「北朝鮮兵士4人組とは本当に仲良しです(笑)」『愛の不時着』“耳野郎”役で大ブレイク キム・ヨンミンさんインタビュー

文春オンライン / 2020年6月14日 11時0分

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5月に行われた韓国のゴールデングローブ賞「第56回百想芸術大賞」のTVドラマ部門でドラマ『夫婦の世界』の好演により「助演男優賞」の候補にもなったキム・ヨンミンさん 

 今さら言うまでもない韓国ドラマ『愛の不時着』の人気ぶり。世界配信の「Netflix」に乗って、日本のみならず、タイやフィリピンなど世界各国でも大流行中だそう。

『愛の不時着』は、パラグライダーに乗った韓国の財閥令嬢で起業家でもあるセリ(ソン・イェジン)が竜巻に巻き込まれ、たどり着いた先の北朝鮮で、彼の地の将校ジョンヒョク(ヒョンビン)と恋に落ちるロマンティックラブストーリー。

 こう書くと、 “お決まりの”と思ってしまうが、幹となる南北国境38度線を超えたふたりの切ないラブストーリーに、脇役が固める枝葉の細部までが丁寧に描かれていて、韓国ではケーブルテレビ「tvN」史上最高の視聴率(21.7%、視聴率調査会社「ニールセンコリア」ケーブル基準)を記録した。

主役2人とともに人気だった “耳野郎”

 韓国で主役2人のスターとともに人気だったのが、北朝鮮兵士4人組と、 “耳野郎”と呼ばれる監諜(傍受)室所属の盗聴担当だ。 “耳野郎”は北朝鮮で使われる盗聴者の隠語で、仕掛けた盗聴器から人々の会話を記録して保衛部(警察)に報告する人物。主人公ヒョンビン演じる将校とは深い因縁で結ばれた大事な役どころだった。

 その “耳野郎”を演じたのは、これまで舞台を中心に活動していた芸歴22年のベテラン俳優、キム・ヨンミンさん(48歳)だ。『愛の不時着』に続いて出演した『夫婦の世界』(JTBC、日本では7月からKNTVで放映予定)も大ヒットとなり、韓国で今、時の人となっている。

 キム・ヨンミンさんに “耳野郎”の役作りや役柄への思い、撮影中のエピソードなどについて聞いた。

◆ ◆ ◆

「予想をはるかに超えるものになっていて驚いています」

ーー日本で『愛の不時着』人気が止まりません。出演された当時、これほどヒットすることは予想していましたか?

「韓国でロマンティックコメディの大家といわれるパク・ジウン作家(『星から来たあなた』や『青い海の伝説』などの作品がある)の作品ですし、ヒョンビンさん、ソン・イェジンさんというふたりのスターが出演するので多くの人に愛されるだろうと思ってはいたのですが……。その予想をはるかに超えるものになっていて驚いています。先日はインドネシアからファンレターを頂きました」

ーー “耳野郎”という人物を演じることになった時、どういう人物をイメージされたのでしょう?

「盗聴者というと、みなさんやはり拒否感がありますよね。耳野郎を演じるにあたって真っ先に思い浮かんだのが、ドイツ映画『善き人のためのソナタ』でした。これはベルリンの壁崩壊前の監視社会だった東ベルリンが舞台になっていて、主人公は国が危険人物とみなした人物を盗聴する役でした。

 ところが、盗聴するうちにその対象者である夫婦に共鳴してしまうんですね。盗聴する側は盗聴しながら葛藤する。私が演じた耳野郎もそんな存在ではないかと思いました」

盗み聞きするため、背中が少し丸まっていて猫背

ーー役作りのために特にされたことはあるのでしょうか。

「『盗み聞きするため、背中が少し丸まっていて猫背』。台本には、耳野郎の外見はこんな風に描写されていました。最初は少し芝居がかった表現でドラマでは不自然ではないかなあと思ったのですが、演じてみると、なるほど、自然と肩がすぼまって体が曲がってきました(笑)。

 耳野郎は10代からこの仕事についていて、なによりも罪悪感が心の奥底に染みついている。その罪悪感に自身が圧倒されている人物でした。そんな雰囲気を醸し出せるようにと思いながら、演じました。

