“あと1本”の西川遥輝選手 ファイターズの新キャプテンについていこう

文春オンライン / 2020年6月19日 11時0分

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「西川せん手 うったら それはつーさん1000本」の付箋 ©斉藤こずゑ

 ずっと貼ってある付箋がある。番組でのコメントやスケジュールがコロコロと変わる私の仕事には、付箋はなくてはならないものだけれど、普段は長く付き合う相手ではない。でも、いま、ずっと私の手帳には同じピンクの付箋が貼ってあってこう書いてある。どうせすぐ剥がすからと雑に書いたシーズンオフ。

「西川せん手 うったら それはつーさん1000本」。ひらがなのバランスもおかしい。最初は3月20日に、その後は開幕がここかと噂される度に、その日付へと貼り替えてきた。粘着力、もう限界。

入団会見で印象的だったコメント

 西川遥輝選手を最初に見た日を思い出す。2010年のドラフトの主役は1位指名の斎藤佑樹投手で間違いなかったけれど、早慶戦なども理由に彼は単独の入団会見を開くことが決まって通常会見では2位から6位までの選手が並んだ。当然、2位指名の西川選手は先頭となる。記者からの質問にも一番で答えていかなくちゃならない。

 まだ線は細かったけれど、背筋を伸ばして堂々と答えるその姿は、もうその時からクールさを身に纏っていて、もうその時から自分の意志と言葉をしっかり持っていた。特に「ファイターズで初の盗塁王を目指したいと思います」というフレーズは印象的で、自分の良さを客観視しアピールするのもうまかったし、所属するチームをよく勉強していることに感心した。

 2013年に陽岱鋼選手が獲得することで「ファイターズ初」ではなくなったけれど、2014年に初受賞、その後も合わせて3度の受賞はもちろんチームでは誰も成し遂げてはいない。

 西川選手がメジャー挑戦を口にしたのは去年の契約更改だった。チームメイトだった大谷翔平選手の存在が大きかったという。早ければ早いほど、という言葉が出たので、2年契約が切れる今年のオフにもポスティングシステムでということになるのかもしれない。私は寂しいというより、そのチャレンジに心が躍った。アメリカ・メジャーリーグの大きな大きな選手たちの中にシャープな西川選手が走る姿を想像して早くも誇らしくもなった。そして気づく。ということは、西川選手の胸元のCマークが見られるのはたった1年かもしれないのかと。

 キャプテン就任の報せはそれより少し前だった。プロ10年目でファイターズが北海道のチームになってから10人目のキャプテン。同じ数字が揃うのはいつだってちょっとうきうきするけれど、西川選手のコメントはもちろん引き締まったものだった。

「姿で鼓舞できるようにやっていきたい」

 これを象徴するようなシーンが開幕前にあった。

「ああいう野球を我々はやっていかなくてはいけない」

 6月10日、明治神宮球場、スワローズとの練習試合。同点になった3回の攻撃、1アウト2、3塁。サードにいた西川選手は中田選手が打ったセカンドフライをとっさの判断と足で犠飛にした。その瞬間の強風を読んで、スワローズ・山田哲人選手は捕球出来たとしても本塁には投げられないだろうと予測してサードベースを蹴ったのだ。中田選手の言葉をそのまま借りるなら「ハルキの神走塁」。

 そして栗山監督はこのシーンをこうコメントした。「いろんな動きを見ながら次の塁を狙っていくのは野球の大原則。ああいう野球を我々はやっていかなくてはいけない。ハルキのメッセージがみんなに伝わってくれたかなと思う」。コメントの途中には「素晴らしい」という表現も織り込まれた。

 足の速さ、打球の速さ、スピードを装備した者にはそれに見合う一瞬の判断力が必要となる。ファイターズのスピードスターは、そのすべてを持ち合わせている。才能に驕らない努力の上で。

 そういえば、マルティネス投手が「Haruki’s English is very good!」と言っていた。西川選手は積極的に外国人に話しかけるし、使う英語はとってもわかりやすいそうだ。キャプテンには外国人選手とのコミュニケーションも大切、そこもしっかりクリア。コロナ禍、外国人の不安もケアしながらシーズンを過ごさないといけない、と実際に話しているのを聞いて、気配りの力もさらに感じた。

「つーさん 1000本」まであと1本。

 私の手帳の付箋は今夜あっさりぺろんとはがされる運命だろう。次に近い記録は……250盗塁まであと5個、50三塁打まであと4本、どちらにしても残り1になったらピンクの付箋の出番だ。西川選手にとってはただの通過点、気にして騒ぐのはいつも周りばかりだけれどこれも応援の醍醐味。

 さて。わたしたちはどんな特別な夜を迎えるのだろう。あたりまえだと思っていたことがいとも簡単にあたりまえじゃなくなることを知った。1番・センター・西川遥輝、背番号7。このあたりまえがどんなに貴重なものなのかもよくわかった。

 誰も経験したことのないシーズン、チームと共に新キャプテンにファンもついていこう。試合は120しかないから、結構なスピードで駆け抜けることになりそうだ。振り落とされないようにしっかりとつかまって進もう。

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(斉藤 こずゑ)

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