舎と言えば業界きってのアツい人・見城徹さんが率いる風雲児というか積乱雲のような出版社で、首相公邸で時の総理・安倍晋三さんや他経営者と一緒に写真を撮るような旺盛な権力欲をお持ちです。かと思えば、神戸児童連続殺人事件を引き起こした酒鬼薔薇聖斗の本を出そうとしておおいに物議を醸し、最終的に太田出版にぶん投げて遁走し業界的に大爆笑されるという事例もありました。基本的に、幻冬舎は単なる出版社というよりは見城徹さんが楽しくやりたい放題やるための器という意味において「見城組」とも呼ばれる不穏な組織体であるとも言えます。

「NewsPicks」の集客力を使ってスター著者を育てる

 そして、箕輪さんは出版社・幻冬舎の金看板を掲げながら、ビジネス界の実名2ちゃんねると名高い「NewsPicks」の集客力を使って数々のスター著者を育てていきます。一時期は大変成功したこの手法は、まさに熱狂的で爆発的な制作能力を持つ箕輪さんの独壇場とも言え、堀江貴文さんにいたっては本人が原稿を執筆しておらず、校正で一度しか読んでないのに自分の名前で本が出て、それはほぼ全部箕輪さんの執筆によるものであるという、もはやゴーストライターがゴーストにすらなってないというレベルでコペルニクス的な所業までやってのけます。

 これ、信頼関係があるとか、ビジネスの構築力がどうとかいう話ですらなく、究極の粗製乱造をマーケティングでしっかりと売り切る仕組みであると言えます。だって、担当編集者自身が「5時に夢中!」(TOKYO MXテレビ)などで「(堀江氏)本人は一文字も書いていない」と豪語する本が、『堀江貴文・著』となり、幻冬舎から出て、TwitterやNewsPicksで煽られれば信者が鈴なりになって買ってくれてベストセラーになるんですよ。

 さらには、そういうNewsPicksや著者のコミュニティをテコにして、有料サロン・箕輪編集室を立ち上げ、我こそはと思う市井のワナビーの皆さんをかき集めておカネを取り、一介の編集者なのに毎月600万円以上の売上があると豪語するビジネスの仕組みを作り上げます。

 もちろん、箕輪さんというのは媒介となる編集者に過ぎないのですが、この人と一緒にいると、きっと何か仕事が回ってきたり、凄い人と知り合いになれそうというハロー効果(錯覚資産)を駆使してビジネスに仕上げていくわけですよ。もちろん、そういうところに参画して生き生きと楽しく社会人サークルを楽しめる人からすれば大満足ですし、それが参加者の納得を得られているのであれば問題ありません。

「どれだけ幻冬舎を利用してきたと思ってるんだ」

 しかしながら、さすがにNewsPicks(ユーザベース)側も馬鹿ではなく、これはいつまでも続けられないし、自前の編集部を作ったり、他の出版社とも連携を取らなければ幻冬舎に母屋も取られかねないと危惧します。昨年、NewsPicksはやんわり距離を取る申し入れを幻冬舎にしたところ、見城徹さんがマジ切れ大激怒。ツイートで見城さんが「どれだけ幻冬舎を利用してたと思ってるんだ」とぶちまけるに至ります。

 もちろん、第三者の目からすれば当時1か月のビジネス系読者360万人以上を抱えるNewsPicksを利用していたのは幻冬舎のほうなのですが、見城徹さんに言われたら何となく「あっ、そうなのかな?」という迫力があるんですよね。なんかこう、向こうの山の上からもくもくと積乱雲が上ってきたぞー、みたいな。

「あーー。それはあるな」と思ったわけ

 そして、今回のA子さん問題では見城徹さんや箕輪さんを含む幻冬舎全体のビジネストラブルまで暴露されることになるのですが、出版業界やそこから派生したウェブニュース業界というのは、往々にして昔ながらの「そんな発注はしていない」とか「入稿してもらったけど、期待する品質になってないから受け取らない」といって、下請法違反ど真ん中の未払いが一部存在しているのもまた事実です。

 私も書き手として、いままで何度も「入稿したのに原稿をボツにされて100円も入金されない」ということは経験してきましたし、発注する編集者と、泣きながら締め切りを守って記事を書く書き手の間の力関係を考えれば、平然とこういうことは繰り返されるのですよ。

