ライオンズ×プリンスホテルのリモート応援で「観戦体験」への理解を深めてきた件

文春オンライン / 2020年7月10日 11時0分

写真

6月某日、川越プリンスホテルのライオンズコラボルームへ「野球観戦」に向かいました。

 今日からプロ野球は観客を入れての試合が行なわれます。徹底した対策(などと主張しており……)のもと、上限を5000人(オリックスだけ完全復活の予感)に絞っての有観客試合。しかし、足元では不安の火種がくすぶっています。東京都では何日も連続して新規感染者が100人を超える状況。小池都知事は「不要不急の他県への移動を自粛」するように求めました。ようやく迎えた有観客での再始動の日も、東京都内での試合はありません。おお巨人とヤクルトよ、2球団いっぺんにほっともっとフィールド神戸に行くだなんて……。

 一歩前進はしましたが、まだまだこうした状況はつづくでしょう。「観客」にはなれない状況がつづくなかで、いかに楽しい試合にするかというのは運営側のテーマであると同時に、ファン側のテーマでもあります。もちろん家でただテレビを見ていることに何の不足があるわけではないですが、もっとこの観戦体験を高めたい。そう思って繰り出したのが埼玉西武ライオンズとプリンスホテルが提供する「埼玉西武ライオンズ“みんなで繋がる”リモート応援プラン」。プリンスホテルに泊まり、ファン同士をZoomでつなぎながらライオンズの試合を見る。そんな特別な体験のなかで「観戦体験」とは何か、改めて理解が深まったような気がします。

球場以上のリモート「観戦体験」

 ホテルのロビーに入ると、今年からリニューアルされた球団応援歌「吠えろライオンズ」が流れています。広瀬香美さんの圧の強いハイトーンボイスが無限にリピートされる空間には、ライオンズ選手の立て看板やのぼりが掲出されています。無観客試合は「音」に注目……なんて論評を数多く見ましたが、まさに「音の圧力」といった雰囲気でプリンスホテルは出迎えてくれます。西武球場前駅に降り立ったあと、無限に松崎しげるさんの歌声が流れてくるあのうっとう……じゃなくてにぎやかさが十分に再現されています。ホテル従事者の方に「一日中聴いてると疲れますよね?」という顔でニッコリ会釈をすれば、爽やかな笑顔を返してくれます。出だしから気分は上々です。

 フロントでスッと差し出す株主優待1000円引き券の束とファンクラブ会員証。「株主様でファン様ですか」とVIPでも待遇するようにフロントの方は対応してくれます。利用者には、球場に来たときと同じようにLポイント(ファンクラブのポイント)を付与してくれるとのこと。チェックインのサインをするボールペンは消毒済のものと使用済のものがハッキリと区別されており衛生的で安心です。手続きを終えるとホテル従事者の方から次々にモノが渡されます。球場と同じ弁当、本当は来場者に配るはずだったチャンピオンリングとピンバッジ、球場と同じデザインの入場チケット、さらにはビールを買えば球場と同じ紙コップまでくれます。来ている場所が球場ではないことを除けば、ここまでの体験はすべて球場と同じ、いや隙間風や虫がこなくて快適なぶん球場以上です。

 そして何故か渡されたホワイトボードとサインペン。応援メッセージでも書くのだろうか……?と腑に落ちないまま客室に入れば、客室にはさらにもう1組ホワイトボードとサインペンが置いてあります。これがサッカーなら磁石を並べてフォーメーションでも指示するのかなと思うところですが、野球観戦でホワイトボードはピンとこないアイテム。つば九郎が他球団の悪口を書く用途くらいしか思いつきません。どうしてもホワイトボードを押しつけたいホテル側の意図がわかるのは試合が始まってからのことでした。

MCから告げられた驚愕の事実

 このプランではファン同士がZoomでつながるというのが最大のウリでした。部屋のテレビで試合を映し、自分のスマホでZoomをして、みんなで一緒に応援をするのです。フロントで渡されたマニュアルに沿ってZoomの会議室にインすると、いつもメットライフドームでファンを盛り上げてくれているスタジアムMCのHARUさんが待っていました。HARUさんの登場に「MCまでいるのか!」とテンションもアゲ気味で「HARUさーん!」「絶対勝とうね!」「メットライフエクササーイズ!」と呼び掛けますが特に反応はありません。ハイハイ、マイクがミュートになってるんですね……とZoomアプリを操作しますが、マイクが反応しません。

 そのとき驚愕の事実が告げられました。

「みなさまが一斉にお話をされてしまうとイベントの進行に支障をきたすため、参加者のマイクはミュート設定にさせていただいております」と。

 え、コッチの音出ないんですか!?

 じゃあ、どうやってつながればいいんですか!?

 そうです、その答えが先ほど絶対に漏れがないように2枚押しつけられたホワイトボードだったのです!

