“外国人捕手”アリエル・マルティネスに、中日ファンの僕が本当に期待すること

文春オンライン / 2020年7月22日 11時0分

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アリエル・マルティネス

 とにかく中日ドラゴンズの試合を観るのが楽しい。

 野手がいなくなって三ツ間が代打で出てきたけど。

 ナゴヤドーム新記録の19失点を喫したけど。

 石川駿は二塁を踏み忘れたけど。

 その果てに最下位に転落したけど。

 それでも、中日ドラゴンズの試合を観るのが楽しい。アリエル・マルティネスがいるからです。

「外国人捕手」という偏見を打ち破れるか、歴史の分岐点にいる

 アリエルが何者かは、散々報道されまくっているのでもう説明不要でしょう。7月1日に育成から支配下契約を勝ち取り、3日の巨人戦に初出場、5日に初安打を放ち、球界に久々に登場した「外国人捕手」としてプロ野球ファンから注目を集めているキューバ人捕手です。捕手としての能力は評論家各氏からも折り紙付き、後は一軍で結果を出すだけという段階です。

 僕は7月10日、観客を入れた初日のナゴヤドームvs広島戦を観に行きましたが、婚約者のカミーラへ何度もインタビューしたせいで彼女が乗り移ったのか、一軍の打席に立つアリエルの姿を見ただけで思わず落涙してしまいました。

(カミーラが何者かは コチラ をご覧ください)

 とにかく人気が凄かったですね。アリエルが登場すると、球場のムードが変わるんです。この日はビシエドのサヨナラ本塁打がなければ、ハイライトは“代打アリエル”がコールされた瞬間でした。あの瞬間に、距離のあったグラウンドとスタンドがカチッとはまって一体感が生まれた気がします。

 先日出演した文化放送「くにまるジャパン極」でも、パーソナリティの野村邦丸さんから「矢吹さん中日ファンなんでしょ? アリエル・マルティネスの話をしてくださいよ!」と話を振られたのですが、野村邦丸さんは巨人ファン。「人気」ばっかりは育てられないので、他球団のファンからも注目されるこの宝物を、中日ドラゴンズには球団総出で大事に取り扱って欲しいものです。

 野球ファンから注目を集める最大の理由は、「外国人捕手」という偏見を彼が打ち破りかけているからでしょう。今後日本球界で「外国人捕手」が当たり前になるかどうか、アリエルの活躍に懸かっていると言っても過言ではありません。本人も「たくさん活躍をして、外国人のキャッチャーを日本でも呼んでもらえるくらい、それぐらい活躍したい」と意気込んでいるので、その自覚はあるのだと思います。「二刀流」に挑戦した大谷翔平もそうでしたが、これまでの常識を打ち破る選手の登場は歴史の分岐点にいるような気分にさせてくれます。来年以降、世界中からNPBに「外国人捕手」が集まってきたら、それは間違いなくアリエルの功績ですね。

 ただ、本コラムでは敢えて視点を矮小化して、中日ファンとしてアリエルに望むことを書きます。僕はアリエルに、「中日の育成の星」になって欲しいんですよ。

アリエルよ、「中日の千賀滉大」になれ!

 これまで、中日ドラゴンズに育成契約で入団し、支配下契約を勝ち取った選手は何人もいます。が、残念ながらタイトルを獲得するような、他の11球団からも求められるような選手はまだまだ出てきていないのが現実ですし、かつて育成で入団した藤吉優と呉屋開斗の二人は自主退団を球団に申し出ています。これは傍目に見ていて悲しいものがありました。やっぱりどう贔屓目に見ても、中日は育成契約という制度をまだ上手く活用できていないんです。

 それって、やっぱりまだ「育成の星」がいないからだと思うんですよ。間違いなく球界で最も育成契約を活用している福岡ソフトバンクホークスで、育成から支配下を勝ち取った大竹耕太郎はこんな風に話しています。

“大竹は、(中略)「千賀滉大」の存在が、自らの「指標」になったという。「千賀さんも育成4位。僕も4位です。頑張れば、僕も行けるんじゃないかと。いい意味で勘違いさせてもらいました」”(喜瀬雅則「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」(光文社新書)より)

 同じ3桁の背番号を背負っていた、同じ環境で練習していた選手が、球界トップの選手になって日本代表のエースになっている。この事実は育成契約の選手達にとって、本当に心の支えになっているはず。千賀という成功例がいなかったら、ソフトバンクの選手達でさえ心が折れていたかもしれない。中日にも、そんな“成功例”が必要だと思うんです。「1年目に(指導を受けた)小川コーチ、2軍の武山コーチに感謝したい」と話すアリエルが、中日の正捕手としてゴールデングラブ賞やベストナインに選出されれば、今は育成契約の大藏彰人やマルクだけでなく、来年以降入団してくる選手達の指針にもなります。2軍の指導者達にだって励みになるはずです。

 僕はその役割を、同じくキューバ出身のライデル・マルティネスに期待していたのですが、今季アリエルが大外から一気にまくってきました。アリエルの活躍が、外国人捕手だけでなく、実は中日の選手育成にこそ新たな扉を開いてくれる。そんな期待が止まらないんですよ。だから繰り返しになりますけど、中日ドラゴンズの試合を観るのが本当に楽しい。

 繰り返しになりますが、そのためにはまずアリエルが他球団からも“こんな選手が欲しい”と思われることが必須条件です。でも、それも時間の問題かと。初安打を放った5日巨人戦の後、原辰徳監督は記者達にこう話しています。

「バッティングもシュアだしね。まだ彼は若いんでしょ?」

 ほら、原監督は既に興味を示していますから……。

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(カルロス矢吹)

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