 発注を請ける側は、基本的に次もまた発注してくれることを期待して、相手の機嫌を損ねないように立ち回り、泣き寝入るしかありません。いくら腸(はらわた)が煮えくり返っていたとしても、笑顔で対処するんですよ。頭を下げるのは相手の判断や能力や人格ではなくて、その会社の看板であり売る能力であり「そこの会社と付き合っている作家、ライターである」というブランド力です。何がアカンかったかなと記事を酒飲みながら読み直して、これを評価できないお前らが馬鹿だと愚痴を垂れながら枕を涙で濡らしてフテ寝するんです。

 繰り返される私の没原稿フテ寝事件の話はどうでも良くて、「プロデューサーや編集者から依頼を請けて制作物を納品する」という仕事において言えば、見切り発車は多いし、「やるという仕事がなくなったので払わない」、「受け取ったけど気が変わったので品質が悪いということにして払わない」、「後から他の人に発注したので払わない」なんてことはパワハラ以前の問題としてあります。だからこそ、A子さんが箕輪さん問題で行った告発は「あーー。それはあるな」と私は思っちゃうわけですね。もうね、身近にあるあるすぎて。

 ご本人たちの釈明や見解は別にして、業界全体でそういう異常な発注でも罷り通ってしまう慣行はやめたほうがいいと思います。

まだ出てもいない本をAmazonランキング1位に

 さらには、箕輪さん問題というのは、凄い能力のある箕輪さんが全力で著名な書き手のゴーストを繰り広げている、また著者との壁打ち(著者と編集者とのテーマの作り込み)も相当に頑張ってやっている、という中で、NewsPicksや箕輪編集室のような読み手の「イケス」を使って強引に本を売りに行く手法の是非でもあります。

 いわば、「AKB商法」と言われた、出したCDに握手券を突っ込んで、ファンに何枚もCDを買わせる仕組みと同様に、NewsPicksの識者同士で「この本は素晴らしい」「この著者は凄い」とお互いに胴上げして成層圏を突破する一方、無邪気にそういう人たちの推奨を信じる一般の人たちのイケスに向けて書籍をぶん投げて1万、2万と売る。さらには、そういうイケスにいる人たちを動員して、まだ出てもいない本を「Amazonランキング1位にしよう」とTwitterでセールスを仕掛ける。

 こういう本の中身よりも著者とタイトルと売り方にフォーカスして、次々とベストセラーを作り上げていくのが箕輪流であって、それができちゃうのもまた箕輪厚介の天才性であったとも言えます。こんなことをコンスタントにできる編集者はいないし、出版社がやろうと思っても実現できないんですよ。

仲間内では通用しても……

 文春オンラインが 5月30日付の記事 で報じた、箕輪編集室のサロン会員向け動画の中で、俺は悪くないと強がるのも、「箕輪厚介とはこういう人だ」という内輪でなら通用するキャラ付けによる強弁だろうと思います。でも、それは仲間内では通用しても、第三者がしげしげと鑑賞できてしまうとなると、一気に恥ずかしい展開になるだけでなく、セクハラ行為をしておきながらしゃあしゃあとこんな発言して大丈夫なのかという批判を受けることになります。

 翻って、出版業界の売れ線を作るにあたり、ビジネス書から自己啓発まで幻冬舎・箕輪厚介さんが作り上げた売るためのサイクルは偉大です。内容よりも売れる仕組みができればよいのだというAKB的な支持の仕組みと、いや、本というものはきちんと中身があるものであるべきだという古き良き出版サイドの価値観とが交錯するのですよ。

 確かに、箕輪厚介さんが動画の中で言っていたように「批判している奴は嫉妬」というのもまた一面で事実なのは間違いありません。売れる本を作れる人が正義だからこそ、その仕組みを作った箕輪さんが一介の編集者に過ぎないのに文春砲の対象になったわけだから。

 そして、嫉妬というエネルギーが充満していたからこそ、あいつは許せんという燃料と共に、一気にネットで空気爆発に至りました。人気商売とはこういうものであって、これを糧に、いろいろ反省もしつつ箕輪厚介さんにはさらなる話題の中心に来て欲しいですし、もう少しでいいので、著者がしっかりと本の内容や執筆に向き合う作り方に変え、刊行物の質を高めていっていただければと願っています。

(山本 一郎)

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