ーー北朝鮮の方言も見事に駆使されていました。

「北朝鮮の方言は、2年前にたまたま北朝鮮の方言を使った芝居に出演しまして、その時に脱北者の方と会って、レッスンを受けました。もう忘れているかなあと思ったのですが、話し出したらまだその感覚が残っていて、今回はあまり苦労せずにできました。それでも、撮影現場では北朝鮮の方言担当の先生(脱北者)が常にいて、シーンごとにチェックしてもらっていました」

印象に残っているのは「ヒョンビンさんとのあのシーン」

ーー耳野郎を演じられて印象に残っているシーンはありますか?

「耳野郎には転機が2回あります。ひとつめは、ヒョンビンさん演じるジョンヒョクに、ジョンヒョクの兄を死に至らしめたことを告白するシーン。このシーンは、耳野郎がそれまで表現できなかった苦悩と懺悔、葛藤が一気に噴き出すシーンで、ジョンヒョクは兄の死の秘密を知って悲しみが押し寄せてくる。

 ふたりとも苦痛を感じながら、悲しみに包まれる、韓国では『感情シーン』といわれる、感情をぶつけ合う場面でした。

 ヒョンビンさんとはこのシーンの前に話は特にしなかったのですが、私が感情をこめている時にじっと待ってくれまして、そんな配慮がとてもありがたかったです。こんなことができるのは相手への信頼と共感があるからこそですから。

 そして、ふたつめはセリを追いかけていったジョンヒョクを探すため、北朝鮮兵士4人と共に韓国に入国するシーンです。それまで抑えられていた耳野郎の本能的に愉快な部分が、天真爛漫な北朝鮮兵士と行動することで呼び覚まされてどんどん変っていく。この韓国でのシーンの数々は忘れられません。実は韓国には入国できないとも思っていたので、感慨ひとしおでもありました」

ーー韓国に入国できない?

「耳野郎はその前に死んでしまうだろうと思っていたんですよ(笑)。台本は一度に6~8回(総16回)までが渡されるのですが、耳野郎は助けてくれた人を死に追いやったその苦しみから、なんとか恩を返そうとするだろう、弟のジョンヒョクのために命を投げうって真実を明らかにするだろう、そう思ったんです。

 その過程でおそらく死んでしまうだろうと。ところが、意外にも生き延びた(笑)。作家に聞いたら最初から韓国に行かせるつもりだったと言われました」

北朝鮮兵士4人組の素顔

ーー北朝鮮兵士4人組との仲良しぶりも日本では話題になっています。

「彼らとの撮影は本当に楽しかったです。目を合わせただけでおかしくて、現場では笑いを堪えるのが大変でした(笑)。

 セリ(ソン・イェジン)といつもやり合うチス(ヤン・ギョンウォン)は、ミュージカル俳優で、普段からとても気さくな優しい人。彼が有名になって本当にうれしいです。

 韓国ドラマを見ていたジュモク(ユ・スビン)は、実は本当にチェ・ジウさんのファンで、新しい台本が来た時に、『チェ・ジウ先輩と本当に会うんですよ』ととても興奮していました。それから撮影までずっと心ここにあらずで、撮影後はすごく幸せそうに『楽しかった~』って(笑)。

 グァンボム(イ・シンヨン)はとても寒がり。野外での撮影の時はホットカイロを10個くらい身につけていて、撮影が終わると『暑い、暑い』と言っていて(笑)。

 北朝鮮兵士役の4人は最初から撮影も一緒でしたので、韓国シーンの前にはすっかり親しくなっていて、そこへ私が合流した格好になりました。ですから、一番末っ子のウンドンを演じたタン・ジュンサンは、最初は遠慮がちに私のことを『先輩』と呼んでいたのが、どんどん親しくなるうちに『ヒョン(兄貴。韓国で親しい年上の男性に使う呼称)』に代わりました。

 その後、実は彼の父親が私よりも年が若いことが発覚して愕然としましたが(笑)」

ーー今でも連絡をとりあったりするのですか?