 イメージでは参加者同士がワーとかキャーとか言って、得点が入ればみんなでオオオオ!と盛り上がったり、何なら応援歌を歌ったりする集いを想定していましたが、フタをあければまさかの大喜利大会の様相。カメラに向かってホワイトボードで応援メッセージを出し合い、MCの呼び掛けにホワイトボードで返事をしたりと手元が忙しい観戦となります。ほかの部屋の人と交流するとか、何なら部屋をノックされるくらいまで想定していたのですが、気がつけばホワイトボードを消したり書いたりするので手一杯です。

 イニング間にはMCが一生懸命ファンの気持ちをつなげようと質問タイムを設けたりしてきますが、「メットライフドームのいいところってどんなところですか?」という普通に答えに窮する質問をされた際にも、「駅近」と書き込んだホワイトボードが大活躍してくれました。あと、その日の試合はボッコボコに打たれて8回表途中で8点差をつけられる大負けの展開だったのですが、「日ハム相手なら8回8点差からでも逆転できる!」と書いたボードを即座に「9点差になった」「10点差……」に書き換えることができてホワイトボードは本当に使い勝手抜群でした(※最終的には2-12で負けました)。

 4回表終了時のメットライフ・エクササイズ。7回表終了時のライオンズラッキーセブン。源田壮亮キャプテンや、川越プリンスホテルに絡めて登場した川越誠司選手らの特別なメッセージ動画。10点差がついて負け確定と思ってるはずなのに「最後まで勝利を信じましょーう!」と懸命の気休めで呼び掛けてくれるMCのHARUさんの奮闘。敗戦後にはファンを慰めるためにレオとライナもZoomに登場してくれました(※もちろん筆談)。球団が用意した出し物はとても楽しいものでしたが「思ってたんと違う」ものであったことは否めません。最後のほうは「ラジオ番組に一生懸命ハガキ送ってる」みたいな気持ちで参加していました。

野球のための「異世界」作りでいつも以上の楽しみを

 夢に見たような「Zoomでつながる観戦体験」はそこにはありませんでした。

 だからと言って、この観戦がつながりを欠いた寂しくつまらないものだったかというと決してそうではありません。

 互いに会話をすることだけが「つながる」ではないのです。声は聞こえなくても画面の向こうには確かにライオンズを応援する仲間がいて、ホワイトボードに書き込みをしています。MCの呼び掛けにチャット機能で反応し、10点差をつけられたときには不思議と画面の動きさえ鎮まりました。それは球場にいても同じこと。居並ぶのは会話をするわけでもない他人同士ですが、同じ気持ちでそこにいると感じること、それを強く実感できることが大切なのです。

「感じる」ことができれば、それは「現実」になる。

 まさにそれこそが観戦体験と自宅でのテレビ観戦との差です。率直に言って、目で見ることで得られる情報はテレビのほうが上です。もちろん球場でなら画面に映らないものも見ることができますが、人間の目はそんなに優秀ではありません。遠くは見られませんし、スロー再生やリプレイもできません。耳だって実況や解説の助けがあるぶんテレビ観戦のほうが多くの情報をキャッチできます。家でテレビを見ていたほうが試合のことはよくわかります。

 ただ、家ではテレビ画面以外のあらゆる部分がいつもと同じ日常を主張してきます。いつもと同じイス、いつもと同じテーブル、自分のコップに自炊のご飯。部屋の匂いや踏みしめる床の感触、暑いとか寒いとかの皮膚感覚。全身で感じる情報に変化がないので「家」にいる気分が拭えない。そこであえて場所を変え、服を着替え、食べるもの・飲むものを変え、自分の道具はなるべく使わず、スマホさえZoomに占有させることでLINEやTwitterなどの日常のつながりを封じてみる。

 いつもの家ではない「異世界」へと踏み出すことで、全身で感じる情報は違ったものになりますし、もしもそれが野球一色に統一された情報であれば、野球観戦であるかのように錯覚することさえ可能です。スタジアムに入場したときの「野球観戦に来たなー!」と思うあの感覚は、まさに「異世界」に到着したときのそれ。目の前に広がる野球でしか見ない不思議な形の地面と、野球でしか聞かない音(カキーンとか)や言葉(かっせーかっせーとか)、野球以外ではまったく接点のない人々。全身を通じて外国にでも行ったかのような錯覚をさせてくれるのがスタジアムでの観戦体験です。

 だから、「異世界」の演出を徹底すれば、仮にそこがスタジアムでなくとも今まで以上の気分になれる。ホテルに入ったとき、客室のドアを開けたとき、Zoomにつないだとき、自分の周囲が異世界へと変わっていくごとに高まっていく「野球観戦に来た」ときのような実感をライオンズ一色の客室で僕は覚えました。実際にやったことは「ホテルでテレビを見る」であったとしても、受け取る異世界観は格段に違うものでした。まさしく「野球観戦」でした。

 これから先しばらくつづく感染症を警戒しながら暮らす状況を前に、本来ならチケット代に充てるはずだったお金を「異世界」づくりに充てることで、現地には及ばないまでもいつも以上の楽しみを感じていけるはず。幸いにして各球団は球場の食事をテイクアウトする仕組みや、自分の分身となる応援ボードや写真を球場に置く仕組み、なかには声やアクションを届ける仕組みも用意してくれています。どれも現地観戦が叶うときなら行けば済むことばかりですが、新しい状況に合わせて「異世界」を作る要素を小分けに売ってくれています。こうしたチカラを積極的に活用すれば「異世界」づくりはさらに捗ります。

 自分自身がいつ「観客」になれるのかはまだわかりませんが、野球のための「異世界」を作り、そこに没入して観戦をすることで、家以上現地未満の観戦体験を楽しんでいきたいもの。それが上手にできるようになったら、これから10年20年と長く使える技術となるでしょう。ご家庭でレストランみたいな食事を作れる人のように、テレビ観戦でもすっごい気分を出せる観戦体験の達人となってこの先の野球人生を充実させていけそうです……!

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/38706 でHITボタンを押してください。

(フモフモ編集長)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング