コロナでも倒産ゼロ!? 埼玉・西川口50軒の中華料理店が不況に強い“3つの理由”

文春オンライン / 2020年6月8日 11時0分

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2018年11月、西川口の「火焔山」で食べた新疆料理。この街では中国各地の味が楽しめるのだ

 新型コロナウイルス流行によって最も打撃を受けた業種のひとつが飲食業だ。5月25日に緊急事態宣言が全面解除されはしたものの、食事中のお喋りを控え、可能ならば持ち帰りや屋外での飲食を──と、「新しい生活様式」で提唱されている外食スタイルは、多くの飲食店にとっては売り上げの減少をもたらす。

 そこで、私が真っ先に心配になったのが埼玉県西川口付近の中華料理店街だった。すでに広く知られつつあるが、かつて違法性風俗店街で有名だった西川口は、それらが壊滅した2010年代に入ってから中国人向けの中華料理店が多数オープン。中国国内と変わらない本格的な中国各地の料理を楽しめる街として、食通の注目を集めてきた。

 だが、コロナ禍による自粛の波は当然、西川口にも襲いかかる。それどころか、新型コロナウイルスがもともと中国で発生したこともあって、中国国内のコロナ禍が一段落した今年3月以降も、中華料理店に足を運ぶ客は、おそらく他の飲食店以上に減っていると思われる。ゆえに、さぞかし大変だろうと思って取材に行ってみたのだが──。

 コロナ流行のなかでも意外とたくましかった、在日中国人の世界をごらんいただきたい。

「ナゾノマスク」販売に踏み切る店も

 すでに緊急事態宣言が明けた5月末、いざ西川口に行ってみると、50軒以上あるとされる中華料理店の営業率はせいぜい5~6割程度。また、いっけん店を開いているように見えてもテイクアウトとデリバリーしかやっていない店舗もかなりあるので、まともに店を開けているのは全体の3割弱くらいの印象である。

 たとえば、中国本土ではおなじみの薬膳スープ春雨のマーラータン(麻辣燙)を出す某店は、駅前通りに面した好立地にもかかわらず、私が入店すると「店内では食べられません」と店員が対応。テイクアウトとデリバリーだけらしい。

 この店は壁のガラスに大量のマスクとアルコールジェルの広告を張り出しており、もはや飲食店なのかマスク屋なのかわからない状態だ。同様の営業形態をとる店舗は、西川口に隣接する蕨の某団地(中国系入居者が多いことで有名)付近のタピオカ屋をはじめ、いくつかみられた。

「中国のコロナ禍が一段落してから、中国から輸入したマスクを日本で売るビジネスが流行りはじめた。僕自身、自分のWeChatに100件くらい『マスク卸します』という連絡が来たよ(笑)」

 西川口で事業を営む在日中国人・陳氏(仮名)はそう話す。もっとも、5月に入ってマスク供給が安定化してからは、中国製の「ナゾノマスク」の値崩れは激しい。陳氏は話す。

「うちの会社でも売ろうかと思ったが、検討した当時は仕入れ値が1箱50枚で2000円。お客さんへの売り値は2300円くらいしかつけられないから、イマイチ商売としてよくない。しかも『仕入れは1万枚から』なんて話だった。僕は手を出さないことにして正解だったな」

「3月からお客を店に入れていません」

 店舗の声も聞いてみよう。まず話を聞きに行ってみたのは、福建料理の「福記」( @YuuHayasi )だ。福清市出身の林さんが作る牡蠣入りの揚げ物・ハイリービン(海蠣餅)がメディアで話題になり、中国人だけではなく日本人のファンも多い名店である。

 いざ店に行ってみると、完全にテイクアウト・デリバリー限定の対応。なんと日本の他店舗がまだ通常営業をおこなっていた今年3月下旬から、福記はこの体制に切り替えていたらしい(ちなみに日本政府が緊急事態宣言を出したのは4月7日である)。以下、インタビュー形式でお伝えしよう。

──かなり早期から対応していますよね。

林: はい。やっぱり怖いですしね。ウチの娘も2月ごろから幼稚園を休ませていますよ。店は4月以降は、金・土・日だけ営業。お客さんの持ち帰りと、出前だけで対応しています。本当はまったく営業しないでおきたいくらいでしたが……。

──今回、中国国内の情報を得ていた人は動きが早かったですよね。私も2月中旬から厳戒態勢だったので、当初は周囲から浮きまくっていましたが(笑)。

林: いくら致死率が低くても、自営業者は感染したら大変なことになりますから当たり前でしょう。しかもウチの場合、上の子が5歳で下の子は生まれたばかり。しかもコロナで飛行機が飛びませんから、もしものときでも中国にいる親戚を頼ることができません。まずは身を守らないと。

──金・土・日だけ営業しているのは、最低限のランニングコストを確保するため?