「カカオトークで北朝鮮兵士4人組と私の5人のグループチャットを作り、連絡を取り合っています。食事をしようしようと言いながらみんな忙しくて延び延びになっていたのですが、近いうちに会う予定にしています」

ーー日本では北朝鮮の暮しぶりとその風景が話題になりました。村のロケ地はどこですか?

「韓国の西海岸のほうです。井戸を中心にした村のセットには広い敷地が必要でしたから、山の中腹あたりに作られたのですが、冬に撮影したこともあって、本当に寒くて。次のロケが村だと知らされると、スタッフみんな『えーっ、またあそこに行くの』と悲鳴をあげていました。あまりにも寒すぎて撮影が中断されたこともありましたから。市場はまた別の場所にセットが作られました」

「ヒョンビンさんは男性からみてもすてきですよ」

ーー撮影で苦労されたのはどんなところでしょう?

「撮影期間が8カ月と長丁場だったことでしょうか。梅雨や台風などもあって天気に左右されたことも多かったですし、また、韓国ではスタッフの労働条件が改善されて、週52時間労働に合わせなくては違法になりますので、そんなこともあって撮影期間が少し延びました。

 耳野郎を虐めていたチョルガン役のオ・マンソクとは舞台の頃からの知り合いで、彼とはいつもエールを送りあっていました。とても面白く、現場の雰囲気を盛り上げてくれる俳優さんです。

 そんな風に互いにねぎらっていましたが、一番大変だろう主役のヒョンビンさんが、疲れたといったそぶりをみじんも見せなくて、これには感嘆しました。ヒョンビンさんは男性からみてもすてきですよ」

ーーもうひとりの主役、ソン・イェジンさんとのシーンで印象深いシーンはありますか?

「韓国に入国してからのシーンでの挨拶で『初めまして』ってセリ(ソン・イェジン)から言われるのですが、盗聴していたのでどんな人物か知っているためまごつくシーンでしょうか。ソン・イェジンさんとはあまり一緒のシーンがなかったのですが、台本を読み込んでいて、瞬間の演技に集中できる方で驚きました」

「みなさん、 “耳野郎”というあだ名で覚えてくださって」

ーー韓国ではふたつのケーブルテレビの視聴率記録を塗りかえる作品に立て続けに出演されて、人気が急上昇しています。日常生活で何か変わったことはありますか?

「芝居をずっとやってきて、ドラマは『ベートーベン・ウィルス』(2008年、チャン・グンソク主演)で小さな脇役で出演以降、時々本当に小さな役をやっていました。役らしい役は『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018年)からでしょうか。それでも、街を歩いていても気がつかれる方はほとんどいませんでした。

 ところが、最近はマスクをしていても “耳野郎”や”ジェヒョク”(ドラマ『夫婦の世界』での役名)を見ていましたって声をかけてくださる方も増えて、驚いています。特に”耳野郎”は、ドラマではチョン・マンボクという名前があるのに、みなさん、 “耳野郎”というあだ名で覚えてくださって。そんなことは今までなかったことなのでとてもうれしいです」

耳野郎の最後のシーンには「ああ、幸せになってよかった」って

ーー『愛の不時着』はキム・ヨンミンさんの俳優人生においてどんな作品となったのでしょうか?

「これほど視聴者の方に愛された作品は初めてで、役者人生の中で、こんな作品に一度巡り会えるかどうか……。『愛の不時着』に出演できたことは俳優として大きな幸運だったと思っています」

ーー最後に、『愛の不時着』の中でご自身が好きなシーンはどこでしょう?

「セリとジョンヒョクが平壌に向かう途中で汽車が停電し、汽車から降りてふたり並んで座るシーン。そして、合成して使ったのかと言われたほど壮大なスイスの山間のシーンでしょうか。

 あとは、やはり、耳野郎の最後のシーン。盗聴から離れ、映画撮影所で音を拾っているシーンで、ああ、幸せになってよかったって本当に思いました。このシーンは、台本には“『春の日は過ぎゆく』(2001年、韓国映画)のイメージ”と描写されていました。私のカカオトークの写真はこの音を拾っている耳野郎の後ろ姿です」

写真=Junwoo Cho

(菅野 朋子)

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