林: ですね。自分自身への給料は削っても当面はなんとかなりますが、家賃や光熱費を多少はカバーしないといけなくて。現状がいつまで続くかわかりませんが、半年までならなんとか……もつかな。

西川口の中華料理店はなぜ潰れないのか?

──しかし、西川口の50軒の中華料理店は、聞いた話ですが5月末までの倒産はほぼゼロらしいんですよね。中国系の店舗はコロナの風評被害も大きそうですが、なぜみんな生き残っているんでしょう?

林: まず一般論としては、3点あると思います。1つ目は都心と比べて家賃がかなり安いこと。都内だと自粛中の家賃負担に耐えきれなくて早期撤退する店も出ているようだけれど、西川口ならしばらくは持ちこたえられる。

 2つ目は、西川口で中国人がやっている中華料理店は、少なくとも半分以上は家族・一族経営だから。人を雇っていなければ、いざとなれば人件費を圧縮できます。3つ目はお客さんに中国人が多い。コロナの流行中でも、中国人は中華料理を食べたがるから、一定の利用者がいるわけです。

──固定費が安い、人件費を圧縮できる、リピーターがいる……と。これが強い。

林: もっとも3番目については、ウチの場合は事情がちょっと違います。正直、お客さんが中国人だけだったら、今回のコロナ流行のダメージで、閉店を検討していたかもしれません。

──どういうことですか?

林: ウチは今年5月20日でちょうど創業してから5年なんですが、西川口は5年前だと中華料理店が5軒しかなかったんですよ。でも、いまは50店くらいあります。中国人客があちこちに分散するようになりましたから、中国人だけが相手の商売は5年前よりもずっとしんどいんですよね。ウチはさいわい、日本人のお客さんにも評価していただいているので、まだ続けますよ。

「東京に進出しなくてよかった」

 他の店舗についても聞いてみたい。日本人の西川口マニアの間で、この街の代名詞的存在となっているのが蘭州ラーメンの「ザムザムの泉」( @zamzamnoizumi )だ。甘粛省出身の回族(イスラム教を信仰する中国の少数民族)にしてカナダ国籍を持つマーさんがみずから打つ麺は、食通の間でも評価が高い。

 だが、この名店も緊急事態宣言に先駆けて4月3日から臨時休業。最近、6月12日からの営業再開がツイッターでアナウンスされたものの、なんと2カ月以上の完全クローズだ。

──コロナの影響について教えて下さい。

マー: 中国本土での流行爆発が伝えられた今年2月までは、新メニューを投入したこともあって、前年よりも売り上げが伸びていたくらいだったんです。でも、3月からはガクッと減った。

 4月3日からの臨時休業の理由は、ウチは店が狭いですし、万が一、お客さんに感染が広がってしまったらと心配だったからです。個人的には、私はイスラム教徒ですからステイホームだとラマダン(断食月)が過ごしやすくて、その点だけはよかったのですが。

──なるほど。ザムザムの泉は一時期、西川口の店を閉めて東京に出店する計画があったようですが、それも中止でしょうか。

マー: はい。東京に進出しなかったのは神様のお導きですよ。西川口の小さなお店だから、しばらく店を閉じていてもなんとか持ちこたえられています。東京に移っていたら、家賃負担に耐えられなかったかもしれませんね。

「在日中国人専用」宅配アプリも登場

──西川口で取材していると、意外と中国人のお店が無事な印象があるんですよ。正直、日本人のほうがオタオタしている印象すら受けます。

マー: 中国政府は開き直っていますが、中国人はコロナが自分の国から出ていることはわかっていますしね。中国政府がまともな情報を出すわけがないですから、コロナが危ないことを早期から予想していた人が多かったのではないでしょうか。私自身、自分の子どもにはかなり初期から気をつけさせていましたし。

──なるほど。別途取材したところでは、さすがにお客さんとの濃厚接触が多いスナックやマッサージ店は厳しそうな感じでしたが、飲食店はまだ「最悪」とまでは言えない。

マー: 飲食店について言うと、中国人のほうが(国内で『美団[Meituan]』などのフードデリバリーアプリが広く普及していることもあって)デリバリーの習慣が定着していることも大きいかもしれません。

『EASI』という在日中国人向けの、日本国内の中華料理店にオーダーできる宅配アプリまでありますからね。けっこう、すぐ来るんですよ。うちもいまに対応するかもなあ……。

「コロナが終わる日を待っている」

 というわけで、意外としぶとくコロナ流行への対応を見せている21世紀のチャイナタウン・西川口。日本国内で気軽に本場の味を楽しめる名店たちが、無事にアフターコロナの世界を迎えられることを祈りたい。

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 西川口の中国人以外にも、北関東の在日外国人たちはコロナ流行をどうやり過ごしたか? 群馬県のベトナム人、ブラジル人、ロヒンギャ、ムスリムのコミュニティに密着。詳しくは 『文藝春秋』7月号 (6月10日発売)掲載のレポート「失業、逃亡、集団感染 困窮する外国人労働者」をお読み下さい。

(安田 峰俊)

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